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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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秘密裏の話

壇上にいる面々は、しばらく途切れることのない挨拶を受けていたが、さすがに入場が終わり落ち着くと、人が離れていった。

そうして見通しが良くなったところで、各々が会場を見渡し状況を確認する。

その中に、王妃は目当ての人たちを認めると、自分からどう動いていいか迷っている様子のエレナに声をかけた。


「エレナ、あなたは私と一緒にいらっしゃい」

「何かあるの?」


エレナに尋ねられた王妃は穏やかな笑みを浮かべながら、それとなくこれから向かう先を指した。


「エレナは久々にあちらの二人に会うでしょう。せっかくだから一緒にあいさつに行きましょう。エレナだけが行くのは目立つけれど、私が一緒なら問題ないわ。ケインとも話せるでしょう」


具体的に名前を出すことはせずそう言うと、その方向を見たエレナは目を見開いた。

そこにいたのは、ケインと歓談するその両親の姿だったのだ。

一応公の場であるため、エレナが個別に話しかけたり、ケインからエレナに話しかけたりして、二人で会話をするのは難しい。

しかし、ケインの両親と国王夫妻、つまり、親同士が親しいことは貴族の間で知れているので、王妃が一緒ならばケイン達のところに行くのは問題ない。


「まあ。嬉しいわ!おじさまとおばさまもいらしているのね。ケインとはしばらく話ができないと思っていたし、できる事なら話をしたいわ」


基本的には親同士が話すのを子は横で聞いていることになる。

少しでもケインの近くにいられるのなら、エレナとしてはそれでも構わない。

こんな壇上で会場全体をぼんやりと眺めているよりはるかにいい。


「また帰り際にご挨拶をと人が集まってきては動けなくなってしまうわ。行きましょう」

「はい」


エレナは母親を見上げて返事をすると、歩きだした母親の横にくっつくようにして壇上を降りた。



エレナが王妃と壇上を離れたのを見計らって、クリスはブレンダに話しかけた。


「ブレンダ、ちょっと話があるんだけど、少しいい」

「何でしょう」


これからの事を決めるのかとクリスに一歩寄って、聞く姿勢を取ったブレンダの耳に、クリスは口を寄せた。


「少し二人で話す時間を作れないかな」


傍から見れば仲睦ましそうに見える光景だし、クリスの言葉もそれを匂わせるものだが、クリスをよく理解しているブレンダは、それが周囲の期待するようなものではない事を理解している。

これから話す内容は内密に話したいことで、特にエレナに聞かれたくないものということだろう。

確かにこの先、護衛の関係で基本的にエレナが自分たちから距離を置くことは少ない。

話すなら今かもしれないが、その会話がこの場にそぐうものであるかと言われたら否だ。


「それはこの状況下でということですか?」


ブレンダが小声で確認するとクリスは小さくうなずく。


「うん」


その対応からブレンダが自分の予想に間違いはなさそうだと判断してため息をついた。


「何か不都合でも出てきましたか?」


ご令嬢として振る舞うことに疲れていたのもあり、仕事モードになったブレンダが思わずいつも通りの口調で尋ねると、クリスは微笑みながらうなずいた。


「出立直後のタイミングで、一時的にプレンダにエレナを引き付けておいてもらいたい時間ができそうなんだ」


出立直後という指定から、ブレンダはどの喧嘩を察して確認する。


「エレナ様に知られてはいけない件となると、牢にいる者に関係することでしょうか」


その質問に、クリスは作った笑みを崩さず、ひそめた声で答える。


「そう。そのタイミングでちょっとそちらの件が動くんだ。これはすでに皇太子殿下と話がまとまっている件だから、そちらを調整することはできないんだけど、例の男を彼の国に引き渡すことになってる。父親も彼の国側の預かりになるので、そこで再会、こちらとしては政治的取り引きの約束を果たしたという形を取ることになる」


彼の国と話がまとまっているということは、あちらの提案の可能性もある。

そもそも今回の一連の事件解決の主導権が向こうにある現状で、クリスに経緯の説明を求めたところで解決にはつながらない。

それより今は、その先の話をする方が重要だ。


「国内的にはどう処理をするのですか?」


国民としては、公開処刑を望む声が上がるほどの大罪人が、まさかすでに一人国外で野放しにされているとは思っていないだろうし、もう一人も国外追放とはいえ、生きてこの国から放逐される。

随分と甘い処遇だと非難の声が上がるのは間違いない。


「何も言わなければ、終身刑だと思われて終わりなんじゃないかな?」


牢屋をいちいち確認する人間はいない。

普段見張りについている者や、食事などを運んだり、引き渡した時に立ち会ったりしている人間なら言われなくても気がつくだろうがそこは事前に根回しをするので問題ない。

話が漏れなければ、特に確認しようという人間もいないだろうし、時間が経てば、彼らの存在など気に留めるものもいなくなるだろう。

今はまだ、そこまで時が経っていないというだけだ。


「ちなみに騎士団ではどのくらい知られている話ですか?」


詳細を知るために騎士団の知り合いから話を聞きたいところだが、そもそもこの感じだと知っている人間の方が少なそうだ。

確認する側のこちらが誤って情報を広めることになってしまってはいけないので、慎重に対応しなければとブレンダが考えていると、クリスは首を横に振った。


「さっきまとまった話だからね。騎士団長には伝えてあるけど、それ以外で知っている人はいないんじゃないかな。これからメンバーを厳選して引き渡しの人選をして、その人たちだけに伝えて、騎士団長は彼らと一緒に出立すると思うよ」


騎士団長は彼の国の騎士たちと共に戦場に向かう。

そのためこの場には残れない。

だからこの案件を第三者に託すことになるのだ。


「そうですか。それこそ私がその役目を引き受ければいいように思いますが」


何かあった時に騎士団をまとめるのは自分の役目のはずだ。

それならば自分がそこに行けばいい。

エレナを引きつける役割よりそちらの方が自分には向いていると、ブレンダがそれとなく提案すると、クリスはあっさりと拒否した。


「ブレンダが護衛対象から外れるなんて、それこそ不自然でしょう?」


確かにブレンダなら信頼できる。

けれど今のブレンダは、エレナとクリスと同じく、警護される対象なので、ブレンダがいなくなったら大騒ぎになってしまうし、長時間席を外せば、行き先が問われるのも間違いない。

そうなったら隠れて引き渡す意味がなくなってしまう。

クリスがそう言うとブレンダは思わず苦笑いするのだった。

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