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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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歓迎

遠くに見えた密集した建物は、城下の外側、少し離れたところにある街の一つだった。

終戦直後で復興を始めたばかりだからこのような形なのかと思ったが、どうもそうではないらしい。

そんなに大きくない街なので通行せず、避けることも可能だったが、ここは通行してほしいというのが殿下の希望だった。

この周辺に活気があるのは、中心部に寄りつかない商人が多く商売をしているからという。

そして今回、クリスたちが他国を行き来している商人たちの目にとまることで、来訪の事実の拡散の一助になるため、面倒でも中を通ってほしいのだという。

もちろん、ここにいる国民もクリスやエレナの功績を知っているものが多いので好意的だし、今後他国で商売をするにあたってクリスたちに危害を加えようなどと考える商人はいないだろうから、そこまで危険はないはずというのが殿下の談だ。

そこまでは聞いていなかったものの、何度かやり取りをして、事前に打ち合わせで決めた経路でもあるので、殿下達はきっと念入りに掃除をしたことだろう。

しかし表に出ることになるとは思っていなかった。

クリスやエレナの乗った馬車が通っただけで、充分噂にはなるだろうし、見た人間には認識されるとクリスは想定していたからだ。

そのためパレードをするつもりはなかった。

けれどできるだけ多くの人に二人が来たのだと知らせたいのだと殿下は言う。

早く広く拡散し、実績を残したいのだとクリスは察して了承した。



馬車は護衛に守られながら、ゆっくりと街の中に入っていくことになった。

殿下はクリスたちが食料支援をしてくれたこともあり、国民も歓迎していると言っているが、実際のところ街の状況は不明だ。

中の人間のそんな不安をよそに、街の沿道からは明るい声が聞こえてきた。

歓迎の歓声の中には、商会の人間が発しているのか、今度そちらに行きますので、などという言葉が混ざっていて、その商魂のたくましさに思わず自然と笑みがこぼれたほどだ。


「そこまで大きな街ではありませんでしたが、随分と活気がありましたね。中央というところはもっとすごいということでしょうか」

「そうだね。きっともっと発展したところだと思うよ。私もこの目で見たことがあるわけじゃないけど」


ブレンダとクリスはそんな話をしながらも笑顔で外に向かって手を振った。

エレナとケインも似たようなことをしているが、こちらは微笑むエレナと、少し難しい顔をしたケインという、なんとも言えない組み合わせになっている。

ブレンダは貴族として、ケインの表情に思うところもあったが、騎士としてそうなる気持ちはわかるとそんなことを思っていた。

自分ももし、王妃にみっちり教育されていなかったらあのようになっていたかもしれない。

それではいけないと言われた理由は、目の前のケインを反面教師とすれば理解できた。

ただケインとブレンダでは立場が違う。

ブレンダは、愛想笑いを振りまく必要のないケインを少し羨ましく思いながら、歓迎ムードの街に目を戻すのだった。



そうしてパレードのようにゆっくりとこの街を抜け、そこから少し走ると、今度は突如、目の前に大きな壁が立ちはだかった。

そしてその入口には多くの者が立ちふさがるようにして並んでいる。


「ここはこの国の中枢だ。こんなところまで攻め込まれたら戦はほぼ負けだと思っていいだろうな」


止まった馬車の横に再び騎乗のままやってきた殿下が窓の向こうからそう言った。


「さすがに王都、というのかしら、この辺りは栄えているのね」

「やはり中央ということもあって堅牢で、守りに強い印象ですね、なかなか入りにくい感じを受けます。壁が高くてこれだけでも圧巻ですし」


クリスとエレナがそれぞれ感想を口にすると、殿下は笑う。


「まあ、戦対策だからな。自慢していいものかはわからぬが、この壁が中央を守るのに大きく寄与しているのは間違いない」


栄えているというより、破壊されていないというのが正しい。

過去の戦争でここまで敵に攻め込まれたことはない。

古い建物も多いので美しいかと言われたら微妙だが、ここは常に活気がある。

緊急時には避難所として国民を受け入れる場所としているため安全性が高いため、住民が多い。

その分騒がしくもある。


「こちらは出迎えも随分と手厚いのですね」


塀の前に並んだ騎士たちを見たブレンダがそう口にすると、殿下は口角を上げる。


「まあ、戦が無くなれば仕事が減るものも多いからな。それに今回の客人の多くが、前回の同行者だろう。同士の顔をいち早く拝むのだと志願した者が多かったのだ」


そう言うと彼はケインを見た。

ケインは言われて、改めてその隊列を見る。

そしてその中には確かに、戦地でお世話になった人が混ざっていた。


「確かに、あの時同じ隊にいた方が数人見えますね」


他の騎士たちも最初は出迎えに緊張した面持ちだったが、面識がある人間を見つけたのか、表情がほころんでいる。

我が国はともかく、彼の国は戦争大国だ。

次に会える補償などないと覚悟をしていただけに再会の喜びはひとしおだ。

ケインの表情から言いたいことを読み取ったのか、殿下が言う。


「騎士同士における再開の場は改めて設けるつもりだ。まずは中央の国民に顔見せをしてもらいたい」


それを聞いたケインは殿下に黙って頭を下げた。



少し離れた場所からでも、中が見えるくらい大きな門だ。

馬車だけではなく、騎馬の護衛が並んでも通れる余裕がある。

そして太い道が一本、奥に向けて続いていることがわかる。

これもきっと騎士たちが出兵する際、一度に出ることを優先した結果だろう。

エレナ以外は似たようなことを考えていたが、それを誰も口には出さなかった。

一方、中の様子を伺うと、にすでに人が集まっているのもわかる。

先ほどの街より人が多いのは人口が多いからだろう。

けれど離れてみる限りその中に悪意は感じられない。

先ほどの街で一度歓迎ムードを味わったこともあり、ここでも大丈夫だろうと、非難に対する警戒を緩め、パレードの本番と同じようにクリスは笑顔を作った。

他のメンバーも同様に気持ちをパレード仕様に切り替える。

その状態で、いよいよ馬車は彼の国の中央と呼ばれる区域に踏み入ることになった。

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