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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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クリスからの手紙

クリスとケインが学校を卒業してから、ますます距離の離れた三人は、それぞれ新しい生活を始め、ようやくその生活スタイルが定着しようとしていた。

クリスは当たり前のように朝食を終えると執務室に向かい、エレナは今までの掃除洗濯だけではなく、弓の稽古をつけてもらいに時折、訓練場にも足を運ぶようになり、ケインはそんな二人を気にすることができないくらい多忙な日々を送っている。

こうしてしばらく過ごしているうちに、クリスはあることに気がついた。

向こうから連絡してくるのを待つわけにはいかないので、こちらから連絡する必要がある。

クリスは早速、手紙を送ることにした。



クリスの手紙な送り先はケインだった。

クリスは書き終えた手紙をケインの寮に届けるように頼んだのだ。

いつも通り一緒に行動しているメンバーと寮に戻り、自分の部屋に入ろうとしたところで寮の管理人から声を掛けられて手紙を渡された。


「お、ケイン、女性からの手紙か?」


それを見ていたルームメイトが表書きのきれいな文字を見てにやにやしながら聞いた。

彼が学校に通っている時、散々女性を泣かせてきたという話は騎士学校の中では密かに有名だ。

そして、そんな女性たちに見向きもせず、男所帯の騎士学校に入学をしてきたこともあり、最初は変わり物に違いないという偏見の目で見る者もいた。

そんなケインに実は特定の女性とお付き合いがあるとか、貴族として決められた婚約者がいるとか聞かされても、この寮で驚く者はいないだろう。

ケインは差出人を確認することなく言った。


「いや、この字の主は男性ですよ」


そんなことをルームメイトが考えているとはつゆ知らず、そう答えながら部屋のドアを閉めた。

ドアの開閉など気にならないのか、ルームメイトはその封筒の文字を改めてまじまじと見つめた。

細くてしなやかな文字は女性のたおやかさを思わせる。

こんな文字を書く男性など想像できない。


「へぇ……きれいな字だな」

「ああ、確かにそうですね」


見慣れてしまったケインはそう答えながら、念のため差出人を確認するために封筒を裏返した。


「俺、寮に入ってから手紙なんて受け取った記憶ないわ」


長期休暇があることを知っているからなのか、家族などからの手紙が届くことはめったにない。

むしろ連絡がきたら緊急事態を疑う。

手紙をやり取りが多いのは婚約者がいる人や、一部のまめな人だけというのが男所帯の現状だ。


「私も初めてですよ……」


ケインはあまり気にすることなく、いつも通り開封して内容を確認しようとしていると、ルームメイトが再びケインの手元を覗き込んだ。


「で、わざわざ手紙をくれた主って……おい!それ……」


封をしている蜜蝋を見て思わず後ずさった


「え?どうしましたか?」

「お前、その蜜蝋、もしかして……王族の……」

「この手紙ですか?」


特に気にする様子もなく、指でつまんで蜜蝋がルームメイトに見えるよう手紙の向きを変えるが、ルームメイトはおののいてさらに距離を取った。


「そうだよ!なんでお前そんなに冷静でいられるんだ?てか、誰だよその主……」


彼が動転しているだけのか、本当に分からないのか不明だが、ケインは大きく息を吐くとその質問に答える。


「この字はクリス様ですよ?」


ケインからすれば学校で一緒に勉強していたこともあり、クリスの文字には懐かしさすら覚えるのだが、王族と交流がなければぱっと見の蜜蝋で差出人を見分けるのも無理だろうし、手紙のやり取りをしていなければ誰の文字かもわからないのは仕方ないだろう。

確かにこれが国王や王妃からのものだったら、文字で誰かまでは分からなかったはずだ。


「ク、クリス様?あの麗しい?……見た目や仕草だけじゃなくて、文字もきれいなんだなぁ……じゃねーよ、なんでケインのところにクリス様から手紙が来るんだ?」


ルームメイトの方は興奮しすぎてだんだん声がうわずっていく。

そして彼との距離ができたので、ケインも自分のベッドに移動して手紙を開封しながら言った。


「幼い頃から交流があって……、あと学校も同じクラスでしたし」

「そ、そうか、そういえばクリス様は学校に通われたんだったな」

「ええ」


クリスが学校に通っていたということはどうやら騎士学校でも知られた事実らしいが、仲の良さは、もしかしたらクラスメイトの中でしか知られていないのかもしれない。

ケインがそのことに少し安堵していると、ルームメイトは尋ねた。


「で、内容はどうなんだ?」

「内容ですか……」


ケインは改めて視線を手紙に落とした。

書かれているのは季節の挨拶分と帰省時期の確認である。

実際のところ、手紙には日程の調整のことしか書かれていない。

クリスは寮で見られてもいいように最低限の内容しか書いてこなかったのだ。

これならケインが何とでもいいわけできるだろうという配慮で、それは手紙を呼んだケインもすぐに理解した。


「ああ、今度学校の長期休暇の際は実家に戻るのかとの確認ですね。寮を出て帰省するなら一緒にお茶でもという感じでしょう」

「……。クリス様とお茶か……」


ルームメイトの頭の中では優美なクリスとケインが二人でお茶をしている様子が思い浮かんでいた。

その妄想を打ち壊すかのようにケインは言った。


「はい。おそらく両親も交えてでしょうが……」

「そうか……」


幼い頃から交流があったと先に言ったので、これで納得されるだろう。

何も嘘は言っていない。

手紙を渡した者、もしかしたら廊下で別れた人が手紙を受け取ったところを見た可能性、そしてルームメイトと今回の件を知っているものは意外と多い。

手紙が来てしまった以上、交友関係に関しては隠すことができないし、前後に入学した学校の人間がいればクリスとの仲はいずれ知れてしまうのだ。

それなら出せる情報は自分で出した方がいい。

そうすればこの誘いがエレナとケインを会わせるためのものだなんて誰も考えないはずだし、エレナのことを探られなくて済むだろう。

それに両親と一緒と言っておけば、大人数でのお茶会の誘いの一つとして認識されるはずだ。

これに関しては実際に行われた後で確認されるようなことがあって、両親が同席していなければ、しなかったと答えればいい。

本人たちだけで話を進めて、当日も本人だけで会うことに問題はないし、クリスの文面からもそう受け取るべきだろうと思うのだが、ここで口に出したとおり、本当に両親、国王たちと同席になる可能性もゼロではない。

手紙をもらったことで、忙しさに身を任せて考えないようにしていたエレナのことが頭に浮かんだ。

エレナは自分と会ってくれるのだろうか。

その後をクリスに任せてから、何も聞いていない。

きっとその話もあるのだろうとケインは思った。

こればっかりは考えても仕方のないことだ。

ケインは、とりあえず誰に内容が知れても良い、学校の休みの期間と帰省の期間を書いた手紙をクリス宛に送り返すことにするのだった。

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