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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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偽装された訓練

「お兄様、もう大丈夫なのですか?」


朝食を食べるため食堂に行ったエレナはすでに席についているクリスを見つけるなり駆け寄った。


「おはよう、エレナ。大丈夫だよ。心配かけちゃったね。もうすぐ朝食がくるから座ろうか」


クリスが座ったままエレナの頭に手を伸ばして頭を撫でると、エレナは嬉しそうに返事をして、自分の席に着いた。

ほどなくして全員揃ったため、朝食が始まった。

話題はやはり、クリスの昨日までの公務のことである。

最初に口を開いたのは父親だ。


「クリス、どうだった」

「はい、思っていたより大変でした」


そして母親も尋ねる。


「疲れは取れたの?」

「目を覚ますことなく休めましたので大丈夫です」


両親はクリスが何をしていたのか知っているのか、会話はスムーズに進んでいくが、エレナにはわけがわからない。


「あの、お兄様は一体……」


エレナが尋ねると、母親が答えた。


「そうだわ、表向きは公務による外出となっていたのよね」

「はい」

「実はクリスは実戦の訓練を受けていたの」

「実戦?」


訓練で実践という言葉を聞いて、あまり良い話を思い浮かべることができない。

ましてや昨晩のように、騎士団と共にボロボロになって帰ってくるのならなおさらである。


「でも、終わるまでそれを公にするわけにはいかないから、公務ってことになっているのよ。終わった今なら言えるのだけれどね」

「お兄様は戦いに出るのですか?」


エレナが心配そうにクリスの方を見ると、クリスは首を横に振った。


「違うよ。そうじゃない。エレナは普段、訓練はどこでしているの?」

「訓練場まで行っているわ」


訓練場で訓練を受けていることをエレナからは報告していなかったが、エレナの言葉に驚く者がいないところを見ると、周知のことらしい。

両親も一応エレナのことは気にかけているのだとクリスは思いながら続けた。


「じゃあ、実戦ってどこで起こると思う?」

「それは、移動中とか……」

「うん。そうだよね。どんなに訓練場で練習しても、そこで実戦が起こるわけじゃない。訓練場は訓練しやすいように環境を整えた場所だからね。基本的な技術は訓練場で磨けるけど、騎士たちが訓練場だけでしか戦えないと意味がないでしょう?」


確かに実践で役に立たない訓練では意味がない。

それはエレナも理解できる。


「外には障害物もたくさんあるし、見通しの悪いところも、足場の悪いところもある。本当に何かあった時、失敗できないんだ。命にかかわるからね」


そう続けた兄の言葉にエレナは思わず言った。


「それは、お兄様が行かなければならないの?騎士団は街を巡回したりしているのだし、そういうことも把握しているでしょう?騎士団だけでは訓練にならないの?」


昨晩のクリスの姿が頭をよぎる。

正直あんなものは訓練であっても今後見たくはない。


「エレナ、これは僕の訓練だよ。騎士団がどんなに頑張っても、僕が足を引っ張ったら意味がない。騎士団がどう自分を逃がそうとしてくれるのか、一人になったらどうするべきなのか、よく周りを見て、判断を自分でして、実際に動いてみる。考えるのと実際にやってみるのでは全然違うからね。とはいえ、今回は騎士団が総出で僕を守ってくれていたからね。本来悟られてはいけない僕の行動は全部騎士団長に把握されていたみたいだけど……」

「お兄様を守るための訓練?」


信用できないといったようにじっとエレナはクリスを見ている。

すると父親がエレナに声をかけた。


「エレナ、有事に我々の身柄が他国の手に渡ったらどうなると思う」


父親の問いにエレナは少し考えてから言った。


「有事の時というのはあまり考えたくありませんが、処刑されてしまうかもしれません」

「それだけではない。我々が捕らわれるということは、全国民が人質になる可能性がある。国を代表するというのは、常にそういう危険と隣り合わせにあるということだ。敵は戦になれば大将となるものを狙ってくる。そして我々も同じように敵の大将を捕えて戦争の終結を宣言させることになるだろう。その後、反乱分子を押さえこんで治安を安定させてようやく戦は終結だ。それまでに互いの国でどれだけの血が流れるのか、和平のために我々の身柄が確保された時、国民たちは敗戦国の民としてどのように扱われるかは分からない。反乱分子として全滅させられる可能性もある」


国王である父親も、皇太子である兄も、大きなものを背負っているのだとエレナはこの時初めて感じた。

何となく自分の地位などは分かっていた。

だが、地位が高いということは背負っているものも大きいということなのだ。


「エレナ、一度歴史をきちんと学んでおきなさい。過去に何が起こったのかが分かる。そして、人間の考えることなど今も昔もさほど変わらない。おそらく戦に関する詳細については残酷さが際立つ部分も多いから、あまり詳しく学んでこなかっただろう。だが、もう知っておいてもいいはずだ。家庭教師にも伝えておこう」

「はい……」


クリスの話から自分の勉強不足の話になり、エレナが少し落ち込んでいると、クリスが声をかけた。


「エレナ、今回のことなんだけど、僕が一人になる時間ができてしまうんだ。まさか王族が訓練のために護衛なしで走り回っているなんて公表できないからね。訓練の日は機密事項なんだ。そんな事が知れたら、僕が一人になったところを悪い人に狙われかねないからね」

「そうなのですね」

「だから知っていたのは関係者だけ。みんなボロボロになった僕たちを見て気がついたみたいだけどね」


確かにあの時のクリスを迎え入れた者たちで取り乱すような者はいなかった。

ぼろぼろのクリスと、その後ろに控えている多くの騎士たちの姿を見て彼らは訓練の日であったことを瞬時に理解したのだろう。


「何も知らないであのような姿を見せられて、どうなることかと思ったけれど、こうして一緒にお食事できるまでに回復しているのだもの、本当に良かったわ」

「うん。ありがとう」


クリスがエレナに微笑みかけると、エレナはそれ以降何も言わず食事に徹した。

そんな姿を見て、三人はエレナが納得したことに安堵しながら食事を進める。



食事をしながらエレナは考えていた。

国王や皇太子という立場は重要であり、同時にそれだけ危ういということ。

そしてこの訓練は自分も行うのだということ。

そうだとすれば、自分も訓練に耐えられるだけの力をつけなければならない。

エレナは決意を固めると食事を終え、部屋に戻って着替えを始めるのだった。

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