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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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大規模な調整

殿下の考えを聞いたクリスが、頭の中で情報を整理していると、殿下が思い出したように言った。


「ああ、ついでにその息子の身柄も預かっておこう。父子、早い対面がいいのなら戦の前に移送を始めた方がいい。誘拐して我が国まで移動したらすぐに会えるように計らうだけで済むからな」


確かに戦争となれば移動の制限は増えるし、時間がかかるだけならまだしも、移動そのものが困難になる可能性がある。

彼の国までの移動の際に最短で動くために通過したい国が、戦禍に巻き込まれないよう国境を封鎖したりするようなこともあり、その際、無理に突破せずに進もうとすれば、必然的に迂回しなければならなくなる。

それが小国であっても複数の国にまたがれば迂回の距離は何倍にも延びて到着までに時間がかかることになる。

そうなる前にできることはしておきたいのでと言われたら早めに彼を引き渡す方がいいだろう。

こちらの調整は必要だが、そもそも彼がどういう処遇を受けているかを知る者は少ないのだから何とでもごまかせるはずだ。


「それにしても、我々がいる時に大人が誘拐されるなど、例の国の治安の悪さが露呈されて面白いことだな。こちらには彼を由介する大義名分もあることだし、そもそもその者は例の国の人間ではないのだから、彼らも口出しはできまい。こちらも楽しみが増えたというものだ。さて、そろそろそちらの歓待を受ける準備に戻るとしようか。クリス殿下も準備が必要だろう?」


到着したそのままの格好で執務室に来た殿下は、ここまで休息がなかった状態だ。

準備もあるだろうがさすがに休息も必要だろう。

珍しく向こうから退席の申し出をしてくるくらいなのだから、疲れているのかもしれない。

準備をしてくれると言っているのだから、その言葉に甘えたいというのもある。

本当は彼の解放についてはもう少し詰めておきたいところだけれど、こちらが提示すればどうとでもしてくれるということだろうし、引き留める理由はない。


「そうですね。ですが壮行会についてはあまり仰々しいものにはしないつもりです。これから気を張って出かけなければならない方々ですし、食事を通じて交流し、英気を養ってもらえるよう、無礼講にできればと思っております」


士気を高め交流をするのが目的だし、彼らを疲れさせた状態で送り出すつもりはない。

だから顔合わせの場と食事の場を一緒にしたものにしている。

そうすれば一度で済むし、気疲れも少なくて済むだろう。

他にもこちらの都合はあるけれど、彼の国の方々には疲れたら部屋に戻ってもらえるよう配慮している。


「そういうことなら歓迎だ。だが、参加する中に見送る側の貴族がいるのなら、一応国家間のつながりを、しっかりと見せつける場にせねばならないのではないか?他の者たちはともかく、私は目立つだろうから、そのつもりで来ているぞ?まあ、ここで使わなくともあちらで必要になるものだからついでのようなものだがな」


殿下がそういうのでついそれに乗ってしまいそうになるが、それはさすがに申し訳ない。

ここに寄ってもらっているのもそもそも、こちらの立場に配慮してのことなのだ。

彼らにそれ以上のことを求めるべきではない。


「貴族への対処はこちらの人間が何とかいたします。殿下たちは来客なのですから無理はしなくてよろしいですよ。もちろんお心遣いはとても嬉しいですけれど」


確かに親交を深めていることを外に示せるのはありがたい。

騎士とその関係者の一部しか来ない場ではあるが、騎士の関係者で参加するのは貴族なので、そこから良好な関係であることが他の貴族に広まることだろう。

しかし素直に甘えるのはどうかと思うので、そちらで自由に判断してもらって構わないとクリスは伝える。


「わかった。適度に配慮することにしよう。それにそのまま来てしまったからな。食事の前に湯なども借りておきたいところだ」


曖昧な返事だが、彼は気が向いたらそうすると答えて、話を逸らした。


「それは整っているかと思います」


長旅の疲れをいやす準備は最初から整えてある。

それも部屋の準備と共に、彼らを迎える準備の一つとして命じてあることだった。


「さすがだな」


到着して希望を聞く前から準備を整えておくなど、不要と言われたらただの無駄だろうに、この国はそういった気遣いやもてなしがなされる。

自分たちがするのは面倒だが、されると存外気持ちの良いものだ。


「本来ならば到着後にすぐ休憩していただくつもりでしたからね。他の方の分も用意してありますし、少しでも疲れをとっていただければと。私たちにできるのはそのくらいですから」


むしろこちらは本来手にできるであろう彼の国の手柄を横からさらう身だ。

このくらいのもてなしでは足りないのだが、満足してもらえるのなら、手柄を受け取ったこちらに恨みを持つ者を出さなくて済みそうだ。


「ではお言葉に甘えさせてもらおう。そちらに合わせて身ぎれいな皇太子として参加することができそうだ」


どうやら彼は身ぎれいにして、正装で来てくれるらしい。

それとない言葉から察したクリスは素直にお礼を伝えた。


「そういうところにいつも配慮いただいて感謝していますよ」

「私に友の面子を潰す趣味はないからな。では失礼する。もし何かあれば別に時間を設けよう」


彼が立ち上がったのでクリスも遅れて立ち上がると見送る姿勢を取る。


「そうですね。先ほどの件、きちんと調整させていただきますね」


互いに準備をしようと、まとまったタイミングで話し合いは終了となったのだった。



クリスは殿下を送り出すと、すぐに騎士団長を呼ぶことにした。

彼も主賓として参加することになっているため今頃準備を進めているところであるはずなので、申し訳ないと思うが、今日明日のことなので、分かった今の段階で伝えておかなければさすがに動くことはできないだろう。

後から騎士団長に伝えて、出立した彼らに待機場所で改めて覚悟をするようにと言い含めるはさすがに厳しいし、その段階での離脱は避けるべきだ。

一応戦争に参加することが前提での募集なので、離脱するものは出ないだろうが、覚悟の足りない者が足を引っ張る可能性がある。

戦になる可能性の低さからそういった者からの希望も許容していたけれど、覚悟の足りない者は足手まといになるので、土壇場ではあるが置いていく判断を下さなければならない。

クリスもさすがにその判断基準は持ち合わせていないので、そこを騎士団長に一任することになるのだ。



また、先ほど話に出た人質の件もある。

これも騎士団で動かなければならない案件だ。

人質を相手に渡すこと、今放っている男性が誘拐されること、全て騎士団の管理下にあるものなのだ。

知っている人間には何もなかったように振る舞ってもらわなければならないし、知らない者に悟られてもいけない。



一度こういったことが起こると、いっきに騎士団の負担が増してしまう。

この件が片付いたら、体勢についても見直しが必要かもしれない。

クリスは騎士団長が来るまでの間、そんなことを思うのだった。

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