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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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正しい教育の弊害

エレナを部屋に待機している侍女に預けると、ブレンダは一礼して言った。


「では、私はこれで失礼します。後はお願いいたします」


そして、ふらふらと湯浴みに向かうエレナを見送り、部屋を出ようとした。


「お待ちください」


高齢の侍女に呼び止められたブレンダは笑顔で聞いた。


「何でしょう?」


笑顔のブレンダに対して侍女の表情は固い。


「失礼ながらブレンダ様、エレナ様は剣を使えるようになりたいのですよね……。農家になるわけでも庭師になるわけでもないのですが、これは本当に役に立つのですか?」


泥だらけで土を耕す姫や貴族令嬢などほぼ皆無だ。

彼女からすればブレンダが何をさせたいのか見当がつかない。


「そうですね。剣には型というものがあるから、本当なら正しい型を身につけるところからやることが多いだろうけど、エレナ様は剣を持って構えることもできないのでしょう?それはそういう経験が浅いからなんですよ。だったら、剣とか型という意識を一度失くして、棒を振るとか、似たような動作を違うことで学習するという方がいいと思ったのです」

「ですが……」


本来ならばそんなことはできなくてもいいことである。

侍女がそう言いかけたところでブレンダが続けた。


「エレナ様はそういう遊びの経験が少ないように思います。近くに住む子供たちとごっこ遊びをするような経験はできないままお育ちになったのではないですか?遊び相手は忖度できる大人ばかりという中でしか遊んでこなかった」

「それは……」


確かにエレナの遊び相手はケインとクリスを除けば大人ばかりであった。

だからこそ王妃は同年代の友達を与えなければとお茶会を開催するようになったのである。

すでに経験や環境が違いすぎてお茶会ではエレナが寂しそうにしているのは知っている。

しかし自分の立場で王族の教育方針や重鎮たちに意見することなどできない。

侍女がどういえばいいか迷っているとさらにブレンダが言った。


「普通の人がやっていることをエレナ様はさせてもらえていないのでしょう。エレナ様はそれが学校に通うことだけだと思われているようですが、本来、それだけではないはずですよ。同年代の子たちと、ままごとをしたり、時には男の子とちゃんばらをしたりすることもあるはずなのです。ですがその経験がまったくない。だから少しでも幼い頃にやった事があればできそうなことが、身に付いていないのです」


他の子供が幼い頃にしていたであろうことをエレナはほとんど経験していない。

もしかしたらクリスもそうなのかもしれないが、クリスは学校でそういう話を見聞きしているだろうからまだエレナよりも経験は豊富だろうと思われる。


「今のエレナ様は道具を正しく使うことしかできないのです。正しく使うように厳しく言われて育ち、そういうものだと教えられてきたのですから。ですが、それでは応用がきかないのです。好奇心旺盛なエレナ様にとって、その制限は本当に正しかったのかは判りかねます。しかしそれならば、より多くのことを経験させることで、エレナ様の才能や可能性を引き出すことしかできないのです。過去をやり直すことはできないのですから」

「間違ったこと、嘘を教えることはエレナ様のためになりません」


さすがにブレンダの言い分に苦言を呈するが、ブレンダは首を横に振った。


「正解しか教えない、正解しか褒めない、それしかさせないというのは大人が楽をしている証拠です。エレナ様は学ぶ意欲が強く、まっすぐな方ですから、教えたことを良く吸収してくださいます。王族の皆さまからすれば政略のコマとして、お飾りとして使えればいいくらいの考えなのでしょうけれど、それではあまりにもエレナ様が不憫でなりません。それでは私は仕事に戻ります」


そう言って侍女に一礼するとエレナが湯浴みから戻る前に部屋を出て、再び温室に向かうのだった。



「エレナ様をお部屋にお送りしたので手伝いに来ましたよ。今回は私の頼みで作業が遅れているのですから、私も手伝います」


ブレンダは温室に戻るとちょうど休憩していた庭師に声をかけた。


「ほんとにブレンダ様は義理堅いな。悪いが頼むよ。種からでも鉢からでも植える時期が決まってんだ。時期を見誤ったら全部枯れちまうからな」

「私は嫌いではないのですよ、土をいじるのも」


話をしながら置かれた鍬を手にすると、やりかけの花壇を耕し始めた。


「はははっ。じゃあ、騎士を引退するようなことがあったら、俺が立派な庭師として育ててやろう」


庭師はブレンダが耕し始めると、たくさんの花の株の入った鉢を花壇の方に集め始めた。


「その頃には体力がなくなってて役に立たないかもしれませんよ?」


土をいじるのが好きだからといって、騎士を辞めて庭師になる気はない。

仮に大けがをしたとしても、いられる限り騎士団に在籍していたいと考えている。


「俺はあんたのことも気に入ってんだ。楽しく仕事ができそうだからな」


大きく口を開けて大笑いしながら庭師が言うと、ブレンダは合わせた。


「じゃあ、その時は是非お言葉に甘えましょう」

「そうしてくれ」


そんな会話をしながらブレンダは土を耕し、庭師は耕されたところに鉢を置いていく。

今回は鉢から移しかえるようだ。


「今日はここまでだな。今回はこんな感じにしようと思うんだ。いいだろう?」


ブレンダが耕し終わると、ほぼ同時に最後の鉢が置かれ、全ての花の場所が決められた。

ブレンダは少し離れて全体を眺めた。

そして、その花のレイアウトが何かに似ていることに気が付いた。

少し考えてすぐに何か思い出すとブレンダは嬉しそうに言った。


「ええ。これはぜひエレナ様にお見せしないといけませんね。完成したら教えてください」

「はははっ。数日で終わるから自分で確認に来てくれよ。訓練場になんて恐ろしくて俺たちは近付けねぇや」


庭師をしているものは地位の低いものが多い。

そんな庭師が貴族の多い騎士団だらけの訓練場に、ブレンダのようなトップクラスの近衛騎士を訪ねて行くなんて恐れ多くてできない。

手紙を出すのも憚られる。


「わかりました。じゃあ、また立ち寄ります。それでは私は戻りますので」

「おう!」


ブレンダはその返事を聞くと、鍬を元の場所に戻し手を清めて、騎士団長への報告のため訓練場へと向かうのだった。

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