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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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立場と覚悟の違い

クリスと彼の国の皇太子殿下が面会している頃、壮行会という公的な式典に出席する準備のため、エレナとブレンダは支度部屋として準備された場所に二人で押し込められていた。

王妃は別のところで準備を始めていて、終わり次第こちらに来て合流することになっている。

今回の会は王妃が取り仕切っている。

そのため自身の準備だけではなく会場準備の確認も行っていて、そちらにも足を運んでくるようだ。


「エレナ様はよく平然となさっていられますね。私は全く落ち着かないのですが」


騎士としての参加ならまだしも、今回はクリスやエレナと一緒に並んで入場する。

慣れない格好をしなければならないというのもあるが、今まで下から見ていたから自分がこれから立たなければならない場所が、いかに注目を浴びるのかはよく分かっている。

まずそこに自分が立つということも複雑なのだが、自分がそこに立って仲間を見送るだけというのも複雑だ。


「特に落ち着かないようなことはないわね。皇太子殿下は面識あるもの」


立場が違うとはいえ、ブレンダの方が公式の場に出ている回数が多いはずなのに余裕がない。

元々備わっているものや、育った環境、立場の違いがそうさせているのかもしれないが、控えの場において堂々と構えているエレナはさすがとしか言いようがない。

こうして支度を終えて時間ができてしまうと、どうしても色々考えて落ち着かなくなってしまう。


「それはそうですが、エレナ様は大丈夫なのですか?」

「何の話かしら?」


ブレンダの質問にエレナが何を答えとして求められているのか分からないと聞き返す。

もしかしたらエレナにはまだ実感がないのかもしれない。

殿下との面会で緊張する、その空気に圧倒されることがないのは前回近くで見ていたので知っているので、ここで具体的な内容としてあげられるのは一つだ。


「ケインが戦場に行くことについてです。考えないようにしているのなら申し訳ないのですが、もしそうしているのでしたら、向き合っておいた方がいいと思います。出発は明日なのですから」


ここで目を逸らしてケインと離さないまま彼を戦場に向かわせるのはよくない。

もしもの事があった時、生涯その後悔を抱えて行くことになる。

騎士の方は、その覚悟を持って出立するし、騎士だった自分は送り出す側として、その覚悟がある。

でもエレナはそういう環境にいたわけではない。

見送る時も見送られる時も生涯の別れを覚悟するべきというのが、騎士団の基本的な考えの中にある。

普段の任務でも、事件で怪我をしないは限らないし、有事がいつ起こるか分からないのだから常に覚悟を持ち、日頃から意識するようにと言われていることだけれど、今回が正に有事であり、その覚悟の問われるところである。

きっと入場してくるうちの騎士たちも重苦しい雰囲気で来ることだろう。

ブレンダがそんなことを思いながらエレナの答えを待っていると、エレナは言った。


「そうね。確かにこれが終わったら行ってしまうと思えば、不安がないとは言えないわ。でも一番不安なのは、安全な場所にいる私ではなく、これから戦場に立つ彼らなのだから、私が不安を表に出すのは間違っていると思うの」


エレナはそう言うとにっこりと微笑んで見せた。

これが王族に必要な覚悟かと思わず目を見開いたブレンダは、同時に思わず心情を吐露した。


「それはそうなのですが、私はどうもうまく切り替えられません。これまでともに切磋琢磨した仲間が戦場に出ると考えると……」

「ブレンダは私よりも騎士団の皆と親しいのだもの。仕方がないと思うわ。でも、私たちの役目は彼らを信じて待つことだもの。不安を見せたら信じていないのと同義。孤児院の時や襲撃の時、思わず前に出た私は、そのたびにお兄様に怒られたわ」


前にクリスから、護衛してくれている騎士のことが信用できないのかと言われたことがある。

それから色々と学んで、今回は彼らなら達成できると信用することで自分を納得させているとエレナは付け加えた。


「あの時は、守られる立場なのに表に出るなんてと、私も思いました。そうですね、不安に思うことが彼らを信頼していないことになる。そして同じ立場で自分がされたら、騎士の矜持が傷つきますね。私も送り出すまでは、どうにか耐えるべきなのかもしれません」


これなら一緒に出立する方が気が楽だ。

ブレンダとしては正直そう考えてしまうのだが、すでにそれが許されない立場になってしまった。

ならばせめて、彼らにエレナのような姿勢見せるのが正しいのだろう。



「ブレンダ、その通りよ」

「王妃様」


エレナとブレンダが話をしているところに、王妃が入室した。

そして前に伝えた言葉の意味はこういうことだと微笑む。


「情報が来ないのと比較にならないくらい、できることがあるはずなのに動けずに待つというのは辛いでしょう?」

「そうですね。これなら表にいる方が、私は楽です」


正に今、自分が考えてきたことを王妃が鋭く突いてきた。

そこに驚いたのもあって、思わず素直に肯定する。


「これからはこういうことが常に発生するわ。だから慣れなさいと言ったのよ」


情報が来ないくらいで慌ただしく動き回ったり、落ち着かないなどと言っていたら、こういう場面で精神的に参ってしまう。

まさかこんなに早く有事に見舞われるとは想像していなかったけれど、彼の国が関わった時点で、こうなることは想定できたはずなので、後は頭を切り替えるだけだ。


「お恥ずかしい限りです」


戦に対する覚悟のようなものは自分の中にしっかりとあると思っていた。

しかしその中にあるのは戦に参加する覚悟、そして命をかけて戦う覚悟だ。

もちろん簡単に死に向かうつもりはないので、そのために訓練は欠かしてはいけないと思っていたし怠った事もなかった。

そして騎士として、穏やかな死は望めないと考えていた。

同時にそれだけ多くの覚悟を持って騎士として上を目指していることが自分の誇りだった。

けれどそれは騎士として必要な覚悟であって、王族としてのものではない。

多少の違いは理解できていたが、こうして事が起こってみると、まだ自分は王族の皆と同じ考えを持ててはいないことが分かった。

騎士としての覚悟を持っているし、立場によって考え方が違うことは理解できているつもりだった。

だから王妃教育というものにこんなに多くの時間を取る必要があるのかと思っていたが、その教育が不要なものではなかったことを、この場でブレンダは改めて自覚したのだった。

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