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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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進軍と同室の違和感

大罪人の移送など、国内で動きのあった頃、二国合同の騎士たちは、それに関係なく、順調に進軍を続けていた。

人数が多いこと、また不慣れな者を連れている事もあり、彼の国にしては進みが遅いものの、初心者を大量に連れている割には早い方だと彼らは割り切っていたし、何より殿下が最初からその想定で予定を組んでいたので、大きな問題や遅れが発生することはなかった。

一方の初心者と目される騎士たちは、彼の国の移動に懸命についていくことになった。

それができたのは国内トップと言われる騎士団が、大国であり殿下が同行しているとはいえ、たかだか一隊の移動にすらついていけないのは、個人のプライドが許さなかった事も大きい。

ここで彼らは、今まで自分たちは国の中で上位にいたにもかかわらず、まだまだ上がいることを思い知る。

結果、国民性の持つ高いプライドが、彼らの能力を引き上げるという成果をもたらすことになった。



そうして休憩、野営をしながら進むこと数日。

いよいよ待機場所となる国境の町に到着した。

この場所から例の国は目と鼻の先にある。

大きい街ではないが活気がある。

違う国で勝手は違うだろうが、久々の街に騎士たちのテンションは上がっていた。

ちなみに拠点はこの街ではなく、国境近くに野営地として作られているが、ここから殿下が例の国との交渉する期間、宿に宿泊する者と野営地に残るものに分かれ、待機することになっている。

この先、いつまで待機になるかわからないし、ここから先、次に移動するときは戦になっている可能性が高い。

逆にいうと戦になるまでは移動することがないので、グループ単位にはなるが交代で体を休め、束の間の休息をとる時間が与えられたのだ。



これまで集団行動で自由がなかったこともあり、この配慮に皆が大きく喜んだ。

軍として動くことが初めての者たちも多いが、他国の騎士と常に一緒に動くという経験をしたことがあるものなど皆無だ。国が違えば習慣が違う。

それを理解していることもあり、必要以上に彼らに気を使って動いていたため、体力より精神的な疲労の方が大きい者も多い。

ここで彼らと一時でも離れて過ごせるのは大きいだろう。


「いいか。これから少人数ずつではあるが小休止の時間ができる。しかし完全に気を抜くことはするな。呼び出しがあればいつでも対処できるようにしておくように。目前にあるものは戦地だということを忘れるな!」

「はっ!」


呼び出しに備える必要はあるけれど、その可能性は低い。

騎士団長からの命で集合した彼らは、小休止に心を躍らせながら気力を振り絞って返事をした。

その後、グループ分けが発表されると、その場は解散となった。



そうして宿に行くグループは同室として指名された相手と挨拶を交わし、街に移動することになった。

野営組は野営地で自分たちの支度を始める。


「思ったほどぎくしゃくしない移動でよかったな」

「そうだな」


野営地から街へと移動しながらそんな会話をしていると、相手からケインに誘いがあった。


「せっかくだから一緒に食事でもどうだ?今まであまり話す機会もなかったし、ここで一緒になったのも何かの縁だろう。羽目を外すわけにはいかないから、酒も飲まないし、食べたら寝るだけだけど」


これも何かの縁だけど、ここまでに蓄積された疲労を少しでも軽くしたいから、少し話をするくらいにしたい。


「確かにその通りですね。早く食べて早く休んだ方がいいと思っていましたが、どうしましょう」


部屋は同じでも各々で行動するものと思っていたケインは、思わぬ誘いに躊躇いつつも正直にどうするつもりだったか答えた。

するとその言葉に思うところがあったのか、これまで一緒に行動してきてケインに対する理解があったのか分からないが、あっさりと折衝案を出してきた。


「明日からまた野営だしな。ゆっくりとベッドで寝るのは、今日が終わったらしばらくお預けになるんだよな。まあ、休むといっても飯は食べるんだ。同席して、食べながら話すんなら、普通に食べるのとかかる時間はさほど変わらないんじゃないか?」

「そうですね」


確かに宿に入ってすぐ寝るといっても、食事は必要だ。

食べずに寝ても体力は戻らない。

それに彼の提案通り、会食や交流を目的としない食事の席で会話をするくらいならこちらの負担もさほどない。

すでに数日ともに生活している仲間なので、貴族社会の気遣いが必要ないことも分かっている。

しかし、ケインは心の奥に何か引っかかりを覚えていた。


「じゃあ、行くか。しっかり食べてしっかり寝ちまおう。宿の食事でいいよな」

「はい」


彼に声をかけられて、とりあえずまっすぐ宿へと向かう事になった。

そうして宿に入った二人は、早速、食堂で同室相手と食事を取って、街を見て回る事もせず、部屋へと向かうのだった。



ケインが何となくあった違和感の正体を理解したのは、彼と部屋に入ったときだった。

これまで家を離れてから、同日になるのはいつも寮で同室の彼だけだった。

それもあって寝食を共にしているのがいつもと違う人物であることに違和感がある。

考えてみれば、これまでケインは、彼以外と同日になった経験がない。

騎士学校の寮から、騎士団の寮まで、ずっと彼と二人部屋の同室なのだ。

もちろん今一緒にいる彼のことを信用していないわけではない。



騎士団の中で顔を合わせる機会は何度もあったし、ここまでの間、何日も野営をしながら一緒に行動してきたのだ。

ただ、野営に関しては、過去、エレナの訓練を見守りたいと願い出て、騎士団と一緒に参加させてもらったことがある。

だからその時の訓練と同じような、何より外であるという意識が強く、ずっと気を張り続けていたので、そんなことを気に留める余裕すらなかった。

それもあってこれまで違和感はなかったのだが、室内になったとたん、複雑な気持ちが湧いてきたのだ。

これからもこういう機会はあるあだろうし、信頼のおける違う誰かと一緒の空間で過ごすことに慣れておくのは悪いことではないはずだ。

これはそういう訓練だと思うことにしよう。

ケインはしばらくそんな複雑な感情に翻弄されていたが、これまでの疲れが溜まっていたのか、体を横たえてしばらくすれば自然と眠りに落ちることができたのだった。

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