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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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体力測定の結果

体力測定を終えてから数日後。

エレナのもとに騎士団長から測定結果についての説明と、新しい訓練を伝えたいという手紙が届いた。

それから騎士団長と何度か手紙でやり取りをして訓練に行く日程が決まると、エレナは前回もらった訓練着を準備したりしながら、その日が来るのを待ちわびていた。

今回の訓練からは、前回持っていかなかった大判のハンカチも持っていこうと決めている。

今回はできたものの中から訓練服に近い色の刺繍糸を使ったものを選んだが、何度もこの服を着ることになるのなら、訓練専用のものを刺繍しようと真剣だ。

実は、前回の体力測定では、髪を二つに結いて訓練に参加したが、普段慣れない髪型のせいかなんとなく違和感を覚えていた。

確かに二つ結びであれば腹筋の時など、頭を地面に着ける際、障害にならないのだが、体を動かすと必要以上に顔の前に髪が来るので気になったのだ。

そして考えている時にお茶会での会話を思い出したのだ。

彼女たちの中に勉強をする時、試験のお守りに使っているという人がいたことを。

そこで試しにいつも通り三角に二つ折りにしたハンカチで髪をまとめて、ベッドの上で腹筋してみると、ちょうど首の後ろに結び目が来るので障害がないということがわかったのだ。

ゆるく縛っているとすり抜けて取れてしまうが、きつく縛ってあれば何度も落としてしまうようなことはなさそうだし、髪に跡が残らないのも魅力的だ。

もし訓練に支障が出たり規則で禁止しているようなら騎士団長が止めるだろう。



こうして迎えた当日、訓練服を着て上に羽織ものをし、帰りの着替えとハンカチを持ってエレナは訓練場に向かった。

訓練場の前までくると、騎士団長がエレナを待っているのが見えた。


「お待ちしておりました、エレナ様」


エレナの姿を確認した騎士団長がそう言って頭を下げる。


「騎士団長、わざわざこんなところまで出迎えありがとう。訓練場の中のことも少し覚えたから、場所を言われたら行けると思うのだけれど……」

「いいえ、護衛一人に任せてエレナ様に訓練場の中を歩かせるなどできません」


エレナは思わず護衛騎士を見上げて首を傾げた。


「そうなの?」


騎士団長が護衛騎士を鋭い目つきで見ている。


「……そうですね。見つかったら囲まれそうですね……」


曖昧な答えだが、騎士団長は納得したのか視線を護衛騎士から再びエレナに戻す。


「そういうわけです。エレナ様、立ち話もなんですから、中でお話しましょう。まずはどのような進め方をするか説明をしますので、お部屋にご案内いたします」

「わかったわ……」



エレナが案内されたのは作戦会議などに使われる会議室の一つだった。

この区域ならばあまり一般の団員が近づくことはないと考えてのことである。


「ところで、さっきの話なのだけれど、騎士団長がいなければ囲まれないということ?囲まれないのはいいことなのかしら?」


王族の人間として視察の回数が少なく知名度の低いエレナとしては、認知される方が喜ばしいと考えている。


「……ここで騎士たちがエレナ様を見つけたら、訓練場が大騒ぎになります。護衛騎士以外の騎士は普段エレナ様に近づくことなどできませんから、この機会にと押し寄せてしまうでしょう。その時に彼一人では対処できないので私がいるというわけです」


確かに武器も力もそこまで強くない者を相手にするのと、騎士を相手にするのでは全然違う。

だが、別に彼らはエレナに攻撃を仕掛けてくるわけではないし、そこまで警戒しなければならないのだろうかと不思議に思う。


「護衛騎士一人で騎士団のたくさんの方を相手にするのは大変ね。でも襲われるわけではないのだし、私を見に来るくらいは構わないのだけれど……。視察の時はいつもそんな感じだもの。それにこれからは時々こちらに来ることになるのでしょう?そのうち珍しくもなくなるのではないかしら?」

「エレナ様、そんなに足繁く通われるのですか?」


思わず護衛騎士が尋ねると、エレナは考えて言った。


「わからないわ。でももしこれから何か武器を使うようなことを学ぶのなら必要なのかと思ったの。練習とはいえ、さすがに部屋で武器を振り回すわけにはいかないでしょう?」


付き添いの近衛騎士も、騎士団長も思わず苦笑いを浮かべていた。

エレナのやる気に気圧されたのだ。


「かしこまりました。いつものトレーニングは続けていただきたいので、お部屋ではそちらを。訓練場にお越しになる時は武器を使う訓練をするということでお願いできますか。さすがにエレナ様が部屋でナイフを振り回したり、四方八方に弓を射ったりするようなことになっては、ご乱心されたのかと思われてしまいます」

「ええ、わかっているわ。だから通うつもりよ。騎士団長、もしかして私はナイフと弓の使い方を教えてもらえるの?」


騎士団長の最後の言葉に思わずエレナは反応した。


「はい。そのつもりです。いっぺんにではありませんが……。測定の結果と、ブレンダにも話を聞いて、エレナ様ならナイフと小型の弓なら使えるのではないかという判断をいたしました」

「まあ、やっと訓練への第一歩を歩きだせるのね!」


エレナが目を輝かせていると、騎士団長は気まずそうに切り出した。


「念のため確認です。エレナ様は調理場で動物をさばいたりなさったと伺いましたが、刃物は怖くありませんか?」

「刃物自体は怖くないわ。形ある動物をさばくのはちょっと苦しいけれど、野菜を切ったりするのに包丁は使っているのよ?」

「ちなみに弓を使ったことはないということですが、先の尖ったものが苦手というのは……」

「特にないけれど……」


エレナの回答に騎士団長は胸をなでおろして言った。

家事をする女性ならばエレナの言ったように包丁などを使うので、刃物に抵抗のない者が多い。

しかし、エレナは本来であればそのようなことをする立場の人間ではなく、ブレンダから肉をさばいたらしいが薄く肉を剥いだところで具合が悪くなったと聞いている。

そういう経験をすると、しばらく包丁が握れなくなる女性もいる。

また、先の尖ったものは見るのも怖いという人がいるという話もある。

ナイフも剣も鋭利な刃物だし、矢の先にも先端の尖ったものが付いている。

貴婦人の中にはそれらを見ただけで倒れてしまうものもいるというので心配したのだが、それは杞憂で、エレナはそれらを躊躇うことなく使うことができそうだ。


「かしこまりました。では今日はせっかく着替えもしていらしてますし、最初に弓の使い方をお教えしましょう。実際に矢を射るのは数本で、まずは弓というものに触れてもらうのがいいでしょう。それから少し休憩をして、ナイフについてのご説明をして本日は終了します。実際に道具に触れて基礎訓練をしてきた意味をご理解いただければ、本日は充分でございます」

「そうね。私も今までやってきたことがどのように役立つのか、その動作ができるという測定だけではなくて、実技にどう活かされるのか知りたいわ」

「大変前向きで、本当に皆にはエレナ様を見習ってほしいと思います……」


その言葉を聞いて、近衛騎士は思わず騎士団長から目を逸らすのだった。

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