二回目の体力測定
そうしていよいよ、訓練の成果を試す二回目の体力測定の日を迎えた。
「本日の体力測定には、エレナ様がご参加だ。エレナ様は将来の君たちに大変期待を寄せている。全力で頑張ってもらいたい」
入団したての騎士たちに騎士団長が挨拶をして、最後にそう告げると、壇上の横から訓練着を着たエレナがひょこっと姿を見せた。
そんなエレナに気がついた新人騎士が指をさしたことで彼らの視線は一斉にエレナに向く。
エレナの測定を皆の中に混ぜて行うのを止めて、今回は壇上の横にエレナが測定をするための場所を設けた。
前回はエレナの移動負担をできるだけ減らそうと、目の届く範囲で道具の近くに準備をしたのだが、エレナの近くに配置された騎士たちの成績が芳しくなかったのだ。
道具を使わないものはそこで行い、運ぶのが容易ではない測定器具などを使う場合だけエレナに移動してもらうことにした。
その方が騎士団長の目も届きやすいし、騎士全員がエレナを確認できるので、特定の騎士だけに影響を与えることは少ないだろうと判断したのである。
今回、エレナの記録をとるのはブレンダだ。
前回は全体の監視と見本を兼ねて壇上にいたが、元々体力測定が嫌いなブレンダに睨まれたくない騎士団長の忖度である。
ただし、前回頼んだのにはもう一つ理由がある。
同じ女性のブレンダと、初めて間もないエレナを比較する意味もあったのだ。
同じところで同じことをしてもらうために、見本を頼む意味は大きかったのだ。
前回監視をしていたブレンダによると、やはり入団最初の測定ということもあり、測定が始まると新人たちにエレナを気にする余裕はなさそうだと言っていた。
だからエレナをどこに配置してもエレナに危害を加える者はいないだろうという話だ。
指揮している騎士団長もそこは同じ意見であり、それなら見本としてより、エレナのそばが良いだろうと言うことに落ち着いた。
それに記録係がマンツーマンでついているのだから、壇上からの監視は騎士団長一人で充分である。
「エレナ様、今回は近くにおりますから、何かありましたら遠慮なく言ってください」
「ええ。よろしくね」
そして皆の準備が整ったところで、騎士団長が号令をかけると、新人騎士たちのための体力測定が開始されるのだった。
こうして様々な測定を切り抜けたエレナに、いよいよ最後の難関がやってきた。
前回持ち上げることすらできなかった剣の素振りである。
他の騎士たちは最初から自分の持てる重さや大きさを指定し、特定の回数をこなし、どんどん次の重さや大きさの者に交換して測定を進めている。
そんな中でエレナはブレンダから一番軽い剣を渡された。
そして前回の測定以来外していなかった鞘を外した剣をしっかりと握って構える。
今まで重たいものと鞘をつけたままのもので練習していたせいか、剣が気持ち軽く感じる。
「も、持てたわ!」
「じゃあ、あげて振り下ろして止めます。いつも通りゆっくりですよ。勢いで体を持っていかれないように」
「はい!」
そう返事をしてエレナは剣を慎重に扱い、どうにか一番軽い剣の課題をクリアした。
その頃にはかなりの騎士が測定を終えてじっとエレナの方を見ているが、エレナは剣に集中していてそれどころではない。
続けて二番目の課題に使う剣を渡される。
エレナはその剣を両手で受け取ったものの、剣を鞘から抜くことができない。
実はその剣、一番目の者より少し重たいだけなので重さ的には問題ないのだが、いつもの剣より長いのだ。
「エレナ様、鞘のついた状態で構えられますか?」
試しにとブレンダが促したのでエレナはうなずいた。
「やってみるわ」
そして鞘ごと振り上げようとしたが、やはり持ち上げることはできなそうである。
見かねたブレンダが止めた。
「エレナ様、ここまでにしましょう。今日は目標の一番軽い剣の課題をクリアできたのですから」
「そ、そうね……」
少し残念そうに剣をブレンダに渡したエレナに大きな拍手が聞こえた。
驚いてそちらの方を見ると、新人騎士たちがエレナの方を向いて一斉に拍手をしている。
「ブレンダ、これは何が起きているの?」
前回はなかった光景でエレナは困惑していた。
「皆、自分の測定が終わってからエレナ様が剣を振っているのを見ていたんですよ」
「なぜ皆そんなに余裕があるの?」
人のことなど気にしている余裕のなかったエレナは不思議そうにしている。
「それは、普段から剣に親しんでいるので最初から自分が振れる最低ラインを知っていて、そこから始めるからですね。それにできそうになければ、持った瞬間に自分で判断できますから」
「まあ、そういうものなのね。それじゃあ、私が頑張っている間、皆を待たせてしまったということかしら、ごめんなさい」
できるだけ課題を進めたいと頑張っているところを皆にしっかりと見られていたことに少し恥ずかしさを覚えてエレナは俯いた。
「そこは気にしなくていいと思います。時間が足りなくなるようでしたら騎士団長が止めに入りますから」
「そう?」
顔をあげてちらっと新人騎士たちの方を見ると、騎士たちもその会話を聞きながら首を縦に振っている。
ちなみに測定はこれが最後、つまりこの後は騎士団長が挨拶をして解散となる。
「今回の測定結果は後日連絡する。今日はこれで解散だ。各自部屋に戻ってゆっくり休んでくれ。最後にエレナ様から一言いただこうと思う。よろしいですか?」
突然振られたエレナは首を傾げて尋ねた。
「私でいいのかしら?」
「もちろんです。このような場にエレナ様自らいらっしゃることが貴重なのですから……」
「わかったわ」
エレナは騎士団長に促されて壇上に上がった。
「今日はご一緒させていただいてよかったわ。疲れているのに最後は私のせいで時間を取らせてしまってごめんなさい。優れた力を持っている皆がこの国を守ってくれると思ったら、私たちも、この国の民も安心して過ごせると思うわ。これからよろしくお願いしますね」
最後にエレナが向けた笑顔を見た騎士たちからは歓声が上がる。
そしてどこからともなく再び拍手が起こった。
「エレナ様、そろそろお戻りですね」
騎士団長がエレナに声をかけるとエレナはうなずいた。
「ええ、そろそろ戻って夕食のために着替えをしなければならないわ」
「では、ご案内いたします」
ブレンダがそう言って壇上のエレナに手を差し出した。
エレナはそこに手を添えて壇上から降りていく。
その様子は王子が姫をエスコートしているようだと騎士たちの誰もが思った。
壇上から降りたエレナは退場の前にもう一度騎士たちの方を向くと手を振って訓練場に背を向けた。
手を振られた騎士たちは号令をかけられたわけでもないのに、一斉に敬礼して見送る。
エレナの、王族のオーラに当てられたのだ。
エレナの姿が見えなくなったところで騎士団長は敬礼を解くように言った。
「各自、しっかりと食事をとり、よく休み、明日に備えてくれ。明日からは現場の騎士たちと訓練に参加してもらう。優秀なものから現場に出すからそのつもりでいるように。解散!」
「はっ!」
大きな声で返事をすると新人騎士たちは訓練場の出口に向かった。
これを来年もやるのだろうかと騎士団長は少し不安に思いながら、新人たちが退場するのを待って訓練場を閉じるのだった。




