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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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時間の流れ

「とりあえず我が国に来てから何をするかについては、後につめればいいことだ。こちらはその前に出迎えられるよう国を整えることが必要だからな。長くかけるつもりはないが、そちらが色々決めるまで、時間はまだある。日程を決めてからでも遅くはなかろう」


ずいぶんと気の早い話だと殿下は言うが、クリスはため息をついた。


「そうですね。一応調整はしておかなければなりませんけれど、その間にこちらも希望を出せるようにしておかなければなりませんね」


彼の国と違って、この国はよほどの緊急性がない限り気軽に出かけることなど許さない。

迎える準備は常日頃から怠らずにしているが、出向く準備は面倒なのだ。


「これは一つの案だが、四人で来る必要はないと思うぞ?二人ずつという手もあるのではないか?」


要人がいきなり大人数で出かけるとなれば、それなりの準備が必要になるだろう。

その分人員も割かれてしまう。

ならば少人数に分ければ負荷が分散できるのではないかと殿下は言う。

確かにその通りだが、クリスとしては別の懸念が大きいため、その案を受け入れることはできないと答えた。


「それもひとつかと思います。ですが人を変えるにせよ二往復は少々難しいですし、二人だけで行かせるのは時期尚早ですから、四人で伺うつもりですよ」


クリスとしては最低でも四人まとめて、もし両親が行くなら彼らも含めて大所帯で行くつもりだ。

エレナとケインの件で国内の一部に不穏分子がいるため、国を治めている両親が一緒にというのは現実的ではない。

そして外交未経験者だけで向かわせるというのもまた、不安が大きい。

それでなくてもエレナはよくわからないものを引き当ててしまうことがあり、結果、国家的判断が必要になる可能性もある。

そうなると付き添いは必須だ。


「クリス殿下と婚約者殿はともかく、エレナ殿下と婚約者殿は、外交的経験がともに乏しいように見受けられるからな。私を信用して預けるとしても、心もとないと、そういうことだな」

「本当によくお察しですね」


エレナがコメの時のようなトラブルを引き当てるかもしれないからとは伝えられなかったが、基本的には殿下の言う通りだ。

クリスがやんわりと肯定すると、殿下は笑った。


「最初にエレナ殿下と会ってから、他国との外交に同席した形跡はなかったからな。経験を積む機会はなかったということだろう。実際の外交デビューはクリス殿下のお披露目といったところだろうな」

「ええ」


クリスがうなずくと、殿下は口角を上げる。


「最初からそのつもりだったのだろう?」


エレナを外交の場に出すのをできるだけ遅らせる。

国の要人たちがうるさかったことを隠れ蓑にして、エレナの諸外国へのお披露目を遅らせたのは、クリスの策略ではないのかと尋ねると、クリスはそれを素直に認めた。


「そうですよ。さすがに未経験のままあの中に出すわけにはいきませんから、外交とはどういうものか、文化の違う相手と話をするとどう感じるのか、一度でも体験しておけば違うだろうということで、お引き合わせしただけです。他の外交を遠ざけたのは、私にも意図するところがあったからですよ」


まず、他国にエレナを広めると、横やりが増える可能性が高い。

小国とはいえ、エレナは一国の王女であるし、言いよる輩も多くなるだろう。

だから余計な仕事を増やさないようにするため、これまで他国から面会の要望がなかったわけではないが、それを幼いからと理由をつけて断り続けてきたのは事実だ。

彼の国だけがエレナと面会したことで、彼の国との付き合いが特別親密であることを内外に伝えることができる。

殿下から申し入れがある可能性も想定の範囲だし、殿下の人となりを考えればよい結果をつかめると判断してのことだ。

実際殿下は羽虫よけを自ら買って出てくれた。


「ああ。あの時は練習台と聞いていたからな。しかし私だけでよかったのか?」


自分は甘い方だと思うし、練習だから付き合いもした。

けれど実際の外交は甘くない。

仕事としてかかわるようになったクリスなら理解できるだろうと殿下が言うと、クリスは問題ないと言い切った。


「むしろそれで貴国との友好関係が強いことをアピールできましたし、何より、貴国が相手にしないような国とエレナを引き合わせたところで、エレナのためにはならないでしょう。それに貴国を相手にできるなら、他国など容易い。少なくとも、気圧されて引っ込むようなことにはならないと思っておりましたからね」


エレナが外交や交渉場面において、相手の圧で押し負けることはないとクリスは思っていた。

それに、その圧が一番強い国はまさに彼の国だろう。

彼らと堂々と対峙できれば他に怖いものはない。

万が一にも、エレナが殿下に気圧されるようなことがあれば、その時は別の対策を考えなければならないと思っていたが、案の定、それは杞憂だった。


「それは一理あるな。無駄に表に出せば、今回の発表の前に、横槍の本数が無駄に増えて処理が面倒になったかもしれん。それではエレナ殿下の希望は叶わなかっただろうな。クリス殿下は最初からそのつもりだったのだな」


話しているうちにクリスの本当の目的に気が付いた殿下がそう返すと、クリスはうなずいた。


「ええ。エレナはともかく、ケインの努力を無にすることはできないと思っておりましたし、殿下なら横槍を入れてきたとしても、事情を知れば引いてくれると、そう信じており

ましたから」


殿下が割と人情の通じる相手だ。

最悪、エレナの過去についても伝える覚悟をしていたが、殿下はそれを伝えることをせずとも、二人を認めてくれた。

その点においては感謝しかない。


「ずいぶんと信頼されたものだな。それならばなおのこと、四人の期待に応えられるようにせねばなるまい」


せっかく得た信用だが、どんなに積み上げても崩れるのは一瞬だ。

最善の状態で迎えられるよう配慮すると殿下が伝えるとクリスはうなずいた。


「貴国の準備ができたらお声がけください。いつでもご連絡をお待ちしておりますね」

「そうだな。それまではしばしの別れとなるか。最近は頻繁に顔を合わせていたからな。少々寂しく思うが」


そう言ってからかうように口角を上げると、クリスは口元に手を添えて笑いながら返した。


「忙しくしていれば、時が経つのは早いですよ」


だからこちらも準備を急がないとなりませんとクリスが笑うと、殿下もそうだなとつぶやいた。

そうして滞在していた殿下は、クリスとそんな話をした翌日、言っていた通り帰国の途についたのだった。

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