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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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信頼と過保護

あらゆる可能性を考えて、もう穴はないだろうと思っていたけれど、視点を変えれば気が付いていないことも多いらしい。

エレナの意見にクリスが感心していると、エレナは続けた。


「それにうちの騎士だって、あの件で驕りを捨てて一皮むけた部分があるでしょう。これまでと違う環境に行くことについては彼らの方が理解していると思うの。私たちは実際に戦場を見ていないけれど、今回の参加者の多くは経験者から選んだと聞いているわ」


結局選抜されたのは、前回護衛の練習と称して孤児院に同行したメンバーを基準に、数名の差し替えと増員を行って編成されることになった。

ちなみにそのメンバーの中に炊き出し訓練でマイナスのついたものはいなかったし、それを基準に増員扱いになった騎士もいなかったので、そこを期待して参加した騎士からすれば当てが外れたと言わざるを得ない。

ただ、そういう人は初めから外すことで話が進んでいたのだからさして問題はない。

もちろんメンバーの選抜に関してはエレナの意見だけではなく、騎士団長やブレンダの意見が考慮されている。

そしてケインは自分など意見できる立場ではないと、細かい人選に関しては特に意見を述べなかったが、できればエレナの護衛騎士は代えないでほしい、自分をエレナのそばにおいてほしいと明言したという経緯がある。

結果、最初のメンバーで問題がないということで、孤児院訪問の時点で選抜されていた人間の残留が確定したのだ。


「それにお兄様が言ったのよ?」

「何を?」


クリスが首を傾げると、エレナは微笑んだ。


「彼らのことを信用しなさいって。自分の身を守れることは大切だけど、守られないことは彼らを信用していないのと同じだって」


自分が何とかしなければと、そう考えることは間違いではないが、率先して飛び出していくことが続いたエレナに、確かにクリスはそう言った。

自分が出て行き対処を任せられないことも、守られる側なのに守る側になるべく前に出たりすることは、危険であるだけではなく、彼らの尊厳も否定することになる。

その行動が良かれと思ってしたことであっても、彼らからすれば肝心な時に信用されないように映るのだから改めてほしいと伝えたのだ。


「そうだったね」


クリスがそう返すとエレナは堂々と言う。


「だから私は、あの経験をして、戦争の現実を見てきた彼らに任せていいと考えることにしたの」


人選をしたクリスや騎士団長、ブレンダの目は確かだし、そこで選ばれた人たちなのだから信頼してもいいだろう。

エレナはそういうことにして、自分は彼の国まで運ばれる側に徹するつもりだと言う。


「ちょっと極端だけど、こういう場面ではエレナの方が肝が据わってる気がするよ。でも警戒しないのと信頼しないのは違うからね」


注意をしたのはあくまでエレナの前に出てしまう行動のことであって、信頼して気を緩めていいというものではない。

安全ではないところに行くのだから、むしろ警戒心は強く持っていてほしいと思っている。

クリスがそう言うとエレナはうなずいた。


「わかっているわ。これでも緊張はしているの。でも、これまでこのような機会がなかったから、外で多くの経験ができることが楽しみでならないわ」


神妙な面持ちだが、目を輝かせているところを見ると、楽しみというのは本当のことだろう。


「楽しみの方が勝っているように見えるけどね」


クリスがそう言うと、エレナはもっともらしい言葉を口にする。


「そうしていなければ周りが不安になるでしょう?」


エレナの返しにクリスは思わず目を見開いた。

しかしすぐ、何事もなかったかのように微笑みながらエレナを褒める。


「そうだね。段取りをした私が不安そうにしていたら、いけなかったね」


上に立つ者の不安は下にも伝播する。

自信を持って決めたことのはずなのに、不安を見せることは選んだ相手に失礼だ。

だから堂々としていなければならない。

それはエレナの言う通りだ。

そもそも自分が不安に思っていることを隠しきれなかった時点でアウトだ。

別に彼らを信用していないわけではない。

自分だけだったらこれで充分だと言っただろう。



でも今回の外出にはエレナが同行する。

過剰な心配かもしれないが慎重にならざるを得ない。

パレードについては目的が一般市民の拉致だったため無差別に近いものだったけれど、相手の狙いが彼の国への訪問妨害、もしくは訪問者への危害だとするなら、一番狙いやすいのがエレナになる。

自分には過剰な護衛が付くだろうし、ブレンダとケインは腕に覚えがあるので狙いにくい。

一般的に知られている情報を考えれば、敵が一番標的にしやすいと考えるのはエレナで間違いないはずだ。



ただそれもここでは口にできない。

エレナの不安をあおっても仕方がないからだ。

クリスの中にある不安は、騎士たちのことではなく、エレナが害されないかということなのだが、これを口にすれば私情をはさむなと言われてしまう。

もしエレナに、自分の身を優先するという考えがあれば、ここまでしなくてもいいのだろうが、おそらく実際に事が起こったらまたパレードの時と同じような行動に出るだろう。

自分より皇太子殿下を守れと、序列を前に出して、自分をないがしろにしてしまうに違いない。

自分の価値は自分の持つ地位くらいしかなく、政略結婚の駒としての使い道くらいしかない、そのために生かされているのだと考えていた期間が長いこともあり、その誤解を解くべく幾度も弁明しているが、その言葉を正しく受け入れた様子はない。

そしてエレナはどこかでまだ、自分がケインと幸せなっていいのかと心の奥底で思っている節がある。

幸せになりたいと願いながら、他方で期待したらまた叶わぬ夢に破れるかもしれないと考えるのは、もう大きな傷を負いたくないという自衛が働いているのだ。

ただ、ケインのように、自分のために人生のすべてをなげうってくれた人がいることは理解してくれたので、その命を粗末に扱うことが、ケインの努力を無にすることになるのだと言えば、今は無謀な行動も止めてくれる。

でもそれだけではエレナの突発的な動きを止めるには弱い。

何よりケインがいなければ止まらないということになってしまう。

だからもっともらしい理由を考えて、エレナの周辺を過剰に固めなければならなかった。



この悪い予感のすべてが杞憂で終わればいい。

妹思いの自分が過保護だったと笑われるくらいで済むなら、それに越したことはない。

そしてエレナの言う通り、殿下が途中で合流しこちらの護衛についてくれるのならなお心強い。

彼の国の衝撃発表から日が経ち、その衝撃が落ち着いたこともあり、そろそろ各国に動きが見え始める頃でもある。

クリスはエレナと彼の国の話しながら、まずは無事にと、そう願わずにはいられないのだった。

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