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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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仕組まれた会食

帰省中、クリスとケインは何度か会っていた。

最初の一度以外、同席をしていないエレナが気になるのか、ケインはクリスに会うたびにエレナの様子を聞いてくる。


「あの、エレナ様は……」

「エレナは、もっと自分を磨かないとって今日も張り切っていたけど、今どこにいるのかは確認しないと分からないな。呼んでこようか?」

「あ、いえ……」


精一杯の告白をした後のケインからすれば今エレナに会うのは気恥ずかしいが、エレナがどう受け止めたのかを確認したいというのが本音である。

けれど、わざわざ呼び出して確認するようなものではない。

とはいえ、また学校に戻れば当分エレナの姿を見ることができない。

これから頑張っていくためにも是非、もう一度エレナの姿を目に焼き付けてから学校に戻りたいと思っている。

そんな複雑な感情をうまく表現できないでいるとクリスが切り出した。


「ケインがいいならいいけど……。私も聞きたいことがあるんだ。エレナがいない方がいいからちょうどいいかな」

「何でしょう?」


エレナには言えない話というが、特に人払いをするわけではない。

そんなに重要な話ではないだろうとケインは軽く言った。


「実家の会食はどんな感じなの?」


クリスの質問にケインは少し詰まったがすぐに答えようと口を開いた。


「……ああ、会食ですか」

「ケインの家ってもともとそんなに人を頻繁に招いて会食をしたりする家ではなかったと思うんだけど」

「そうですね」

「何かあるの?」


クリスはケインが連日会食に同席しなければならない事態になっていることを憂慮していた。

あまり多くの人と関わることを好まない本人がそれを希望するとは考えにくい。

しかも連日だ。

挨拶のためと毎日客人を招くなら、夜会を開いて一度で済ませてしまえばいいものを、いちいち会食という席を設けているというのも不自然である。

この会食にはおそらく裏があると思った。


「大したことではありません。近しい人が連日やってきて代わる代わる人を紹介してくるだけです」

「やっぱりそうなんだね」


ケインは濁したが、紹介されているのはおそらく同年代の女性だろうとクリスは察した。


「私は座っているだけですから」

「そう……。やっぱりそうなるよね」


ケインからすればそんなに人を紹介されなければならない理由に心当たりがない。

しかしクリスはそれが分かるというのだ。

ケインは思わず尋ねた。


「何がですか?」

「だって、ケインがエレナ一筋なのは私たちしか知らないし、そもそもケインには婚約者がいるわけではないし、学校でも品行方正だったし、騎士学校に在学していて将来有望だし、当然狙ってくる人は多いよね」


クリスに言われてケインは貴族学校時代のことを思い出した。

そういえば、女性たちの中には、そういう目的で近づいてくる女子生徒が少なからずいた。

騎士学校は男所帯で、女性と接する機会はほとんどない。

食堂や事務、一部の授業の先生として女性はいるが、男性に負けないパワフルで快活な女性ばかりで、色恋沙汰を匂わせるような人はいないためケインはそのようなことはすっかり忘れていた。

女性騎士を目指す者もいるがカリキュラムも寮も別のため、接点がないのだ。

家族が招いている客だからと思っていたが、そう考えれば納得がいく。


「騎士学校に興味をお持ちの方ばかり来ると思っていたのですが、そういうものですか」

「自覚ないんだね。ケインはそれでいいと思うよ。相手に気を持たせないのも、相手にしないのもケインのいい所だよね」

「すみません、よくわからないのですが……」


貴族としてはうまくあしらうわけではなく、相手にしないというのが良い判断とは思えない。

クリスがそれをよしとする意味が理解できず、ケインは思わず険しい顔をする。


「ケインは今まで通りでいいよ。その方が安心できる」

「そうですか……」


険しい顔のままのケインに今後はクリスが尋ねた。


「ねぇ、ケイン。ケインに騎士学校を勧めたのはご両親なんだよね」

「はい。直接話をしたのは父親ですが……」

「ご両親はケインの気持ちを知ってるんだよね?」

「たぶん、ですが……」


二人の側にいたい、エレナを守りたいと伝えた結果、この道を示したのは父親である。

その道を外れることなくただまっすぐに歩いてきたのだから、気持ちが変わっていないことは伝わっているとケインは思っている。


「それなのに随分と会食の予定を詰め込んでいるんだね。断れない理由があるとか?家で何かあったの?」


両親の対応をクリスの話を含めて考えると、少し不自然な点が多いとケインは気が付いた。


「たぶん断れない相手に組まれたものと思います」

「そうなの?」

「誰が話を持ってきているのか、私は知らされていません。ですが、両親が断れない相手から紹介を受けているような気がします。せっかくの帰省なので、ゆっくり家族と過ごせればと伝えていたのに、わざわざ人を連日招くというのは、よほどのことだと思うのです」


口にしながらどんどんと自分で確信に近づいていく。

クリスの言う通り女性と引き合わせるつもりなら、それが両親の思惑ならばもっと着飾れとか、話をしろとか何かしら言ってくるはずである。

しかしあくまで同席するよう求められるだけで、特にアプローチをしろとは言われていないのだ。


「なるほどね……。ちなみにその会食の相手のことって覚えてる?」

「はい、名前くらいなら」

「教えてもらっていいかな?」

「わかりました」


ケインに紙とペンを渡すようにクリスが指示を出す。

そうしてすぐに用意された紙に、ケインは相手の名前を覚えている限り書き出していった。

クリスは紙に書き込まれていく名前を黙って見ている。


「昨日まででこのような感じですね」


名前を書き終えたケインが顔をあげてクリスを見てそう言うと、クリスが返した。


「そう……。今晩から先は分からないよね」

「家名は聞いていますが、どなたかまでは存知ないです」

「それも書いておいてもらっていい?」

「わかりました……」


ケインは今晩から先に予定されている会食のメンバーについて追加した。

なぜそんなに相手のことを知りたがるのか不思議ではあったが、相手はクリスだ。

悪いようにはしないだろうと信じている。

書き終わって差し出された紙を受け取ったクリスがじっとその名前を確認する。


「あの、何か……」


紙を受け取って黙りこんでしまったクリスに不安を覚えたケインは思わず声をかけた。


「うん、大丈夫。ありがとう」


クリスはインクが乾いたのを確認して紙を折りたたむと、自分の服の中にしまい込んだ。


「今の予定を見る限りとても忙しそうだけど、帰る直前にもう一回くらい会えたら嬉しいな」


クリスは笑顔でケインにそう告げる。

帰る直前という言葉に引っかかりを覚えながらも、ケインは黙ってうなずくのだった。

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