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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お守りと実感

エレナに言われて周囲を見回して改めて探してみれば、確かに少し控え目な、目立ちにくい場所から二人の人物が自分に視線を送っている。

ケインはそこにある遠目にも分かる、両親の姿を捉えた。


「今回はね、皆に代わって、私たちが他の騎士たちのご家族も招待をさせてもらったわ。この期間、送り出したご家族皆の中に、ずっと不安があったと思うの。一目見たら安心するのではないかって、お母様が今回参加している騎士全員のご家族に手紙を出すことを決めたのよ。もちろん手紙にも皆が無事であることは書かれているし、慰労会の参加は強制ではないけれど、どちらにせよ安否については何かしらの形で知らせなければとそういうお考えよ」


クリスや母親が考え実行していることで、自分が主導したわけではない。

将来、そういうところまで細やかな気配りができるようにならなければと思っているとエレナが言うとケインはうなずいた。


「そういうことだったのですね」


エレナが手紙を書くのに集中していたという話は聞いていた。

後に何かイベント事があり、それは勤務に戻れば共有されるのだろうとあまり深く考えてはいなかったが、どうやらエレナたちが作成していたのは今回の招待状や安否を知らせる手紙だったようだ。


「私だけではなく、ブレンダもお母様を手伝ったの。待っている私たちにできることって、本当に少ないのだと実感させられたわ。私は同行しても足手まといになるだけだろうけれど、ブレンダは複雑な気持ちだったでしょうね」


騎士団でも優秀と認められたからこその近衛騎士配属だ。

そうなるとブレンダは戦力になれるだけのものをもっていることになるのだが、騎士団で高みを目指していたのに、立場上、今回の同行が許されなかったブレンダは、できるはずの経験を一つふいにしてしまったことになる。


「ブレンダ様は環境が大きく変わってしまいましたから、戸惑うことが多いと思います。私もエレナ様も同じように、これから先は色々変わることがあると思います……」


ケインは、これ以上の事をここで言ってはいけないと口を閉ざした。

まだエレナとの関係は公になっていないし、ここで気を緩めたらせっかくのこれまでの苦労が水の泡になってしまうかもしれない。

何より、エレナの環境を変えてしまうのは自分なのだ。

エレナがどう感じるか分からないが、もしそれを苦労と捉えるのなら、他人事でいてはいけない。

何か話題を変えるもの、そう考えてふと思い出し、首から下げて身に着けていたものを取り出した。


「あの、以前いただいたこちらが役に立ちました」

「それが?」


以前、街で見かけておみやげにと渡したものを見せられたエレナは首を傾げた。

邪魔にならない記念になるもの、そして渡す人たちの安寧をと思って、お揃いで選んだものだが、使い道がなければ、きっとしまわれて終わりだろうくらいに考えていた。

最悪、捨てられてしまっていても仕方がないとすら思っていた。

それはこれまで皆が平和で安全なところで生活していたからだ。

あの時はケインが、戦場にお守りとして持っていくことなど想像していなかった。

現実を突きつけられたエレナは、本当にケインがそのような場面に赴いたのだなと改めて痛感させられる。


「こちらに友人とブレンダ様にいただいた縁起物を入れて、肌身離さずお守りとして身に着けていました。今まではあまり考えていなかったのですが、お守りというものが、こんなに心の支えになるとは思っていませんでした」


寝る時も肌身離さず着けていたそれは戦闘に巻き込まれなかったこともあって、ボロボロになったりはしていなかったが、使用感がある。

エレナもお守りというものに関して深く考えてはいなかったが、本来のお守りの使われ方はそういうものだと考えを改めた。


「それが支えになったのならよかったわ」


エレナの言葉にケインはうなずいた。


「今回、私は問題ありませんでしたが、同行した隊の中に、似たようなものを持って行けと渡された者で、実際それによって死を免れたとことがあるいう話を聞きました。私は今回、お守りに心を守られましたが、本当にこうしたお守りで命を救われることがあるのだなと、先人の言い伝えを侮ってはいけないのだなと、痛感しました。こちらをくださったエレナ様と、その中身を渡して身を案じてくれた皆に感謝しています。こうしてお守りと一緒に帰ってこられて、安堵しています」


使うタイミングもなかったけれど、エレナからもらったものだから大切にしていたというのもある。

だから失くさなくてよかったとケインが考えている一方、エレナは中身が必要だと聞いて驚いた顔をしていた。


「確かに安寧や安全を願ってこのお守りを選んだのだけれど、中に入れるものが必要だったなんて知らなかったわ」


それではお守りの意味がなかったのではないかと心配そうにしているエレナに、ケインは軽く首を横に振る。


「それは、彼とブレンダ様が願ってくれました。騎士特有の風習ですし、お恥ずかしながら、私も今回初めて知ったことで……」


別に袋の中に特定の物を入れなければならないということはない。

けれど縁起物を入れておくか、いざという時のための薬を身に着けるのに使うことが多いのは間違いない。

中に入れるものを決めるのは持ち歩く側なので、エレナが気にする事ではないのだ。


「とりあえず、私の選んだものが役に立ったのならいいと思うことにするわ。そこに皆の思いを入れることができたということでしょう?」

「はい」


ケインと話しながら、ケインが目の前にいるにもかかわらず急に不安に襲われた。

遅れて遠くの戦争にケインを送り出してしまったという実感がわいてきたのだ。

そんな不安を隠すようにエレナは言った。


「私はお守りがなくなっても、ケインが帰ってきてくれたのならそれでいいと思っているわ」


お守りを身につけていてくれたのは嬉しいけれど、一番はケインだ。

それがあってもなくても、無事でいるかいないかに比べたら瑣末なことだ。


「ありがとうございます」


そう言われたケインはエレナが本当に自分の身を心配してくれたのだと嬉しく思い、感謝の言葉をそこに込めた。


「詳しい話は後日聞かせてちょうだい。さすがに、おじさまとおばさまを待たせすぎてしまったわ」


どうやら長く話しすぎたらしい。

一度は騎士の解散と共に減っていた視線が再び集まり始めたことに気がついたエレナがそう言うと、ケインもそれに気がついたのか、慌てて礼をして距離を取った。


「わかりました。行ってまいります」


ケインはそう言うとお守りを服の内側に仕舞いこんで両親の元に向かった。

エレナたちはそんなケインを見送って、再び会場を歩きまわるのだった。

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