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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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クリスたちとの交流

人が馬車から下りるにつれて外が騒がしくなっていく。

少し馬車の中から彼らの交流の様子を見ていたクリスとブレンダだったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

とりあえず、エレナもケインも、そして騎士たちも孤児院で慕われているようで何よりだ。

そんなことを思いながら、馬車の周りから人が少なくなったところで、クリスが先に降り、続いてその手を取ってブレンダが馬車から出た。



さすがにクリスが馬車から降りると、誰かが声をかけたわけでもないのに、空気で感じるものがあったのか急に静かになり、そちらに注目が集まった。

クリスは周囲を見回して微笑み、騎士であるブレンダと並んでそこに立っているだけだ。

そして一度、沈黙が広がった。

騎士の時に何度も見た光景だが、後ろから見ているのと横に並んでそれを自分が受けるのはこんなに違うのかと、それとなくクリスの様子をうかがうが、クリスは変わらず微笑んでいるだけだ。

その沈黙を破ったのは、見とれた状態から我に返った女の子たちだった。


「パレードでお馬さんに乗ってた美人なお兄さんだ!」

「お兄さんが姫様のお兄さんなの?」


エレナにしがみついている女の子やその周りの子がエレナに尋ねると、エレナはうなずいた。


「そうよ。私のお兄様なの」

「あの、隣の女性騎士様は、もしかしてバザーの時に姫様と一緒にいたお姉様でしょうか?」


エレナの隣で貴族のご令嬢としてふるまっていた時とは違う雰囲気だが、顔に見覚えがある。

違ったら失礼になるかもしれないと思いながら女性がエレナに尋ねると、エレナはよく気がついたわねとほほ笑んだ。


「そうよ。私のお姉様になるの」

「お姉様になる?」


前に紹介された時、すでに姉だと言っていた。

けれど今の言葉ではまだ姉ではないと言っているようなものだ。

お忍びでの外出という概念があまりないため、どういうことなのかわからないと不思議そうにする彼女たちに、エレナは言った。


「これからお兄様と結婚するから、もうすぐお姉様になるの」


エレナがそう言うと、女性たちはもうすぐ義姉になるところだけれど実はまだそうではなく、エレナが彼女を姉と慕ってそう呼んでいただけのようだと、とりあえずそう納得した。


「では、あちらが……」


院長がブレンダの方をじっと見ていると、視線に気が付いたクリスがブレンダを伴って院長の前にやって来た。


「いつもエレナがお世話をかけています。彼女が私の婚約者のブレンダです」

「クリス様。お初にお目にかかります。そういえば、皇太子を助けた女性が婚約者という話が流れておりましたのに、婚約者様が護衛騎士をなさっていたことを失念しておりました」


院長がブレンダを見て申し訳なさそうに頭を下げると、ブレンダは問題ないと笑った。


「気になさらないでください。一般的な貴族令嬢ではありませんし、私も騎士としての心得がございますから、これまで来ていた彼らと同じくらいのことはできます。串焼きを作るくらいは協力できるかと思いますよ?」

