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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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実物の見本

食事の時間を無事に終え、いよいよ道具作りの時間になった。

院長が事前準備はすでに行っていると、紙を紙幣に近い形に裁断したものや、形は違うけれど硬貨の代わりにできるよう、手のひらに乗る、ほぼ同じサイズに四角く切り出された板をたくさん抱えていつもの部屋にやってきた。


「これらの出番ですね」


そして抱えてきたものをエレナと先生の前に差し出し、続ける。


「こんな感じで準備を進めましたが、大丈夫でしたでしょうか」


板にも紙にも何も書かれていない。

こうしてみると材料だけでもすごい量だ。

一人で文字を書くだけでも一苦労だろう。

先日の練習で使った量とはわけが違う。

確かにこの分量の道具を無償で与えたら何か言われそうだ。

エレナがそんなことを考えていると、先生はその中身を確認し院長に言った。


「まあ!これは素晴らしいと思いますわ」


先生がそれを褒めると、すでにやってきていた子供たちは嬉しそうに声を上げる。

何に使うかよくわからないけれど、院長からこれが勉強の道具になると聞いて皆で一生懸命作業したのだろう。

見ていなくてもそれが伝わってくる。

ここまで作業が進んでいるのなら、あとは用意されたものに色を塗ったり文字を入れたりするだけだ。

乾かす以外の作業は今日だけで終わるだろう。

二人はそう見立てながら、全員が一通りの作業ができるよう、紙と木材を購入者が手にする金額として決めているものを作れる分が手元にわたるよう仕分けした。

そうして分けて残るのは、販売者がつり銭として使う用のお金になる用の材料だ。



騎士たちも数人が手伝って、仕分けをしていたが、終わって顔を上げると皆が揃っていて、こちらをじっと見ていた。

作業中なので静かにしていたが、これから自分たちの作ったものが、勉強道具に変わるのだと目を凝らしている。


「分けるだけで思ったより時間がかかってしまったわ」

「そうですね」


とりあえず皆に手渡す分は終えたものの、まだ仕分けしきれていないものがある。

それも少なくない量だ。


「これはどうしようかしら?」

「こちらは皆さまが作業をなさっている間に仕分けをして、作っておいていただくしかないですね」

「やっぱりそうなるわね」


残ったのは販売者が使う予定のお金だ。

これはお釣りになるものなので必要ないわけではない。

けれどこの作業までしていたらそれだけでかなりの時間を使ってしまう。

エレナが迷っていると先生が言った。


「まずは皆様にこちらをお渡しして作り方をお伝えしましょう。エレナ様からもお話をなさるのでしょう?」


先生の言葉にエレナはうなずいた。


「ええ。現物を見せようと思っているわ」


そしてエレナは斜めに下げていた手元の袋を開けて見せる。


その中を覗き込んだ先生は思わず声を上げそうになったのを抑えて小声でエレナに言った。


「まあ!実物お持ちになったのですか?」

「ええ。でもすべて一種類ずつよ。それでも高額ではあるでしょうけれど、一度実物を見ておいた方がいいと思うの」


エレナもここにいる皆が、特に高額のお金の触れる機会などそうないことは理解している。

けれど勉強道具としては用意するのだ。

本当に存在することを知ってもらうためにも見せておくのがいいだろう。


「そうですね。わかりました。ではそちらを見ていただきましょう。ですが、絶対にそれを適当に手渡して皆で回したりということはさせないでください。本物のお金はおもちゃではありません。これがとても大事なものであるときちんと示しておかないと、扱いを軽んじることにつながります。最初が肝心です」


エレナがどう見せるつもりかは聞いていない。

けれどもし、文字の表を見るように、書き方を教える時のように集合させて、手に取らせてと絵本やおもちゃを扱うのと同じような方法を考えているのなら、それはいけないと釘を刺す。

図星を指されたエレナは、先生の言葉を受けて、すぐその方法に少し手を加えたものを提示した。


「そうね……。本当は手に取ってもらいたかったけれど、博物館のような形式で見てもらうことにしましょう。騎士たちにもついてもらえばよりそれらしくなるし、物々しさも伝わるでしょう」


貴重な品を展示する際は必ず警備がついている。

それを騎士たちに担ってもらって、皆には順番に流れるように動いてみてもらう方法を提案すると、先生は及第点だが別の方法にした方がいいだろうと言った。

そして今回は自分の提案を採用してほしいと申し出ると、院長に声をかけた。


「そうですね……。院長、食事用のトレイなどはございますか?」

「あ、ええ、ございますが……」


突然話を振られた院長は首を傾げる。

けれどやっていることを見せればわかるだろうから道具を持ってきてもらう方が先だ。

先生は事情の説明を省いて続ける。


「二つほどお借りしても?」


先生の言葉に院長はうなずいた。


「かしこまりました。お持ちいたします」


そう言うと院長はトレイを取りに行くと部屋を出ていった。



院長を見送ったエレナは、先生にトレイを使う目的を尋ねた。


「トレイを何に使うの?」

「そこにお金を乗せて騎士にお持ちいただいて回っていただくのです。皆が寄ってくるのではなく、見せて歩く形にすれば、皆が動く必要はありませんよね。そうすることで誰が手に取ったのかわかりますし、雑な扱いをするようなら注意もできます。それなら一人ずつ見ることができるでしょう。少々お時間はかかるかもしれませんが、紙幣と硬貨のトレイに分けて後ろと前から回れば時間もそこまでかからないと思いますよ」


子供たちがガヤガヤしながら集まって、しゃべりながら見るのも悪いことではないが、それでは時間がいくらあっても足りない。

それならばこちらが時間を決めて見せて回った方が早いと言うと、エレナは理解を示した。


「さすが先生ね。じゃあ、用意ができたらお願いしたいのだけれど」


そう言ってエレナが騎士の方を見ると、先生の護衛をしている騎士の四人が名乗りを上げた。


「では我々が、二人一組で参ります。こういったことは、子供たちに慣れた者より、慣れない者が行った方がよいでしょう」


普段一緒に遊んでいる騎士たちでは、子供たちも気を抜くかもしれない。

こういう場合はあまり親しんでいない人間が圧をかけた方が緊張感が増す。

怖がらせたりするつもりはないが、その方が本来の目的に沿ったものになるだろうと彼らが言うと、先生は黙ってうなずいた。


「ではお願いするわ」


それを見たエレナは、問題ないと許可を出したのだった。

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