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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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騎士団長の提案

「エレナ様、だいぶ形になっております。どうされたのですか?」


温室でクリスからアドバイスをもらった翌日、騎士団長にエレナが剣を構えて見せると、騎士団長が驚いて言った。

まだ力が足りないのかふらふらしているが、確かに持てている。

小さい子どもが始めて大きな棒を振り上げたような危なっかしさはあるものの、剣の先を上に向けることすらできなかったことを考えると、かなりの成長である。


「ブレンダとお兄様がたくさんアドバイスをしてくれたの。二人ともあとは騎士団長に言われたことができれば、剣を構えられるようになるんじゃないかって」


どうにか剣の先を上に向けて持ちながら、エレナは言った。


「ブレンダだけではなく、クリス様もアドバイスされたのですか?」

「お兄様は私を後ろから支えて、構えるのを手伝ってくれたの」


エレナは一度剣を下ろすと、それを自分に見立てて再現した。


「そうでしたか。私がエレナ様にそのような教え方は……」


本当はそのように教えるのが早い。

もしエレナが自分の子供であったり、教えているのが男子学生であったならそのような教え方もできるが、エレナはすでにそういう教え方をしていい年齢の子供ではない。

今のエレナは男性が迂闊に手を触れることすら許されない存在となってしまっているのである。


「わかっているわ。騎士団長といえども、さすがに不測の事態でもないのに私を後ろから抱えるなんてできないものね。だから同性のブレンダを指導に当ててくれたり、言葉を尽くしてくれているのでしょう?」


ブレンダを当てたのはたまたまそこを通りかかったからであり、エレナがブレンダになついているからであるが、わざわざそれを伝える必要はないだろうと、騎士団長は少し後ろめたさを感じつつも肯定の返事をした。


「……そうですが」

「それにお兄様が教えてくれたのは偶然よ。温室でお茶をした時にお兄様がブレンダの剣を使って見本を見せてくれたの。ブレンダに聞かれて私がやってみたいって言って構えてみようとしたのだけれど、それを見ていたお兄様が、そのやり方は危ないから一緒にって……」


あまりに嬉しそうに話すので思わず顔をほころばせて騎士団長は言った。


「お二人は本当に仲がよろしいですね」

「お兄様はやさしいのよ。色々アドバイスもしてくれたもの」


どうやらそのアドバイスの中に後は騎士団長に任せて大丈夫という言葉が含まれていたらしい。

騎士団長はその詳細を聞いてみることにした。

これでエレナができないだけなのか、理解していなくてできないのかが分かると考えたのである。


「クリス様はその時何とおっしゃっていましたか?」


エレナは自分がふらついた時のことを思い出しながら言った。


「重心が浮いてるとか……」

「そうですね。剣を持った時に体が伸び上がっていますから、膝を伸ばさないように気をつけていただいて……」


言葉としては理解しているが、動作としては理解できていないらしい。

それならば言葉通りの動作を覚えてもらえばできるようになるだろう。

一瞬でもその形になれるということは筋力もそれなりについているのだから、あと一歩だ。


「えっと……」


エレナが自分の重心を下げたまま剣を持ち上げようと格闘していると、騎士団長は言った。


「剣を持たないで重心のおさらいをいたしましょう」

「そうね。やってみるわ」


その後訓練では剣を持つことはなく、体の使い方から再度おさらいをして終わったのだった。



それから何度か騎士団長が指導をしていたが、そこからなかなか進むことができなかった。

剣を持たなければ構えられるが、剣を持つとバランスを崩す。

鍬で土を耕したというのだから、鍬はそれなりに持ち上げて振り下ろすことができたはずである。

鍬だって剣よりは軽いがそれなりの重さがあるものだ。

鍬を使えたのなら剣だって使えそうなものだ。

それに剣だって両手で受け取ることはできるのだから、持ち上げられないわけでもない。

こうしてもどかしい日々が過ぎていく。

訓練場に来ても剣のことばかりやっているわけではない。

広い場所が空いている時は弓やナイフの訓練をメインにしている。

エレナには自分の身を守るため、剣より、ナイフを扱えるようになってもらう必要があるのだ。

そのせいでなかなか身につかないのではないかとも考えたが、それは優先順位が違うと騎士団長は自分に言い聞かせている。

それに回数を増やすにしても騎士団長にもそれなりの仕事があるし、エレナにも勉強や公務がある。

お互いの時間の合う時しかできないのだから、なかなか伸びないのは仕方がない。

とはいえ、このままでは次の騎士団の入団の時期が来てしまう。

エレナは体力測定に参加すると言っているのだ。

それまでに最低限のことができるようになりたいというのがエレナの願いなのだ。

同じことを何度も繰り返さなければならない訓練に必死についてきているエレナのことを思うとできないからと割り切るのは心苦しい。


「エレナ様、少しご相談なのですが……」

「何かしら?」

「私と都合を合わせますと、なかなか訓練の回数を増やすことができません。それに私の力不足でなかなかエレナ様の能力を高めて差し上げることができていないように思うのです」


不甲斐ないと騎士団長が言うと、エレナは首を横に振った。


「そんなことはないわ。むしろ騎士団長の言われたことをなかなかできない私がいけないのよね。せっかく時間を取ってもらっているのに……」

「いいえ、エレナ様は悪くございません。そこで、本題なのですが、私だけではなく、ブレンダにも手伝いを頼もうと思うのです。以前のように何か違う視点でエレナ様の能力を開花させてくれるかもしれません。後少しでできるというところまで来ているのに、ここで止まってしまうのはもったいない。次の測定までの間だけでも回数を増やして、できることをして差し上げたいと思うのです」


それがここまで頑張り続けているエレナの努力に報いる数少ない方法かもしれないと騎士団長は思っていた。


「ブレンダはお兄様の護衛があるのにいいのかしら……?」


今までも色々してもらっているが、本来はクリスの護衛騎士である。

それにクリスの護衛騎士になれる人間は色々な意味で一握りしかいない。

そうなると今いる護衛騎士の仕事が増えてしまうのではないかとエレナは心配になったのである。


「それは問題ありません。おそらくブレンダもエレナ様の指導なら喜んで引き受けてくれますし、護衛騎士だって休みを取ることもあります。それからあくまでこれはエレナ様ができるようになるまで、もしくは体力測定までという期限付きです」


それを聞いたエレナは騎士団長の提案を受け入れた。


「私が早くできるようになれば元に戻るということだものね。わかったわ!」


そしてエレナは、ブレンダの力を借りてできるだけ早く剣を使えるようになろうと心に誓うのだった。

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