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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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出立前の選択肢

騎士団長からの呼び出しは、ここに残る交代要員は任意参加だが、出立する騎士は参加必須という話だった。

交代前だし、状況を知っておきたいとルームメイトはケインと一緒に騎士団長の話を聞きに行くことにしたのだ。

ケインたちが部屋を出て指定された先を目指していると、やがてそちらに向かう騎士の姿が増えてきた。

準備ができて会場に向かおうとしていた騎士たちも、行き先を変えてやってきたようで、次々と入室していく。

ケイン達もそれに続いて部屋に入ると、入室順に作られている隊列に加わった。

そうして入場する人が途切れると部屋の扉は閉められた。



「出立メンバーは全員揃ったな」

「はっ!」


一人隊列の方を向いて中央に立っている騎士団長の掛け声に、隊列にいる一同が揃って返事をした。


「忙しい最中、呼びだしてすまない。これから壮行会に参加してもらうことになっているが、その前に大事な知らせがあって集まってもらった。心して聞いてもらいたい」

「はっ!」


一部は騎士団長の様子がいつもと違うことに気付いては眉をひそめたが、どちらにしてもここで話を聞かないという選択肢はない。

返事をする表情はともかく、やはり声は揃っていた。

騎士団長は彼らの返事から少し置いて、その間に全体を見回すと、険しい顔で内容を話し始めた。


「非常に残念だが、此度、戦を回避するのは難しい様相だ。そこで改めて皆の意思を確認したい。戦にならぬことを想定して参加を希望した者、期が近づいて考えの変わった者はいないだろうか」


突然の情報と質問に、場内はざわついた。

今さら何を言っているのかと不思議そうにする者や、近くにいた友人にどういうことなのか不安そうに確認する者など様々だ。

それぞれの声は小さいので騒然とはならないが、空気が乱れる。

しかしそれを一括するかのように騎士団長は言った。


「ここでの確認が最後となる。出立してから引き返すことはできん。もし、覚悟が揺らいだものがいたのなら遠慮なく申し出てほしい。彼の国の大きな助力があるとはいえ、最悪、家族を置いて先に天に召されることになる可能性もある」


騎士団長の言葉に、今度は皆が無言になった。

なぜこのタイミングで呼ばれたのか、気を引き締めるためだけに言い出したことではなく、まぎれもなくこれから向かうところが戦地であることが確定したことが、皆に伝わる。

そしてこれが騎士団長が掛けられる最後の温情である事も、一同が同時に理解した。


「ここで辞退したことで咎めることも降格することもない。短い時間しかないが、命がかかっている。よく考えてくれ」


評価が下がることを気にしているのなら、それは査定に含まないと告げると、今度は緊迫感が増した。

それぞれが自分と向き合い始めたのか、ざわついていた場内は静かになる。

時間がないとはいえ、重大な選択を急に皆に押し付けたようなものだ。

最初に説明していた最悪の事態が現実となったことは、騎士団長にも焦りをもたらしていた。



しばらく静かになっていたが、それを打ち破るように一人に騎士が高らかに宣言した。


「元々、戦になること、命がかかっていることを説明された上で志願しました。国のため、騎士の誇りのため、将来の家族のため、自分はこのまま参加します」


一人が声をあげると、他も追随する。


「我々も同じです!」

「すでに覚悟はできています!」


そもそも戦争に参加するという説明を受けた上で志願したのだ。

危険があることは分かっていたし、その時に一度覚悟はしていた。

そこまで王宮騎士団に入団したものは浅はかではない。

きちんと考えて出した答えなのだ。

でももし、誰かが辞めたいと言ったなら、責めはしないが最初から志願するなとは思っただろう。

この場はよくない情報が入ったことを共有されたにすぎない。



「あの、団長!私は死にに行くわけではなく、勝ちに行くつもりで参加します。もともと自分の大事な人を守るために私は騎士になりました。でも、この先も守り続けるために、命を投げてはいけないと思うのです。私は自分の矜持のために参加を希望しましたが、大事な人から、反対はしないが生きて帰ってほしいと送り出されてきました。他の家族も同じだと思うのです。だから皆で、ここに生きて帰りたいです」


普段は寡黙であまり話をしないと他の騎士たちから認識されているケインの突然の言葉に、皆が注目した。

死ぬかもしれないという意味で、覚悟は確かに必要かもしれない。

しかしこれでは死ぬことが前提で、誰もここに戻って来れないような、そんな覚悟を重視されている気がしたのだ。

けれどそれをクリスやエレナが望んでいないことは、直接話を聞いているケインが一番理解しているつもりだ。

具体的な内容は言えないけれど、せめて皆にその事だけは伝えたかった。


「私は今回参加しませんが、参戦される皆が、戻ってくるのを待っています。皆が勝利を持ち帰るまで、残った者で、皆様のご家族を守ります。ですから、ケインの言う通り、全員に無事、帰還していただきたいです。戦に参戦する覚悟が並大抵ではないことはわかっています。ですが、帰って来ることが正しいので、どうか、命を粗末にだけはしないよう、願います!」


ケインの言いたい事を隣で拾ったルームメイトも声を上げる。

自分が彼らを死なせる方向に気持ちを持っていっては、相手に気持ちで負けてしまう。

必要だからと覚悟についてばかり述べた自分の言葉に、騎士団長が反省の弁を述べる。


「二人の言う通りだ。私は皆に少し覚悟を負わせ過ぎてしまったようだ。当然、最初から死ぬために行くわけではない。死を覚悟して戦うなど戦う前から負けているのと同義だ。勝ちに行く。そして生きて戻るのだ。だからこそ、挑むことに恐れを抱く者がいるのなら、足手まといになる。その者を外すため、覚悟を問うたつもりだ。皆、本当にいいのだな」

「はっ!」


戦争に参加しても、戦いに勝って戻ってくればいいのだ。

そして戻ることを目標に戦ってもいいのだ。

それが一番理想の形なのにどうしてか未知の戦という概念が先だってその事を失念してしまっていた。

確かにこれでは命を投げ打つ前提になってしまう。

逆にそんな低い意識では負けに行くようなものだと皆が気付いたのだ。


「そうか。皆の覚悟に感謝する。そろそろ時間だ。参ろう」


決意と覚悟を新たにした騎士一行は、騎士団長のその一言を受けて、まとまって壮行会の会場に足を運ぶのだった。


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