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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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米の扱い方

やがてとぐという、いわゆる洗う作業に区切りがついたのか、手を止めて新たな説明に移った。

エレナが中を覗き込むと、水の濁りがだいぶ薄くなっていて、水の中にある米が透けて見えるくらいになっている。


「このくらいで結構です。そうしましたら一度水を捨てて、きれいな水を入れます。スープではありませんので、米の摺り切りから少し多めに見えるくらいです。この状態で摺り切りの量の水を入れますと、米が吸った分水分が少なくなって固くなります。水を多めにすれば柔らかくなりますが、どろどろにもなりますので、通常量で今回は準備いたします」


分量に関しては目分量でも問題ないが一応測る目安もあるという。

それはレシピと一緒に書いておいてくれるそうなので、分量の質問は不要で、それより目の前で実践されている作業や動作を目に焼き付ける方が大切だ。


「調理の過程でお米が水を吸っていくことで、昨日の食べられる硬さになるのね」


水を吸ったからか最初は浮いてくることもあった米は見事に沈んでいる。

それを覗き込んでエレナが言うと、少し説明が難しいと相手は眉間にしわを寄せた。


「そこは炊かないと無理ですね。その理屈ですと、長く漬け置きしただけで食べられることになってしまいますが、そうはなりませんので……」


水に付けておいただけで柔らかくなって食べられるのなら、孤児院でも簡単に食べられる状態にできると期待したが、そういうものではないらしい。

言われてみればエレナはこの米をとぐ、洗う作業に随分と時間を使ってしまっている。

もし米がそういう性質のものだったら、洗っている時点で感触が変わってしまっただろうし、お湯に入れて煮込んだ時に形が残っているのは不自然だ。


「感覚は芋などに似ているのかしら?」


エレナが尋ねると、それも違うと首を横に振られた。


「水に付けているだけで形が大きく変わらないのはそうですが、煮込んで形が崩れる程度の芋とは違って、こちらは大量の水で火にかけた場合、昨夜の食事のように握ったりという食べ方はできない形になります。量を増やしたい時や体をいたわった食事を必要な状況ではそのようになるよう水を大量に入れますが、今回はあくまで米を炊く作業と聞いておりますので」


まずは基本から。

エレナはそれを知るためにこうして調理場に押しかけているので、しっかりと説明を受け止める。


「そう、水分の量が多いと食べられるけれど違うものになってしまうのね」


ここまでの話を聞いてもかなり調理が難しい食材に見える。

毎日作業していれば問題なくできるだろうが、初めて見せられた孤児院の子供達が自分たちで模索してこの方法にたどり着くのは無理だろう。

料理長ですら、別の国での食べ方は知っていたけれど、この炊くという工程については知らないと言っていたが、これを再現するのはハードルが高そうだと感じて、エレナがより集中しなければと考えていると、これまで無反応だったケインが小さく声を出した。


「ああ……」


ケインは言われた言葉の意味をいち早く理解したらしい。

そう考えたエレナはこれまでずっと米に向いていた視線を上げた。


「ケインは心当たりがあるの?」


自分の周りに理解ができる人がいるのはありがたい。

エレナが尋ねるとケインは小さくうなずいた。


「水を入れすぎてその工程を行った場合、おそらく私が共闘の際にいただいた、おなかにたまるスープのようなものができるのではないかと思いました。確かにあの形状では、水分をなくしても昨晩のように丸い形にするなど無理でしょう。スープに浸したパンを焼いても、一度ふやけてしまったものは元に戻らないのと同じかと」


ケインの説明の内容を想像してエレナが納得していると、調理場からもその解釈であっていると補足された。


「そちらの方は戦地に行かれたのですか。でしたらお粥にしたのでしょう。おっしゃる通り、水分を多くして焚くのと同じように調理すればそのようになります。その後、味の濃いスープを足して煮込めば、召し上がったものと同じものになるでしょう。ちなみに味付けを後でするのは、塩分がない方が米の柔らかくなるのと、味のついたものと一緒に食べるものなので、他の味をつけない方がアレンジができるからです。補足としましては、少し形状は変わりますが、普通に炊いた後の米を煮込んでも似たようなものが作れます。逆はおっしゃる通り無理ですね。硬くなってもいいのなら、気持ち少な目にするか、火にかける時間を少し長めに取ることをお勧めします」


そう言いながら米の入った釜を流しから持ち上げて、そのまま火の上に乗せた。


「少し浸水させてからの方がむらなくできますが、すぐに次に取り掛かっても問題ありませんので、このまま続けます。あとはこれを蓋をしたまま最初弱火で、水分がなくなってきたころを見計らって最後だけ少々強火にしてから火を落として、しばらくそのまま置くだけです」

「そうなのね」


後は火の加減を気にする必要はあるが数十分は火の番以外することはないし、できることもないと言う。


「最大の注意点は、出来上がるまで蓋を開けてはならないということです。完成前にふたを開ければすべてが水の泡、炊けずに失敗します。火の番はこちらで行いますが、その間にお気になさっていた器などをお見せしたいと思います。こちらを見ながらお時間をお待ちいただければ」


殿下が事前に食文化に興味を持っていると説明していたのか、その時に使う特有の器をすでに準備していると棚を指した。

元からそこにあるのか、エレナ達のために用意したのかは不明だが、確かにどんな形で調理が提供されているのか興味がある。

遠めに見ても器が芸術品のような色をしていて、興味をそそられた。

何より、待っている間も調理場にいていいというのは、火の調整具合も観察できるということなので、エレナにとってありがたい申し出だった。


「わかったわ。お兄様たちも一緒に見せていただきませんか?」


黙って壁側の椅子に座ってエレナ達の様子を見ていただけのクリスにエレナがそう言うと、クリスは微笑みながらうなずいた。


「そうだね。私たちも一緒に拝見しても」

「もちろんでございます」


そう言って二人は立ち上がる。

そうして作業は小休止の時間を迎えたのだった。

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