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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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ケインの帰省

「エレナ、ちょっといい?」


家族が顔を合わせる数少ない時間である夕食時、クリスはエレナに声をかけた。


「何かしら?」

「騎士学校がもうすぐ長期休暇になるんだ。それでケインが一時的に実家に戻るみたいだからこちらに顔を出してって連絡したんだけど、一緒にどうかな?」

「……ええ、せっかくだから同席したいわ」


少し間を開けてから返事をしたエレナを気に掛けながらクリスは言った。


「じゃあ、そう連絡しておくね」

「はい」


徐々に会話ができるようになってきたものの、クリスとエレナの会話にはまだぎこちなさが残っていた。

そろそろこのぎこちなさを解消したいとクリスは思い切って口を開いた。


「まだ……怒ってる?」

「何がですか?」

「ケインのこと……」


ケインの名前を出した一瞬、エレナは動きを止めてクリスの方を見た。

クリスはようやくエレナと向かい合うことができたが、何を考えているのかエレナの表情からは読み取れない。


「いいえ」

「それならいいんだ」


言葉を受けてそう答えたが、エレナの言葉を真に受けるわけにはいかない。


「私、そろそろ失礼します」


クリスが次に声をかける前に、エレナはそう言って無表情のまま席を立ってしまった。


「僕もまだ許されてないのかな……」


エレナの背中を見送りながら、クリスはぽつりとつぶやいて、ため息をつくのだった。



こうして迎えた当日。


「エレナ様、ご無沙汰しております」


騎士学校の影響か少し挨拶が堅苦しいように聞こえたが、それを気にする様子もなくエレナが挨拶をする。


「ケイン、お久しぶりね。なんだかしばらく見ない間にすごく大きくなったように感じるわ」

「本当だね。体が鍛えられたのもわかるけど、背もずいぶんと伸びたんじゃない?」


クリスがエレナの言葉をフォローすると、ケインは答えた。


「あ、はい。背はかなり伸びたと思います」

「とりあえず、座って話そう」


なんとなく普通に話せていることに安堵しながらも、長い話になりそうだとクリスは座るよう促した。

そしてお茶やお菓子の用意が終わると、クリスはケインに近況を聞こうと話しかける。


「ケイン、学校はどう?」

「はい。昼夜訓練という環境で、何かを考える余裕もなく過ごしておりました」


思わず遠い目をしそうになるのをこらえながらケインは言った。


「そうなんだね」

「クリス様も執務をこなすようになられたと聞いています。大変ではありませんか?」

「今はまだ簡単なものしか処理していないと思うから、ケインほど大変ではないよ?」


クリスは執務室で一日書類仕事をする毎日を送っているが、クリスの技量で定時に終わっている。

クリスはそれを自分に合わせて届けられていると思っているが、クリスが実務に関わるようになってから仕事が分散されて国王や王妃の負荷がかなり減ったと言われていることをエレナは知っていた。

しかし、仲の良い二人の会話に水を差すわけにはいかない。

それに自分は今まで通り変わらぬ生活をしているので、報告をすることも特にないのだ。

エレナはその場でおとなしく二人の会話を聞いていた。

二人がしばらく話しているのをぼんやりと聞いているとクリスが急に人払いをした。


「ちょっと三人で話をしたいから、皆、席をはずしてくれる?」


クリスに言われて全員が部屋を出て言った。



部屋が三人だけになったことを確認すると、クリスが言った。


「エレナ、ケインがエレナに伝えたいことがあるんだって」

「私ですか?」

「うん。でも皆がいるところだと、二人が話しずらいかなって思って」


クリスがそう言うと、ケインがお礼を言った。

そして、ケインはエレナが座っている椅子の前まで来ると黙って膝をつく。


「どうしたの?」


急な出来事にエレナが驚いていると、ケインはエレナをまっすぐと見て言った。


「どうしてもエレナ様にお伺いしたいことがあります」

「何かしら?」

「エレナ様、私が近衛騎士になったら、その時はあなたの側に置いてもらえますか?」

「え?ええ……」


予想外の申し出にエレナは困惑した。

ケインは人を守る仕事はしたくないのではないかと思いながら返事をすると、その空気が伝わったのかケインが少しうつむいて言った。


「ダメでしょうか……」

「いいえ、ケインが側にいてくれるのなら安心だわ」


ケインの手に自分の手を重ねながらもやはり不思議そうに言ったエレナに、ケインは真剣に言った。


「私はあなたの側に立つのにふさわしい騎士となります。ですからどうか……」


ケインは重ねられたエレナの手にもう片方の手を添えて包むようにやさしく握った。

そんなケインにエレナは少し寂しそうに告げた。


「ケイン……、どうか無理はしないでね」


すれ違いに気が付いたクリスがここで止めに入った。


「ねぇ二人とも、それで自分の気持ちは伝えられたの?」


エレナは座ったまま、ケインはエレナの手を離し立ち上がって姿勢を正してクリスの方を向いた。


「ええ」

「はい」


二人から返ってきた肯定の返事に苦笑いを浮かべながらクリスは言った。


「いいならいいんだけどね……。二人の問題だから。ケイン、長期休暇はまだあると思うんだけど、またこちらにも来てもらえるかな」

「はい。もちろんです。私は休みですからご連絡いただければいつでも」

「今日、ケインはこの後、親族と会食があるんだったよね。時間は大丈夫?」

「え、はい。ですがそろそろ……」


伝えていないはずのクリスがなぜそのことを知っているのか不思議に思ったケインだったが、クリスの言う通り確かに会食まで時間がない。

クリスの言葉を受け取ってここを出る必要がある。


「じゃあ、また連絡するよ」

「かしこまりました」



とりあえずケインを送り出したものの、クリスは少し不安に思っていた。

長期休暇にケインが戻ることを知って、家族が何度か会食を計画していると聞いている。

クリスはケインが会食に遅れないようにと配慮して今日の時間を設定していた。

ちなみにこの情報はケインから聞いたものではなく、両親から聞いたものである。

今回の設定をするために調べた限り、ケインの帰省に合わせた会食の回数は随分と多い。

もしかしたらケインを誰かと引き合わせようとしているのではないかとクリスは思ったが、ケイン本人はエレナ一筋、エレナも見ている限り他の男性を相手にする様子はない。

思いは同じはずなのに、どうしてこうずれてしまうのかと頭を抱えたくなったが、クリスとしてはエレナとケインが二人で過ごす時間をできるだけ長く作りたいと考えている。

そのためにも今はケインに頑張ってもらわなければならない。

クリスはそんなことを考えながら部屋に戻ると、ふぅっとため息をつくのだった。


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