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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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男の子の可能性

「姫様、大丈夫でしょうか……」


子供たち、特に申し出をしてきた男の子たちはやんちゃで、自分たちのいうことはあまり聞かない。

最初はおとなしくしていてもすぐ調子に乗ってしまう。

そんな男の子たちを知っている女性は、エレナの提案をうれしく思いながらも少々困惑していた。

ここで騎士に迷惑をかけてはいけないという責任感からだ。

けれどエレナは微笑みながら言った。


「ええ。そこは騎士たちに任せましょう。子供に慣れてる者がたくさんいるようだから、彼らに任せればうまくやってくれると思うわ」

「すみません、なんか……」


孤児院に来てからエレナには世話になりっぱなしだ。

勉強を教えてもらっているだけでもありがたいことなのに、今日また、男の子のわがままを聞いてもらうことになった。

それらをどう返したらいいのかと思わず考えてしまう。

そんな女性に反して、エレナはあの子たちのおかげで自分も偏見を持っていることに気が付けたと笑った。


「これもいい機会だと思うわ。さっきも言ったけれど、きちんとできるのなら男性だって料理人になれるし、も器用な子なら裁縫もできるかもしれない。本当は女性だって騎士になれるんだってことを知ってもらうために模擬戦を見てもらおうって思っていたけれど、私もそこにとらわれすぎていたように思ったわ」

「どういうことですか?」


エレナがしてきたことが間違っているとは思わない。

女性だって騎士を目指すことができるというのは、これまで希望を持てなかった女の子にも希望を与えたし、男女問わず勉強ができるようになれば仕事の選択肢が増えるというのも事実だ。

子供たちはわからないかもしれないけど、買い物に行くことのある女性たちからすれば、文字が読めるようになってから、市場で商品を見る目が変わった。

特に最初に教えてもらった数字については、必須だということを思い知る。

少なくとも、このお店で働くんだったら値札の読み書きは必要なんだと改めて認識できたし、値札を読めるようになったことによってほかのお店との比較もできるようになった。

良心的な店が多い反面、文字が読めないと知って嘘を教えてきている店もあることも理解できるようになった。

これまでの何が間違いなのかわからないと首をかしげる女性にエレナは言った。


「私には騎士になれない女性が損をしている、女性は仕事を選べないと見られるのが嫌という視点しかなかったもの。でも男性だって、こうして制限を受けていたら、別の可能性を潰されてしまっているかもしれないのよね。自分で口にするまで考えていなかったけれど」


男性は女性よりも選択肢が多いのは事実だが、それが女性より恵まれていると捉えるのは偏見だった。

男性は女性にできない給金の高い仕事を率先して選んでお金を稼ぎ、女性は男性がいない間にできることをしている。

これまでそれでうまく回ってきたのだから問題ないと思っていたけれど、男性と女性が同じ仕事ができるというのなら、女性ができる仕事を男性に教えないのは不公平だろう。

もし今日作業をしてみて、真剣に料理をしたいという子が出たなら、その時は自分たちが来ている人手の多い時だけでも作業に参加させていいかもしれない。



エレナが女性にそんな話をしていると、皆の足がいつの間にか止まっていた。

話し終わったタイミングで、先頭にいる子供が言う。


「ねぇ、次に行こうよ」


大人の話は分からない。

でもこの子の今の使命はクリスたちに孤児院を案内することだ。

後ろから声の方を見たエレナは微笑みながら再開を促した。


「そうね。ついお話が弾んでしまったわ」


次に彼らが案内したのは食堂、続いて女性たちがよく刺繍などをしている作業場に、一番広い部屋だった。

今日は食堂は使わず庭での食事になるので、テーブルには何もなく、きれいに片付けられていた。


「いつもはここで皆で食事をいただいているのよ」


いつもと違ってもの悲しさを感じる食堂を見てエレナがそう言うと、子供からすれば見慣れたひとつなのか、何も気にしていない様子で説明を引き継いだ。


「姫様はね、いつもあそこ。で、騎士様はあっちなんだよ」


続いて作業の部屋だが、皆が総出で出迎えをして、大人たちは子供の案内をひやひやしながら見守っている。

そのためここにも人はいないし、片付けられている。

こうしてみると閑散とした感じだ。


「ここは、みんなが集まるところで、孤児院で一番大きいお部屋なんだ。姫様はあそこに座って、騎士様が、そことそこに立って、お勉強を教えてくれるんだよ」


あそことか、そことか言いながら、男の子は指をさして一生懸命説明する。

するとほかの子が声を上げた。


「雨の日はここで遊ぶんだよ!」

「お勉強するようになる前は、お話の本をたくさん読んでくれたよ」

「今はお姉ちゃんが読んでくれるんだ」


お勉強以外にも用途がたくさんあると、ほかの子供たちが声を上げた。

子供たちにとってこの部屋は、みんなで娯楽を楽しむ大切な場所だということが伝わってくる。


「ご飯の後にお勉強の時間があるから、お兄様たちにも見てもらえるわね」


エレナがクリスとブレンダに言うと、先生は自分も初めてなので楽しみですと言った。

言われてみれば、先生とは最初に一緒に来たことはあるけれど、エレナが勉強を教えるようになってからはきたことがない。

相談をしたりしていて、何かと勉強にもかかわってもらってきたから失念していたが、先生も勉強についてはエレナからの話でしか知らないのだ。


「そうね。先生にも子供たちの成長を見てもらえるいい機会だわ。それに先生なら、もっといい教え方を知っているかもしれないし」


エレナがそういうとその言葉が謙遜ではないことを知っている先生はうなずいた。


「そうですね。彼らの進捗を見て、何を教えるかを決めようと思います。内容については後程相談いたしましょう」


何もエレナがしていることをそのまま続ける必要はない。

絵本程度の文字はすでに読めるようだし、実用的な別のことを教え初めてもいいだろう。

だてに家庭教師を仕事にしているわけではないのだ。

それにこの場所が彼らにとって大切な場所であるならば、その光景の一つにすでにエレナはいるに違いない。

自分がそこに入り込むことを考える方が緊張する。

先生は子供たちの説明にあったエレナの場所をじっと見てそんなことを思っていたのだった。

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