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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お金の大切さ

役割が決まったので、あとは院長が戻るのを待つだけだ。

そう考えているところに院長が戻ってくる。


「トレイをお持ちいたしました。このようなものしかございませんが……」


とりあえずすぐに用意のできるトレイを二つ持って戻ってきた院長に、先生は微笑みかけた。


「十分ですわ。少々お借りしますわね」


先生はそう言うと、トレイを並べて置いた。

エレナは自分ではどうしていかわからないとお金の袋を先生に渡す。

先生はそれを受け取り、エレナに説明しながら並べようと袋を開けて中身を取り出した。


「じゃあ、トレイは二つお借りできましたから、紙幣と硬貨で分けましょう」


そう言ってトレイにそれらを置くと、その様子を見ていた院長がそれらに目を奪われた。


「これは……」

「本物のお金です」


そんな院長に、先生は何事も内容に答えた。


「それはわかりますが……、これは私でもめったに見ることができないものでして……」


高額なものに関しては院長も実物をほとんど見る機会はないという。

国営の孤児院での大きな支払いは国が負担しているのだから、当然だろう。

貴重なお金を拝むように見ている院長にエレナは言った。


「これを皆にも見てもらおうと思うわ。実物を知っている方が道具を作りやすいでしょうし、そういうお仕事をすることになったら、実物を知らないより知っていた方が落ち着いて対応できるでしょう?」

「そこまで……。ですが……」


院長はそう言いながら子供たちを見た。

大人はまだその価値を理解しているからいいが、子供は初めて見るこれらをおもちゃと同じように扱ってしまう可能性がある。

硬貨をなくしたり、紙幣を破って使えなくしてしまったりすることもないとは言えない。

これが普通のおもちゃなら叱る程度で済むが、これはそうはいかないものだ。

院長の過剰な心配と心中を察したのか、先生が言った。


「これは院長が思っていらっしゃる通り本物で、しかも一部はかなり高額なものです。これだけで孤児院の何か月分もの食事が賄えることでしょう。ですから、こうしてトレイに乗せた状態で騎士の警備を付けて回ります。これで子供たちに、その価値も伝わることでしょう」


何かしでかしそうになったら騎士たちが止める。

だから心配しなくていいし責任は問われないから安心していいと付け足すと、院長は安堵して息を吐いた。


「わかりました。そこまでしていただけるのなら私からは何も言わないほうがいいかもしれません」


自分から説明すると言葉が軽くなってしまうかもしれない。

最初から騎士や先生、エレナから説明させた方がしっかり聞くだろう。

こうったことは、身内の言葉より他人の言葉の方が効くものなのだ。

先生もそれは理解しているとうなずいた。


「私たちから説明いたしますのでご安心ください」

「はい。お任せいたします」


そう言うと院長は一番後ろで見ているとさがっていった。



トレイの上に準備ができ、騎士たちが二人一組になって動けるように立ち上がると、先生とエレナが騎士たちの間に立った。


「ごめんなさい。待たせてしまったわね。でも皆がこれを準備していてくれたおかげで、早く進められそうよ」


仕訳けられた紙と木材を指してエレナが言うと先生がそれに続く。


「今日は先日お話ししたお勉強のための道具を、皆さんで作っていきたいと思います。ですからお勉強はお休みですが、作る過程で、たくさん復習の機会があります。もしそこに気が付かないくらいスムーズに作業ができたら、それは皆さんの実力が上がっている証拠です」


実際に書くのは数字ばかりだが、それでも紙や木材に書くことはあまりなかったはずだ。

仕事になったら大半は紙へ記入になるし、そういったものに慣れるいい機会だ。

先生がそんなことを思っている間にエレナが話を進める。


「でも作業の前に、皆に見せたいものがあるの。それは今、騎士たちが持っているものよ」


エレナがそう言うと、騎士がトレイを少し傾けて見せた。

身を乗り出してそこに乗っているものを見ようと子供たちが一斉にのぞき込む。

トレイを持っていない騎士は、子供が近づきすぎないよう、彼らを制した。


「これは、この国が発行しているすべての種類のお金です。すでにバザーや買い物でお金を見たことがある方もいらっしゃると思いますが、彼らでも見たことのないものもあるでしょう」


先生がそう言って女性たちに話を振ると、女性たちは少し近づいてトレイを見下ろしてから言った。


「そうですね、私たちが預かるのはこのあたりのものですから……」

「でも、数字が読める今ならわかります。ここより騎士様側にあるお金は、私たちが食費で預かったり、バザーで受け取っていたお金より高いもの、ですよね」


自分が買い物のため預かっているお金ですら、ここにいる子供たちが何食か食べられる分の食事が買えている。

それよりはるかに高いとされるこれらがすべてあったらと考えたら、それだけでこれらがいかに価値のあるものかわかる。

女性たちが顔を見合わせていると先生は微笑んだ。


「その通りです。この先、たとえお仕事を始めても、すべての種類に触れることはないかもしれません。ここにはそれだけ高額なものも含まれています。ですがまず、この国にはこれだけのお金の種類が存在しているということをきちんと知っておくことが大切です。そしてここに準備してもらったもので、お金の代わりになるものを作っていきます。勉強のためとはいえ、本物のお金を道具の代わりにするわけにはいきません。それに本物のお金は皆の生活のため、失くさないよう院長が大切に管理してくれているでしょう?ここにあるお金というものは、院長が大切に管理しなければならない、本当に価値のあるものです。それはほかの人たちにとっても同じ。ですから仕事をすることになって、たくさんのお金を目にしても、それが自分のお小遣いでもらったものであっても、できるだけ大切に扱ってください」


商家出身でおそらくここにいる誰よりもお金というものにじかに触れていた先生の言葉は重い。

慣れていない今は珍しいものだから丁寧に扱うが、長く扱っているうちにそれらが高価であるとか、大事なものであるという意識が薄れてしまう人が多いのだ。

本当なら働きに来た人間に改めて伝える言葉ではあるが、ここで伝えておけば彼らはそれを守ってくれるに違いない。

むしろ忘れては困ることなのだから、何度も言われるくらいがちょうどいいだろう。

先生の言葉に子供たちは顔を見合わせた。

これまでバザーを手伝ってもらったお小遣いのことを思い出したのかもしれない。

きっと適当に手に握って、粗雑な扱いで買い物をしていた子もいたのだろう。

そしてそれがいけないことだったのかもしれないと感じとったようだ。

少し空気が重くなったところで、エレナが代わる。


「それでね。これから皆にはそんな大切な本物のお金を近くで見てもらおうと思っているの。作る時に似せる必要はないけれど、これと同じものとして使う道具を作るということは理解してほしいわ。そうすれば作った道具も大切に扱えるでしょう」


皆がエレナの言葉を聞いて、真剣な顔でうなずく。


「それでは皆さん、いつもお勉強をしているように座ってもらえますか?騎士たちが皆さんに見せて回ってくれますから、立ち上がったりしないでくださいね。見えなかったらそう言ってくれたら近くに行ってくれますから」


先生がそう言うと、ようやく子供たちはいつもの調子を取り戻して、元気に返事をするのだった。

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