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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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入国

とりあえず殿下が合流した翌日からも移動や行程大きな変化はなかった。

殿下達が特に干渉してくることはなく、今までと移動も変わらない。

彼らが自分たちを囲む騎士たちより外側にしかいなかったことも大きいが、移動中の護衛が少し増えた程度の感覚で、野営もなく宿を利用しながら予定通り進んだ。

そうして移動を続けること数日、ついに彼の国への入国を果たしたのだった。


「ここまで移動して、国境を越えたからといって急に環境が変わるということはないということが分かったわ。少し考えれば、区切りはあっても、地続きなのだから当然だって思ったわ」


国境を越えて彼の国に入った時、エレナはそう言った。

場所によっては国境に塀を巡らせ、その先に巨大都市を築いているところもあるが、彼の国は戦争で常に領地を広げていた国であり、現在の国境にそのような都市はない。

ただ、境界線があるのみだったのだ。


「その国を越えるのに苦労する人が多いのも確かだけどね。どの国に属するかで、平民は生活が左右されるから」


クリスがそうつぶやくと、エレナは目を見開いてクリスを見る。


「私たちはその国民を豊かになるよう導かなければならないのよね」


エレナの決意表明のような発言にクリスはまた小さくため息をついた。


「そうだね。でも私たちだけでは難しいから、貴族たちに領地を任せているんだけどね」


その制度が円滑に回っていなければ国は安定しない。

もちろん自分たちですべてを見て回って管理できれば一番いいのだが、いくら小国とはいえ実際そううまくはいかない。

だから信頼のおける貴族を重用し、管理を任せている。

彼らは国の代官の役割を担っているのだから、彼らを知狩り管理するのが自分たちの仕事だし、見えないところで不正がないかを確認するのも国の役目だという。

だから報告を真に受けて確認を怠ることはできないけれど、多少の目こぼしもある。

関係を悪化させてもめ事を増やすわけにはいかないので、その塩梅も難しいところで、綺麗事だけではやっていけないのが現実だ。



そんな話をしていると馬車に騎乗した男が近付いてきた。


「移動しながらだが、ようこそ我が国へ。中央まではまだ時間がかかり、少々悪路だが、この先しばらく何もない分、早く移動ができるはずだ」


馬車に合わせて騎乗し並走しながら、中を覗き込むようにそう言ったのは、これまで警備のさらに外にいた殿下だった。


「ええ。そのようね。ちょうど国境を越えたという話をしていたところよ」


エレナが答えると、殿下は笑いながらそうかとだけ答えた。

しかしそこに眉間にしわを寄せたケインが割って入る。


「殿下、馬車のスピードに合わせて並走されているのですか?そもそもこれでは少々距離が近く危険に思いますが」


騎士である自分、身体能力が高いであろうブレンダはともかく、この馬車にはエレナとクリスが乗っている。

彼らを守る騎士という立場で見るとこれは大変危険な状況だ。

ケインがそう言うと、殿下はそれを鼻で笑う。


「この程度で危険はない。それでは騎乗のまま戦えぬからな」


自分も馬も慣れているのでこの程度で動じることはないらしい。

確かに殿下は優秀だし、現に殿下も馬もこうしている間、近いながらもずっと安定した距離を保ち並走している。

おまけにその最中に会話まで成立しているのだからかなり高度な技術を要しているのは間違いない。

けれどそれを加味してもなお、万全を期す方向で考えるなら、やはり危険行為と捉えるべきだ。

だからケインは引かない。


「戦いはぶつかっていくものでしょうけれど、もし転倒されては困ります」


殿下にもしものことがあったらどうするのか、そういう意図としてとらえたらしい殿下は首を傾げる。


「この行動に関しては私が勝手にしていることだ。責は問わぬが?」


自分が近づいて勝手に衝突、落馬、怪我をしたのに、彼らに責任を負わせるようなことはない。

これは自己責任だから問題ないと殿下が答えると、ケインは目を細める。


「衝突すれば、こちらもただでは済まないでしょう」


ケインの言葉にようやく合点がいったと、殿下は笑った。

確かに危険はこちらの方が大きいが、対処に不慣れな人間の方が怪我のリスクは高い。

腕には自信があるものの、客人が怪我をするのはさすがに困る。


「まあ、その可能性は否定できぬな。そう言われては仕方ない。到着したら改めて話すとしよう。まあ、これは伝令変わりだとでも思ってくれ」


殿下はそう言うと、馬を駆って馬車から素早く離れていった。

その空いたところに、護衛騎士が距離を置き、見える位置での護衛を再開する。

こちらも騎乗だが、決まった距離を保っているので問題ない。

手を伸ばしたら届くような距離まで寄ってくる殿下が異常なのだ。



過去に騎乗の経験のある三人が馬車との距離に肝を冷やしていたが、エレナだけは違ったらしい。

経験がないからこそ騎乗した状態が不安定ということは知らないし、安定して乗っている殿下が近くに来ても何も感じなかったのだろう。


「殿下もわざわざ知らせに来てくれるなんて、律義なものね」


エレナはそう言うと馬車から離れていく殿下を見送った。

そうして馬車はまた、何事もなく、特に見ごたえもない平地をしばらく走り続けることになった。



それからしばらくすると、遠くに密集した建物らしきものが見えてきた。

馬車はその場所に向かって進んでいく。

やがて建物の近くまでくると馬車は一旦止まった。

そして止まった馬車に再び殿下が寄ってくる。


「ここから先は人家が増える。うちの騎士が横についてさらに護衛をするので事件は起こることは心配しなくてよいし、何かあればこちらで対処する。まあ、街は歓迎に沸いているからな。可能であれば皆も馬車の中から手でも振ってやってくれ」


殿下は一方的にそう言うと、その間に入口に集まった騎士たちに指示を出すと離れていった。


「中の状況はわからないけれど、殿下がああいうのなら、パレードの心づもりでいた方がいいかもしれないね」

「わかったわ」


クリスがそういうのでエレナはうなずく。

そしてケインとブレンダは思わず顔を見合わせ、これから向かう先の情報を得ようと外を見た。

馬車の窓から得られる情報は限られている。

本当は外に出て、先に中を見てから移動したいところだが、さすがにそのようなことはできない。

それをしてしまえば殿下を信用していないのかと彼の国に因縁をつけられる恐れもある。

自分たちの軽率な行動で関係を悪化させるわけにはいかないので、とりあえずおとなしく従うしかない。

何かあったらケインはエレナを、ブレンダはクリスを、それぞれの護衛対象を暗黙の中で決めた二人は、笑顔で手を振ることよりそちらが優先だと表情を硬くしたのだった。

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