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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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求める平穏の違い

ケインがエレナに戦争参加を打ち明けたその日、仕事の終わりが一緒だったため二人で部屋に戻った直後、ルームメイトはケインを睨んだ。


「ケイン、悪いんだけどさっきの話、俺は初耳だぞ?」


聞きたくもない重要事項を聞かされたと怨みがましく口にするルームメイトに、ケインはそんなことを気にする様子もなく答えた。


「ああ、まだ正式にお触れは出てないみたいだからな」

「そうだろうさ」


ケインは呼びだされてクリスに意思確認をされたかもしれないが、自分をはじめ、多くの者はそもそも、その情報すら持っていない。

これから聞かれるのかもしれないが、それにしてもあまりにも大きな話だから、きっと仔細まで聞かされるのはごく一部に限定されるだろう。

何せケインが口にした段階で、王女殿下であるエレナが知らなかったことなのだ。

それをこの段階で自分まで知らされることになるとは思っていなかった。

本当はあの場で思わずケインに聞き返したかったがそれだけはこらえた。

さっさといつも通り寝転がりたいところだが、さすがにだらけた状態で話す内容ではない。

着替えが終わると、ルームメイトはケインの方を向いてベッドに腰を下ろした。

そうなるとケインも自分だけ転がってしまうのは気が引けて、彼と向き合い自分のベッドを椅子代わりにして彼と向かい合った。

そして、彼に思うところがあると察してか、ケインは感謝の意を述べる。


「エレナ様の前で余計な事を言わないでくれて助かった。ありがとう」


ケインはそう言うが、自分が求めているのはそこではない。


「俺は追い出された方がよかった。こっちは完全にもらい事故だ」


上層部の中でも一部しか知らないような情報を、偶然知ってしまうことになるのは何度目か。

自分が迷い込んでしまった王宮の庭の件については自分にも非があるからケインを責められないし、ケインがいるからと、この職を選んだのだって自分だからその辺りは自己責任だと分かっている。

けれど今回は、何となくケインが自分と二人で護衛している日をあえて狙ったように思えた。

もしかしたら表立って話せないけど、自分にもこんな話が出ているとそれとなく知らせたかったのかもしれないが、それにしても自分には不要な情報が多すぎる。

そんな情報は必要なかったし知りたくなかったんだと、そんなことを思いながらため息をつくと、ケインは首を傾げた。


「いや、ほどなく案内が出るから問題ない。誤差の範囲のはずだ」


その言葉を聞いて、ケインに理解を求めることを諦めたルームメイトは、論点をずらすことにした。


「でもそうか、クリス様に呼ばれたってのはそういう話だったんだな」


ケインに自分の求める平穏と同じものを期待することを諦めてそう言うと、ケインの表情が硬くなる。


「ああ。この話を聞かされた上で、どうしたいか聞かれた」


前線に行くか行かないか。

本当ならば騎士団内からの命令で決まるこの件について、クリスは自分に選択権をくれたのだとケインが言うと、ルームメイトはため息をついた。


「で、参加するって答えたわけだ。例の国に対するエレナ様の復讐か?」


そう聞かれたら前線に行くと答えるのが騎士だろう。

参加することが名誉だし、手柄をあげて功績を残すことを目標にしている人間ならなおのことだ。

自分はそこまでの矜持はないし、平穏優先なので選択権があるなら参加しないかもしれないが、聞かれてそう答えられる雰囲気かどうかは正直立ち会っていないのでわからない。

ただ、ケインはエレナの婚約者に内定している。

そのお披露目に関しても外堀を埋めて準備を進めている状態だ。

クリスの立場なら、エレナの相手としてケインに瑕疵がつくのは避けたいだろう。


「それも、ないとは言わない」


例の国への復讐、感情的になればそうなのかもしれない。

けれど、それはケインの気持ちの、ほんの一部にすぎなかった。


「クリス様は反対されなかったのか?」


ケインに選択肢を与えたというのは、前線に置くという辞令を出させないように事前調整するのが目的かもしれない。

そうなるとクリスはケインに前に出ないでほしいと思っていて、ケインさえ希望してくれたなら喜んでそれを受け入れたのではないかと、ふとそんな考えがよぎった。

そのルームメイトの質問にケインはさすがだと、そんな言葉を小声でもらして、うなずいた。


「そうだな。友人としては参加してほしくなさそうだった。でも、理解してくれたと思う。それでエレナ様には第三者から耳に入る前に自分の口から説明したいって頼んだんだ。そうすればエレナ様に反対されるリスクは減らせると思ったから」

