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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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戦飯

エレナの隣にいたブレンダはクリスからの呼び出しを受けて鍋の横から静かに離れた。

反対側の隣にケインがいるので離れることは問題ない。

クリスは外に出てきているし、そこからならエレナにも目が届く。

手元をじっくり見られなくなるのは残念だが、あとは鍋を掻き混ぜて味を調整する段階だということなので、とりあえず従うことにしたのだった。


「クリス様、お呼びでしょうか」


騎士然とした姿で悠々と歩いてきたブレンダに先に声をかけたのは殿下だった。


「ああ、呼んだのは私だ。クリス殿下と戦飯の話になってな。忌憚なき意見を聞きたいとクリス殿下に頼んだのだ」


戦飯の話と疑問に思ったが、この場で行っている食事の支度が、基本的に戦場でも同じと考えたブレンダはすぐにそれを了承した。

クリスと殿下がこれまで話していた内容を共有され、ブレンダはそこで意見を求められる。


「そうでしたか。騎士団の件についてはクリス様のおっしゃる通りです。もとは体を壊さず、腹を満たす。空腹で動けないことがないようにするため、おいしくないものだが食べなければならない。有事に贅沢は言えないのでこういった食事もとれるようにするべきで、苦行も修練といった考え方でした」


クリス同様、苦行という表現に加え、それが修練とみなされると聞いた殿下は思わず眉間にしわを寄せた。

常に裏があるのではないかと目を光らせて生活している貴族たちが多いとされる王宮騎士団だ。

もしそれと同じものを庶民から提供されてもおいしいと言いながらありがたく笑顔で食すのだろう。

それができなければ貴族の恥とされるからそうするのだろうし、普段食べ慣れた食事が美味であるが故に、それに劣るものを食べるのが苦行というのならまだわかる。

けれどそれを通り越して修練と表現したのだから、ブレンダの言葉から些末レベルではないものを食していたのだと察する。


「食事は戦の中で数少ない楽しみだからな。それがより美味なことに越したことはないだろう。体を壊さぬことは大事だし、食うものがなければそういう日もあるが、あえてまずいものを作る理由はないな」


貴重な憩いの時間に苦行や修練は不要だ。

戦場でその時間は、野営を含め、少ない休憩時間に当てられる。

それが剣の訓練であっても体を休めろと叱責しなければならないのだ。

そこに好んで食事による修練を取り入れる者などいない。

もはや平和な中でそのようなことに時間を割いているのなら、それは無駄というものではないかと殿下が含ませると、ブレンダは小さく首を横に振った。


「もちろん、あえて不味いものを作り出そうとしていたわけではありません。安全に食べられることに重点を置いた食事、作り方のみが継承された結果です」


基本はもちろん、野営において外で取った動物を食べられるように加工できるようになるなど、緊急時に食事を獲得する訓練だ。

当然、おいしくなくても食べるという精神論はおそらく後で付随したものだろう。

教わる時にこれも修練だと言われることはあるが、教科書などに書かれているわけではない。

そうでも言わなければ、それを残さず食べるのは難しい。

そういう食事だから、教官が使う用になった言葉と推測される。

そもそも、貴族からすると料理は下の者がするという考えが根強い。

なのでどんなに必要と言われても、訓練の一環、鍛錬、修練、など、聞こえのいい言葉で持ち上げなければ、調理を覚えようとはしなかっただろう。

他の貴族にできない調理というものを少しでもできるということが、本来ならば自慢になりそうなものだが、貴族の場合、使用人がするようなことをあえてするなんてと言われかねないため、騎士たちはできることを口に出したりしない。

当然何事も積み重ねだし、やらなければ上達しない。

そして仕方なくやるから苦行の一つとされていたのだ。


「間違ってはいないが、まあ、たまに体験する程度でしかないものなら、そうなってしまうだろうな。それだけ平和ということだろう」


彼の国からすれば、戦場の生き死にがかかっている。

食べないことで力を発揮できなければ死に直結するし、最悪はその食事が最後の晩餐になる可能性だってある。

だから一食一食を大切に食べるし、できるだけおいしく作るよう努める。

殿下がそう説明すると、ブレンダは苦笑いを浮かべる。


「そう言われてしまいますと、それも平和の弊害かもしれません」


食べ物を粗末に扱うことはないが、彼の国に比べたら自分たちは間違いなく飽食している。

話を聞けば聞くほど、これまでの自分たちがしてきたことが間違いだったと痛感する。


「まあ、国によって文化は違う。ただ我が国においてその話は避けた方がいいだろうな」

「私の方で周知します」


殿下の指摘を受けてクリスがすぐ反応する。


「ああ。そしてそんな環境の中、エレナ殿下が音頭を取って調理をしていると。皮肉なものだな」


現在、貴族たちが好まない、むしろ嫌厭することを率先して行っているのは、皮肉にもその頂点にいる一人だ。

王女殿下が率先して行っているのだから下が動かないわけにはいかないだろう。

それが階級を重んじる国ならなおさらだ。


「そうですね。ですが騎士の考えも変わってきているのです。すでに一度、大規模な調理実習が行われておりまして、我々だけでも過去のものとは雲泥の差ともいえる良いものができるようになりました。ですから本当は、エレナ様の手伝いはなくともどうにかなるのですが……」


そこまで言ったブレンダの言葉を拾って、今度はクリスが補足する。


「エレナの性分ですね。普段からエレナが孤児院で調理をしているのをサポートしている護衛騎士なんて、率先して当たり前のように手伝ってますし、今はエレナがいることで周囲の騎士たちの士気が上がってしまってるので、もうこのままでいいかと見守ることにしたのですよ」


やる気はないよりあった方がいいし、味も改善されたとはいってもよりおいしくなるならその方がいい。

エレナ本人が好んでしていることでもあるので楽しんでいるところを中断するのも可哀そうだ。

周囲にあれだけの騎士がいて、多くの目もある。

王宮では窮屈な生活をしなければならないのだから、今だけは好きにさせてあげる方がいいだろう。

クリスはそんなことを思いながらエレナに視線を送るのだった。

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