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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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彼の国と米と料理

エレナ以外からも話を聞いて一息つけるかと思ったが、想定以上に話が長くなったこともあり、食事の席に移動することになった。

堅苦しい服装をする必要はないということだったし、殿下が先導しているから身ぎれいにと抜けるわけにもいかないためそのままだ。


「先ほどは貴重な意見が聞けてよかったぞ。ここからは公務を忘れて歓談をしたいと思う。それと、エレナ殿下との約束通り、食事に白飯をふるまうため準備をさせたのだが、口に合わなければパンもある。遠慮なく言ってくくれ」

「お気遣いありがとうございます」


今日はエレナの希望で米が主体の食事となると説明を受け、口に合わなければ最低限にだけ手を付けて自分たちの持ち込んでいる食料で済ませようと考えていたクリスに殿下が先回りするようにそう口にした。

すでに米と焚くという調理をしたらしきものが丸い木材を組んだ大きな入れ物に入っていて、横に同じように作られた少し小さな水桶のようなものがあり、料理人らしき人がそこに立っている。

その横には色とりどりだが同じ大きさに切られた食材や、飾りに使うのか粉より大きめに火を通したものが並んでいた。

エレナのためなのかできたものを出すのではなく。その場で調理をして見せてくれるらしい。

殿下は炊いた米の入った入れ物の前に立つ料理人らしき人に指示を出す。


「殿下方には握りか手まりサイズのものが良いだろう。こちらと違って手で持ちかぶりつく文化がないからな」

「かしこまりました。では具はお選びいただいた上で中に入れず上に飾りましょう」


指示を受けた一人が大きさを確認するべく、その形を作ると、殿下はそれを受け取って口に入れた。

行儀は悪いがこうすれば毒見になると判断してのことだろう。

殿下が咀嚼している間に、料理人は手際よく同じ大きさの塊をいくつも作って準備を進めていく。

そんな動作をじっと観察していると、四人のところに先ほどの食べ物と、小さく固められた米をいくつか入れてセットにしたトレイを持って四人の前にやってきた。

一人に一人ずつ、対応してもらえるらしい。

トレイの中身から、好きなものを選べば目の前で仕上げをしてくれるのだとわかる。

自分で取りに行くのではなく持ってきてくれるのかと感心していると、想定通り尋ねられた。


「こちらにお好きなものをお乗せしますのでお選びください」

「まあ、選ばせていただけるの?」


エレナが確認すると、相手はうなずいた。


「はい。一種類でも構いませんし、半々でも問題ありません。もちろん追加できますから一つ食べてから違う味のものを追加もできます。このサイズですと、女性でも十くらいは食しますが、お口に合うかをご確認いただきたく」


作ったものを出すこともできるが、彼らに米を受け入れられるかわからない。

ここで材料のままのものなら賄にできるので、彼らの口に合わずパンに切り替えたとしても無駄になることはない。

まだ食糧事情がよくないので、無駄にせず、客人に喜んでもらえる方法として殿下がこの形式を提案したのだが、それは正しかったようだと、彼らは殿下に尊敬の目を向けた。


「そうなのね。そう言われても迷ってしまうわ。わからないものがいくつもあるから」


調理場に行くことのあるエレナは多くの食材を目にしている方だ。

しかし、加工された後のものの中には原形のわからないもの、味のわからないものもある。

組み合わせるにしても味がわからなければどうしていいかわからない。

エレナが質問すると、担当がすぐに答えた。


「なるほど。こちらは肉を細かくして火を通したもの、こちらは卵を溶いて火を通しながら混ぜて細かくしたもの、あとは野菜と煮豆、こちらは魚で、生、焼き、煮込み、魚卵もございます」


エレナの担当の答えを聞いたクリスたちも自分たちの前に出されたトレイを見つめて考え込んでいる。

エレナ以外の三人も、どうしたものかと同じ悩みを持っていたのだ。

そこに殿下がやってきて彼らに言った。


「とりあえず、そぼろとたまごを半々で乗せたものを試食してもらおう。それを全員分作ってくれ」

「かしこまりました」


いきなりこちら特有の食材を勧められても反応に困るだろう。

食べ慣れた無難な味の入ったものの方が安心して食べられるはずだ。


「迷っているとそれだけで時間が過ぎてしまうからな。一つ食せば次を決めやすかろう。そもそもそなたらは土台の米というものがわからぬのだろうからな」

「ええ、確かにそうね。ありがとう」


とりあえず殿下が指示を出すと彼らは一斉に同じものを作り出した。

土台となる米を丸めたものの大きさが同じなのは最初に指示を出した料理人が作ったものだからわかるが、殿下に指示を出された四人が、ほぼ同時に完成させ、それぞれの前に用意されたら皿の上にそれを置く。


「とてもかわいらしいですね」


真っ先に完成品を褒めたのはクリスだ。

エレナもその様子とできたものを見て感想を述べた。


「とてもすばらしいわ。ところで調理の工程を知りたいとは言ったけれど、先ほどの技術は秘匿されたものではないのかしら?」


料理人が料理をしている行程を見せるのは弟子だけというのが大半だ。

まれに最後にソースをかけたりするという場合はあるけれど、調理の工程や盛り付けなどを見せることはない。

盛り付けの過程も調理の工程に含まれるし、秘匿されている場合が多いからだ。

基本的に盛り付けを終えたものを出される食事、または自分で取りに行く夜会のようなビュッフェスタイル、孤児院や先の配給のような食事しか経験のないエレナは、目の前で美しく飾られて、ただの真っ白な塊が黄色と茶色と白の三色になっていく様子が芸術品をつっているようだと評価した。

思わぬところで評価を受けた料理人たちは思わず顔を見合わせる。




「この白い塊がお米を丸めたものなのよね」


トレイに乗ったまだ加工されていない米を指しているエレナに、改めて聞かれた担当者は困惑しながらもうなずいた。


「そう、ですね」

「これだけだと、どんな味がするのかしら?」


エレナの問いに、そういえばさっき殿下が土台の味を知らないと言っていたなとすぐに思い至った相手は、特に裏はなさそうだとそのままに答えた。


「味はほとんどありません。噛めば甘みが出ますし、おなかも膨れますが、基本的にはおかず、他の味のついた食品と一緒に食べるものです。味のないパンと変わらないかと思います」

「じゃあ、これに乗せるものにはすべて味が付いているのね」


エレナが尋ねると、相手はすぐに肯定する。


「濃いめの味付けのものが多くなっております。こちらで説明するならば、卵はほとんどそのままですが、肉などはしっかりと塩コショウがなされております。なのでこのまま一口で食べていただければと思います」


具とその他に分けてしまうと見た目が損なわれるだけではなく味がしない部分が出ると説明すると、エレナは興味深いと小さく丸められているものをじっと観察するのだった。

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