「そこまで決まってたのか」

「ああ」


クリスと話をした時、すでにそこまで決めていたと言われて、今回の件をエレナにきりだしたタイミングは単に偶然だったのかもしれないとルームメイトの方は思い直す。

ケインはすでに決断しているので、後は辞令を待つばかりだ。

そして辞令が出れば王宮内はその話題でもちきりになる。

そうすれば必然的にエレナの耳にもその件が入ってしまうから、そうなる前にケインとしては伝えたかった。

それはケインがエレナを慮っての行動ということだ。

自分の考えすぎだったなと少し反省してため気を付くと、ケインはそんな彼を見て笑った。


「本音ならエレナ様のために命くらいかけられるんだけど、それをエレナ様はきっと望まないんだよな」


ぽつりとそんな本音を漏らしたケインに彼は同意した。


「俺もそう思うぞ。てか、そう言ったらお前は反対されて確実に参加できなかっただろうな。それにしても、エレナ様が反対しなかったのは何だか意外だった」


戦地に行くと知らせたら、愛するものをそんなところに送りたくないというのが普通だろう。

反対してそれを止められる立場にいるのならなおさらだ。

ケインだけではなく、エレナも少なからずケインを思っていることは、普段の行動からも伝わってきている。

だからなおさら、その話を聞いて反対しなかったことを不思議に思った。

そんな一般的な意見を伝えると、ケインはその疑問に当たり前のように答えた。


「ああ。だから先に言質を取りたかったんだ。エレナは俺が命令ではなく自分の意思で希望したって言ったら反対できないってことは想像できていた。だから先手を打った」


これまでエレナは自分の希望が通ることは少なかった。

それが本人にとって辛い経験となって積み重なっている。

だから他人の希望が通らないことについて、通常の人よりも過剰に気にするところがある。

そして自分の希望で相手の希望を砕くようなことは、よほどのことでない限りしない。

ケインの行動はエレナの行動を先読みして行ったものだ。


「何でそこまでするんだ?」


確かにエレナを貰い受けるのに地位や名声が必要になることくらいは分かる。

今回の件だって開戦うんぬんに関係なく、前線に行けば、そこに出されるだけの実力を有していると判断されるので、危険とはいえ悪い話ではない。

でもそれ以外の感情がケインの中にあるように思えてならない。

彼が尋ねると、ケインは表情を曇らせた。


「エレナ様には、生きてもらいたい。俺がどうなっても生きてほしい。生きてさえいてくれたらいいと思ってる。だからその障害になりそうなものはできる限り排除していきたいと思っている。本当なら今まで邪魔をしてきたもの、すべてをそうしたいところだけどな。そうはいかないことも理解はしているつもりだ」


ケインの言葉に今度はルームメイトの方が苦笑いする。


「思ったより苛烈だな」


ケインは彼のその反応の方が意外とばかりに、目を見開いた。


「そうか?エレナ様をそのような悪意から遠ざけたいというのはあるけど、どっかのお偉いさんみたいに閉じ込めておきたいとは思わない。だったら外に出た時、害になるものは極力減らしておいたほうがいい」


全てはエレナの希望を叶えるために必要なことだ。

少なくとも、街を歩いて襲撃を受けるような状況を見過ごすわけにはいかない。

これはその一つにすぎないとケインは彼に伝える。


「まあ、そうだな」


それを聞いた彼は、想像以上のケインの愛情の重さを見た気がしたが、そこにとりあえず蓋をすることにした。

そして、クリスがもらしていた、二人のこじらせた結果というのは、エレナの勘違いより、ケインのこういった行動が起因しているようだと、改めて認識することになるのだった。

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