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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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完成した花壇

花壇を耕して数日後。

訓練場でいつもの通り騎士団長の指導を受けて帰ろうとしたところでブレンダに声をかけられた。

騎士団長はブレンダが待っていることを知っていたのか、何も言わない。

エレナはブレンダの話を聞くことにした。


「ブレンダ、これからお兄様のところ?」

「はい。その前にエレナ様にお話があったので少し待たせてもらいました」

「何かしら?」


ブレンダから声をかけてくるのは珍しい。

エレナが小首を傾げていると、ブレンダは笑みを浮かべて言った。


「明日、先日の花壇を見に行こうと思うのです。ご都合いかがですか?よろしければぜひご一緒にと思いますが……」

「まあ!ブレンダから誘ってくれるなんて嬉しいわ!もしかして完成したの?」


ブレンダが言い終わるか終らないかのところで、エレナが目を輝かせて尋ねた。


「はい。鉢から植え替えをしたそうなので、今が見頃とのことでございます」

「そうなのね!早く見たいわ!」

「そうおっしゃると思っておりました」


ブレンダはエレナが心から喜んでいると感じて安堵した。

エレナの方はもう気持ちは明日の方に向いている。


「訓練着にした方がいいかしら?」

「いいえ。畑仕事はいたしませんから、普段着で大丈夫でございます」

「わかったわ」

「では明日の昼過ぎ、お部屋までお迎えに上がります」

「ええ。待っているわね!」


話が終わるとブレンダは礼をして仕事に向かった。

ブレンダを見送って、訓練場の入口で騎士団長と別れたエレナは、着替えと休息のために部屋に戻るのだった。



その日の夕食、エレナにクリスが尋ねた。


「今日は上機嫌だね。いいことでもあったの?」

「ブレンダに温室の花壇を見に行こうって誘われたの」


ブレンダに誘われたことが嬉しいのか、花壇に行くことが嬉しいのかよくわからないといったようにクリスは言った。


「温室ならいつ見に行っても大丈夫だよ?わざわざ約束したの?」

「ええ。誘ってくれたのはブレンダだもの。一緒に楽しみたいと思ったの」

「そう……」


すっかりエレナはブレンダに懐いてしまっている気がする。

少し複雑な表情を浮かべているクリスを不思議そうに見ながらエレナは言った。


「お兄様はお仕事なのでしょう?」

「うん。でも、エレナがいいなら少し一緒したいかな」

「本当?最近お兄様とお話する機会が少なくて寂しかったもの。少しでも嬉しいわ」


予想外の喜ばしい返事にクリスは気を取り直した。

しかしクリスは明日も執務がある。


「エレナが歓迎してくれるなら行けるように頑張るよ。時間によっては遅れていくことになると思うけど……」

「お兄様が来てくれるなら、それまで温室で待つことにするわ」

「いいの?」

「もちろんよ!」


温室の花壇など見たらすぐに出てきてしまうだろうと思っていたが、そこでエレナはクリスを待つという。

お茶をして話をするだけならばエレナを執務室に呼べば済むのだが、なぜエレナが温室にこだわっているのかを知っておきたいとクリスは思った。


「じゃあ、温室に行く時に伝言を残してくれる?そしたら出られるようにするから」


クリスがそう言うとエレナは嬉しそうにうなずくのだった。



翌日、ブレンダは約束通り昼過ぎにエレナを迎えに来た。

ブレンダはいつも通り帯剣した騎士の恰好だが、今日のエレナは訓練着ではなく動きやすいシンプルなドレスである。


「本当にいつも通りの恰好でいいのかしら?ブレンダと違って動きやすい服とは言えないけれど……」

「はい。お花を見に行くだけですから。それに私もいつも通りでございますよ?」


仕事中に行くのだから何かすべきではないかという考えがすっかり身についてしまっているエレナは、些細なことが気になってしまうのだ。


「今日は仕事でも訓練でもなく、私とお出かけです。そろそろまいりましょう」

「ええ、そうね」


ブレンダがエスコートしますと手を差し伸べるとエレナは素直にその手を取った。