「まさか自ら……」


貴族のご令嬢で騎士であることも珍しいが、それに加えて料理に率先して参加するなど、考えただけで混乱しそうになる。

院長がそれを表情に出すとブレンダは微笑みながら言った。


「そこはほかの騎士たちと相談ですね。模擬戦をお見せしてからになりますので」

「え?はぁ……」


まさか模擬戦で戦うのかとは聞けず、とりあえずあいまいな返事で院長はごまかした。

エレナもそうだが、こちらも随分と規格外の女性のようだ。

それが誉め言葉であっても口に出すのは無礼になるだろうから黙って顔をゆがませる。


「とりあえず、楽しみにしていてください」


ブレンダに続いてクリスも言う。


「そうだね。早速庭をお借りして準備させようと思いますけれど、よろしいですか?」

「はい。お願いいたします。あの、今更ですが立話もなんですから、どうぞ中へ」

「そうですね。案内いただければ助かります」


院長の返事を受けて、クリスは騎士団に指示を出した。

やることは決まっているので許可さえあればすぐにでも取り掛かれるようになっている。

クリスの一声で同行してきた騎士団は荷物を次々と庭に運び始めたのだった。



クリスとブレンダ、そして院長が話をしている間も子供たちはエレナにくっついていた。


「ねぇねぇ、姫様のお兄さんだから、王子様?」

「そうよ。王子様よ」


女の子たちはクリスのことが気になるらしく、色々と聞いてくる。


「かっこいい!」

「そうでしょう?」


素直に兄を褒められてエレナが嬉しそうにしていると、別のところから質問が来る。


「王子さまは強いの?」


その質問の答えにエレナが詰まっていると、本人が代わりに答えた。


「私は強くないかな?騎士たちの方が強いよ」

「そうなんだ!」


それだけ答えるとクリスはまた院長たちとの話に戻る。

子供がその答えを素直に受け取ったことを少々不満に思ったのか、騎士がそれとなく子供に言った。


「でも、あの人が他の国と色々話し合いをしてくれたりしているから、この国には戦争がないんだよ?」


王子より強いと言われた騎士の一人がそう言ったので、子供はじっと彼を見て尋ねた。


「それってすごいことなの?」

「そうだな。ここにいる王子様はな、たくさんいるこの国の人たちが安全に暮らせるように、騎士たちに協力してもらって見回りをさせたり、食べ物がなくなって飢えに苦しんだりしないよう、作物ができなかった場合でも他の国から持ってきてもらえるよう頼んでくれたりしてるんだ」


だから満足できない日があっても飢えることはない。

そのすごさを子供に語ろうと思っても、それ以上は難しい話になってしまう。

騎士が自分で切り出しながらも子供にどう説明すべきかと悩んでいると、子供の方から質問が飛んできた。


「戦争って?」


また難しい質問が来たなと騎士は考えながらどうにか言葉を出す。


「戦争か……。みんな喧嘩はしたことがあるかい?」

「うーん」

「自分たちがしたことなくても、見たことはあるんじゃないかな?」


ここの子供たちはとても素直でいい子だ。

話しているだけでわかる。

果たしてこの子たちが喧嘩をすることなどあるのかと思ったが、やはりなさそうだ。


「喧嘩って良くないことでしょう?」


一人がよくないことなのにするのかと不思議そうに聞くので、戦争はよくないこととだと言うところから説明をすることにした。


「そうだな。戦争って国やたくさんの人たちが大きな規模で喧嘩をしているようなものなんだ。怪我だけで済まなくて命を落とすこともあるし、家や街も焼かれたりする。すごくよくないことだよ。それに戦争になると、負けた方の国は勝った方の国の言うことを聞かなきゃいけなくなるんだ。例えば食べ物に困った国が戦争を仕掛けてきたら、戦って勝たないと負けた国に全部食べ物を持っていかれたりする。人間が奴隷にされることもある。そう言うことが起こらないように、そうなっても負けないように我々騎士がいて、そうならないように他の国と仲良くなってくれているんだよ。みんなだって、仲のいい友達とだったら喧嘩しないし、意見が違っても相談してどうするか一緒に考えられるだろう?困ったことがあったら協力したりとか」

「それならできる!」


孤児院では助け合いが基本だ。

困っていたら助け合う。

勉強も教えてもらったところが分からなくなったら覚えている人に教えてもらって、みんなでついていけるように頑張っている。

子供たちが騎士たちにそう訴えていると、話を終えたクリスが口をはさんだ。


「でも、まだまだ全員に満足してもらえているわけではないからね。だから今日はここにいる皆の困っていることを教えてもらって、他のところでも同じように困っている人たちも一緒に、助けてあげられるようになりたいなって思ってきたんだよ。だからここでのことを色々教えてくれると嬉しいな」


クリスがそう言うと皆の視線が一気にクリスに向けられた。


「案内するよ!」

「ありがとう。じゃあ、案内をお願いしようかな」

「任せてよ!姫様が来た時も僕たちが案内したんだ。こっち、こっちだよ!」


子供たちはそう言うとクリスの手を引っ張っていった。

子供たちの切り替えの早さに騎士が苦笑いしていると、ブレンダが言った。


「クリス様はすごいって伝えるつもりが戦争の説明になってしまいましたね」

「いやぁ、子供には勝てませんよ」


そう話しながら騎士とブレンダが並んで話しながらクリスの後に続く。

その後ろをエレナたち、院長、そして女性たちが歩いて、ようやく皆が中に入ることになるのだった。

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