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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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臆する経験のない者

「それにしても、いくら護送相手が非戦闘要員とはいえ、あの人数で移送なんて、ずいぶんと少ないように思うのだけれど?」


再び広場に目を向けたエレナが素朴な疑問を投げかけると、ブレンダは彼らをじっと見て答えた。


「彼の国は手練れが多いですが、私の見立てでは、あの馬車の中から顔を出されて、クリス様とお話をされている方お一人でも、無事に護送できるのではないかと思いますよ」


彼の国の中では屈強とは言えない見た目の男性だが、彼はブレンダの見立てではかなり強いという。


「まあ。さすがブレンダね。あの人の強さなんて私にはよくわからないわ」


確かに弱そうには見えないし、連れていかれる側を押さえこむ力くらいは持ち合わせていそうだと思う。

けれど、移送している間に襲撃されたり、その護衛の任を果たすことを考えると少々心許なく思える。

ただそれは、エレナが彼の実力を知らないからとも言える。

同時に、ブレンダはその実力を見ただけで判断したということだ。


「私の場合、強い者はわかりますね。そういう環境が長かったので」


これまで騎士として上を目指してきたブレンダは、多くの者たちをそういう目線で見てきたし、自分もそういった評価にさらされて生きてきた。

その結果、騎士として分かることが多いのだという。


「そういうことって、わかった方がいいのかしら?」


エレナが素直にブレンダに疑問をぶつけると、ブレンダは少し考えた様子を見せてから尋ねた。


「エレナ様は、ああいった方々を怖いと思ったことはないのですか?」


まず自分なら、自分より強い者を見ればそれに圧倒されて恐怖を感じる。

これは本能的なものが大きく関係しているように思うが、まず自分と同じ角度から理解するのなら、その経験があるかどうかは重要だからだ。

なければ違う角度で説明が必要になる。


「そうね、幼い時から騎士団長のような大きな男性とも話す機会が多かったし、男性だからとか大きいからとか、それで怖いと思ったことはないわね」


物怖じしない、圧にも動じないエレナは、ブレンダの思った通り、その程度のことで臆することはないらしい。


「彼の国の殿下などは?」


念のため、知る限り世界の頂点であろう殿下の事を聞いて見るが、エレナはきょとんとした目をして首を傾げる。


「殿下も、あと、大柄のいつもご一緒のお付きの騎士も、圧は強いけれど怖くはないわ。圧が強いわねって本人に伝えたけれど、自然と出てしまっているものでしょうから、本人に抑える気がないと周囲を疲れさせるのではないかと思って」


どうやら圧の強さのようなものを肌で感じることはできるらしい。

しかし自分は大丈夫だけど、圧が強いから、抑えてあげなさいと指摘したというのだから、やはり臆するとか、畏怖するとかそのような感覚ではないようだ。


「それはまた、何といいますか」


指摘された方はさぞ困惑しただろうと、彼らの方に肩入れした言葉を、つい漏らしたブレンダは、慌てて別の言葉でそれを繕った。


「そうですね、強いて言うのであれば、知っておいた方が敵わない相手が分かるので、素早く逃げると言った対処に踏み切れるのではないかと思います。その、圧が強いことは感じられるのですから、そういった方を正面から相手にしないというのが大切です」


ブレンダが前みたいに向かっていかないようにと、諭すように伝えると、エレナは微笑んだ。


「それならば心配ないわね」

「そうなのですか?」


あっさりと答えたエレナに思わずブレンダは突っ込んだように言った。

エレナはそれを気にする様子もなく、満足そうにそれに答える。


「だって、私が武力で敵う相手なんていないもの。そういう場面で、逃げなければならないというのなら、私には最初から逃げるという選択しかないでしょう?何も考える必要はないということね」


強い人に対峙したら逃げればいい。

確かにそうしてくれたらありがたい。

けれど現実はそうではない事をブレンダは知っている。

話に聞いていた孤児院の事しかり、襲撃の時の堂々とした姿しかり、エレナは正面からぶつかっていってしまっている。

だからまた、そのような場面に居合わせても、同じように逃げ出す洗濯をするとは思えないのだ。


「エレナ様は、今までもそういった方と堂々と対峙していたように思うのですが……」


むしろ向かって行ってしまっているように見えるとブレンダが指摘すると、エレナは大きく瞬きした。


「話し合いなら問題ないと思うのだけれど?」


自分は先頭に立って戦うのではなく、あくまで話し合いの場で怯まないだけだとエレナは答えるが、話し合いなら問題ないと考えているあたりがすでに逃げないと言っているようなものだ。

そうなると一度はやっぱり対峙することになるだろう。


「雰囲気に気圧されることはないのですか?」


仮に対峙した後逃げることになった場合、相手に怯んだら足が鈍る。

ブレンダが懸念して確認するとエレナは首を横に振った。


「それは、ないような気がするわ」


過去に大きな恐怖体験をしていない事もあって、エレナは恐怖の概念が薄い。

さらに話ができるのなら、話し合いでどうにでもなるとどこかで思っているところがある。

そして、本人はあまり考えていないけれど、それを後押しできるだけの圧を本人が発している。

その結果、圧を受けた相手の大半がそれに負けて怯むので、話し合いが成立してしまったりする。

しかしいつか、その圧に負けず力でエレナを制圧にかかってくるような者が現れたら、護衛がついているとはいえ、ブレンダはそれだけが心配なのだ。


「くれぐれも無理はなさらないでください。心配になります」

「無理はしていないつもりなのだけれど、無理だと思ったらそうすることにするわ」


説得と説明を放棄してブレンダがそう言うと、やはり何度か大きく瞬きをして、エレナはそんな少し間との外れた答えを返してきたのだった。




そんな話をしていると馬車は広場の出口に向かって動き出した。

それを見送って少ししたところで、周囲を見回したエレナが言った。


「馬車も見えなくなったし、貴族たちも散会していくようね。私たちもここを出た方がいいかしら?」


何もない広場に長くいても仕方がない。

それにここは護衛のしにくい場所だ。

できる事なら早くクリス達と合流して、まとまって行動できるようにした方が、護衛側も楽だろう。


「そうですね。出入口が混雑するほどではありませんでしたし、ここまで減れば、見に来た貴族と鉢合わせすることもないでしょう」


ブレンダもエレナと同じように見送りに来ていた貴族たちの居た場所を確認し、エレナに同意した。


「ええ。囲まれることはないと思うわ」


エレナはそのタイミングで、こちらを向いたクリスに軽く手を振ってから広場に背を向けた。

それを見たクリスは、エレナが広場を出るのだと理解して軽くうなずく。

エレナが動き出したことで、ブレンダも護衛騎士たちもそれを察して動き出した。

指示を出さずに行動で次に何をするのか示したエレナに、ブレンダは密かに感心するのだった。

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