そしてエレナは兄の執務室に約束通り使いを出すと、自分たちは一足先に温室へと向かうのだった。



「いかがですか?ご自身で耕した花壇がきれいになっているのは」


花壇の縁、ぎりぎりのところまで近付いたところでブレンダが声をかけた。


「きれいな花壇になっているわ。お花も満開で、気持ちが明るくなるわね。この花壇のお手伝いを少しだけれど自分がしたって思ったらますます感動だわ!」


今日は作業をするわけではないため日よけはない。

土にも植物にも太陽が当たり、すでに水をあげた後なのかところどころ光って見える。


「ところでエレナ様、この配置に覚えはありませんか?」

「配置?」

「はい」

「特に思い当たらないけれど……」


エレナが小首を傾げて考えているとブレンダが言った。


「では、もう少し離れた場所から見てみましょうか。そうですね……ちょうどお茶の用意が整ったようですし、あの辺りから」


言われてエレナが振り返ると、侍女たちが少し離れた位置でお茶の準備を始めていた。

前回は花壇のすぐ脇にあったテーブルがそこに移動されているのだ。


「そうね。これからお兄様が来るのを待つのだもの。お茶をいただきましょう」


エレナはそう言うとテーブルの方に歩きだした。



エレナは着席すると、立ったままのブレンダに声をかけた。


「ねえブレンダ、今日は私とおでかけよね?私の護衛ではないのだから一緒にお茶をしてくれないかしら?」


ブレンダが侍女たちの方に視線を向けると侍女は首を縦に振った。


「わかりました。では失礼いたします」


ブレンダが座るとすぐに彼女の前にもお茶が用意される。

後はここでクリスが来るのを待つだけだ。


「エレナ様正解は分かりましたか?」

「花壇の配置よね……。この建物には特にこのような配置はなかったと思うのよ。歴史的なデザインでもないようだし……」


難しく考えすぎて答えに行きつかないエレナに、ブレンダは言った。


「エレナ様が作業の時にしていたハンカチのモチーフを再現しているんですよ」


答えを聞いたエレナはハンカチのモチーフと、花壇を比べて必死に考えてようやく理解した。


「ハンカチ……?あっ!確かに頭に着けている時の刺繍はこう見えるわ!鏡で見た時と同じね!でも、私がお手伝いしたのはあの午前中の一回だけよ?あれで覚えたということかしら?」

「そうですね。エレナ様がお戻りになった後、すぐにこの形を再現されていましたから、忘れる前にと考えてのことでしょう」


庭師がエレナに敬意を表してこのデザインを再現しようと決めたのだが、エレナは単に自分のデザインを気に入ってくれたのだと解釈した。


「そうだったの。私の刺繍のデザインを気に入ってくれたのなら嬉しいわ!それに刺繍より本物のお花が広がっている方が素敵。今度はこのお庭からデザインを考えてみたいわ」

「エレナ様ならきっとこれを見せたら喜んでくれると思っていました。やっぱりお誘いしてよかったです」

「ええ。まさか私も自分のモチーフが花壇で再現されていると思わなかったわ。それにあの時、庭師の誰とも話ができなかったの。だからどう思われているか不安だったわ」


作業の時、全てブレンダが仲介していて、遠巻きに庭師を見ることはあっても近くで話をすることはなかった。

唯一近くに来てくれた少年ですら、見本として作業をしている様子は見せてくれたものの一言も口を開かなかった。


「そうですね。でも、こうしてわざわざエレナ様を連想させる花壇にしたということは、彼らはエレナ様が頑張っているのをちゃんと見ていたということですよ。少なくとも、頭のハンカチについているモチーフを覚えるくらいには」

「……それも何だか恥ずかしいわね」


自分の知らないところで後ろからしっかり観察されていたということである。

ブレンダからは指導を受けていたので見られている意識はあったが、庭師にはどう映っているのか心配になる。


「私はエレナ様が周囲に認められたという意味で嬉しいですよ。貴族の多い騎士団の訓練場のように、すぐに打ち解けることはできないかもしれませんが、エレナ様が望むなら、彼らともゆっくり話のできる日が来ると思います」

「そうかしら?」

「はい」


ブレンダがそう伝えるとエレナは嬉しそうに紅茶を飲みながら、花壇を堪能するのだった。

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