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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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騎士団からの要請

エレナが孤児院に行っている間、クリスやブレンダは騎士団長と話をしていた。

談話ではなく、彼の国訪問に関する打ち合わせだ。

訪問先が安全な場所であってもそれなりの人員を割くが、今回は先日まで戦争をしていた彼の国だ。

まだまだ彼の国に恨みを持つものも多いだろう。

普段より警戒する必要がある。

そうなると四人の安全を考えて多く騎士を配置したいところだが、その間、安全と言われているこの国の警備を手薄にするわけにはいかない。

今回に関しては塩梅が難しいと騎士団長も頭を悩ませていた。

もちろんまだ日程が決まっていないこともあり、ここで決める必要はない。

まずは懸念事項をピックアップし、一つでも多くそれらをつぶしていく手段を考える。

その考えるための材料を上げている段階だ。

それにこの話については騎士団長とクリスだけで決められる話ではない。

国王、王妃の両名ともすり合わせが必要な案件だ。

最終的には合同で話し合いの場を持つことになるが、それまでにできる準備を始めておかなければ、調整不能になった時、手詰まりになる。

それを回避するための単なる事前確認なのでさほど重たい話はない。

だからこそこうしてクリスは公務の片手間に話をしているのだ。



そうして話が落ち着いたところで、話の流れもあって、騎士団長からとある依頼が正式に上がってきた。

それについてはすでに書類にまでされていた。

予想していたこととはいえ、要望が本当に届いたと苦笑いを浮かべながら、クリスはそれを受け取る。


「こうなることはわかってたけど、思ったより早かったね」


訪問の話がすでに先にあったので、その後にとのんびり構えていたのだが、なんと彼らはその前に一度と言ってきたのだ。


「今回の移動につきましては、どうしても毎回宿を利用してというわけにはまいりません。どう道程を組んでも、野営、もしくは小さな村の滞在という日が発生してしまいます。ですからその際の食事などは騎士団と同じものになってしまいます。ですが騎士団の料理はとても食べられたものではありません」


だからこそ、孤児院にある少ない食料であれだけのものを作ったエレナが賞賛された。

同時に自分たちがいかにこういったことに不慣れであったのかを思い知った。

戦に同行した際に、彼の国の調理風景を見て、実際に食してきた者はなおさら自分のふがいなさを痛感したそうだ。

もちろん調理場の皆の総力を結集したものであることはわかっているが、それを手際よく再現しているエレナも素晴らしいと、同行した彼らは尊敬のまなざしを向けていたのだ。


「そこで料理に関する指導を出立前にしていただいた方がいいのではないかと、一部から声が上がりまして、こういう形となりました」


建前としては、エレナやクリスによくわからない保存食や、おいしくない野営食を出すわけにはいかない。

だから学びたいということだが、それにしてはずいぶんと入れ込んでいることが書類上からも読み取れた。


「思ったより熱がこもっているみたいだけど、それはエレナが来るからだと思っていないよね?」


前にもこうなった場合のことは話してあった。

もし料理を学びたいという騎士たちが出てきたら、調理場から人を派遣して、その人に教えを乞うことになるが問題ないかと確認しようと決めている。

けれどまだ、こうして話が上がってくる前だったこともあり、本人たちには伝えていない。

だからこのやる気がエレナに起因しているものだったら、調理場から人を派遣すると通達した時点で、騎士たちがやる気をなくす可能性がある。

念のため騎士団長に確認をすると、彼は小さく息を吐いた。


「それはないと思います。むしろ今回、彼の国に同行する者の内、特に例の戦の経験者においては、自分たちが役に立たなかったことを恥と思っているようで、研鑽すべきと考えているようです。もしかしたらあちらに着いた際、同じような話になった際、自分たちも成長していると伝えたいと、そんな心情かと思われます」


今回の同行者は、練習を兼ねて孤児院に同行したメンバーが多い。

そしてそのメンバーは彼の国の戦に同行した者を中心に選抜している。

王族であるエレナですらできることを自分たちができていないと、孤児院でのエレナを見て思ってしまっても不思議ではない。


「私は話にしか聞いていないけれど、彼の国の料理は騎士たちが手際よく準備して、しかも食べやすいものをうちにも提供してくれたんだったね。うちからも何かふるまえればよかったけどそれは難しかったと。持っている食料を渡すことしかできなかったと、そんな感じだったかな」


こちらからは保存のきく食べ物を多く提供した。

材料を持っていても最低限しか調理できない騎士団では、事前に用意された保存食をたくさん持ち歩く。

彼らにはそれらを分けて、その代わり彼らからは温かい料理をいただいたのだ。

保存食は携帯しやすいようになっているので移動の際には重宝したとあちらからお礼を言われたが、それは食料が潤沢で、お金があれば購入できる状況の我が国だからできたことだ。

彼の国は食料難のため質素倹約に努める必要があり、保存のきく米という主食を原料で持ってきており、その場で調理して食べられる状態に作り変えていた。

あの場でできたての温かい料理というのは本当にありがたかった。

この先、自分たちが同じ状況に置かれてあれができれば、随分と心持ちが代わるだろう。

いくら訓練して強くなろうとも、こういったことはおろそかにしてしまっていたなと、そう痛感させられたのだ。


「その通りです。特に貴族から上がった者は役に立たなかったことに間違いありません。平民上がりの者が家の手伝いをしていたことがあると少々使えた程度で、大半はやろうとしても足手まといになると、物品を運ぶ以外、控えているしかありませんでした」


自分も含めてそれが悔いの一つとなって残っている。

騎士団長がそう言うと、クリスは微笑んだ。


「わかった。そこまでの熱意があるなら、一度調理場に話をしてみるよ。断られはしないと思うんだけど、エレナと違って彼らが騎士団の、彼らの圧に耐えられるかどうかっていうのもあるからね。適任者いるか、料理長に確認するところからだよ」


あまり期待しないでねと伝えるが、騎士団長は頭を下げる。


「僭越ながら私も、そこには参加させていただくつもりです。よろしくお願いいたします」


上に立つ自分が率先してやらねば示しがつかないというのもあるが、希望してきた騎士たちと同じ気持ちが騎士団長にもあった。

これは騎士の矜持の問題なのだ。


「じゃあ、ますます誰にするか考えないといけないね。あと、あんまり威圧しないであげてね」

「もちろんです。私が騎士をけん制します」


きっと希望者は孤児院の訪問に同行したメンバーが中心になるだろう。

それならば平民が来ても見下すことはないだろうが、そういう人間が出たら相応の処置をとると騎士団長は言う。

頼んでおいて失礼な態度は許さないと、珍しく力の入った騎士団長の申し出にクリスは小さく息をついて答えた。


「じゃあ、これは一度私の方で預かるよ」

「はっ!」


とりあえず話が終わって、要望が受理されたため、騎士団長は仕事に戻っていく。

そしてエレナ達がそろそろ到着する予定の時間だ。

とりあえずエレナが戻ってくる前に話を終えられてよかったとクリスはひっそり安堵して、再び仕事に戻るのだった。

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