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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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破談報告

合同での報告を終えて客室に戻った彼らだったが、すぐに一部屋に集まった。


「あそこで出した以外の報告はあるか」


全員が集まったところで、皇太子殿下がそう口にすると、先ほど報告に参加していた者たちは揃って首を横に振った。


「いいえ。さすがにずっと一緒に行動しておりましたので、伏せていることはありませんし、過不足もございません」


エレナの護衛騎士の行動には気付いていなかった事もあり、申し出を聞いて驚いたが、彼も自分たちに隠して何かするつもりがなかったことは理解している。

何より本日一番の目的である現物の入手は叶ったので、これからは心置きなく聞き込みに回れるのだから、情報収集についてはこれからが本番だと意気込む。


「それもそうだな」


四六時中一緒にいて、隠せるようなものなど、あっても微々たるものだろう。

殿下がため息をつくと、一人が尋ねた。


「それより、ご自身で確認されなくてよかったのですか」


いつもだったら率先して自分の目で見に行くだろう。

それこそ、エレナ殿下にくっついて孤児院に足を運んだ時のように、また騎士服を借りて紛れるくらいすると思っていたのだが、今回は珍しく自分はここに残るのでその分しっかり調査をしてほしいと言われたのだ。

それが殿下らしくないと思っていたので、ため息をつくくらいだからやはり本人が同行したかったのではないかと考えたのだ。


「ああ。それについては、ちょっとこっちで所用があったのでな」


殿下が別件があったので残ったのだと伝えると、彼らは顔を見合わせた。

残るというのは疲れもあって休むものとばかり思っていたため、他に用事があるとは思っていなかったからだ。

そしてその用事に残念ながら同行者はいないため、自分たちが目を話している間に何があったのか知る術がない。


「所用、そのようなものは我々に任せていただければ」


誰か残しておけばよかったと口惜しそうに言われたが、殿下はそれを狙って彼らを調査に行かせたのだから、当然最初から伝えるつもりはなかった。

そして予め用意していた嘘ではない言い訳をここで使う。


「いや、さすがに代理を出すわけにはいかない。クリス殿下との対談だからな」


その言葉を聞いた彼らは揃って目を見開いた。

いよいよ話が進むのかと期待をした目を向けて前のめりになっている者もいる。


「では、エレナ殿下との話はまとまったのですか」


そんな期待を込めた発言に対し殿下はあっさりとそれを否定した。


「いや、破談だ」


その言葉を受け入れられず、聞いた彼らはあっけに取られていた。

しかし我に返った側近が慌てて飛び出していこうとする。


「なんと!今からでも遅くはありません。何とか手を打ちましょう!」


言葉と同時に動こうとした側近に気付いた殿下はすぐにそれを制した。


「気持ちはありがたいが、その必要はない。最初から強制するつもりはなかったのだからな」


確かに今回の噂があって、もし本人がその気ならばと考えなくはなかった。

元々一度はあっさり断られている。

けれど心変りがあったかもしれないと、それを確認をする意味もあって、この件に乗じて再度申し込みをしてみることにしただけなのだ。

ただ、噂の背景もある程度見当がついていた。

だからこそ、本人から直接話を聞きたかったのだ。

ここにいる者たちの期待や、自国の利益、クリスの意見など、それらに忖度しない、エレナの本心を知るために、できる限りその環境と整えようと考えていた。

一番大きいのは、期待を押し付けてくるであろう自分たちの部下だったので、この件を理由に、彼らをエレナの周囲から遠ざけた上で挑むことができたのはよかったと個人的には思っている。

本心を知った経緯を考えると、結果的にその必要はなかったかもしれないが、あの場面においても自分以外の者がいたら、エレナが希望しない方向に話が流れた可能性は大きい。

実際、そこに自分たちがいなくてもエレナは自国のために自分を押し殺そうとしていたのだ。

それどころか自分がエレナに正直になるよう諌める立場になったのだ。

あれを見たらここにいる者達は、エレナにだけではなく自分にも考え直すようにと、大合唱したに違いない。


「ですが!」

「食糧の援助件に加えて今回の件も協力をもらっている。エレナ殿下はこの国に必要不可欠な存在ということだ。これから多くの国が彼女を狙ってくるだろうが、エレナ殿下を傾国の王女にするつもりはないし、この件で良好な関係を壊すつもりはない」


だから噂について、婚約というのは過剰反応だが、仲が良いという部分を否定する考えはないと伝える。

けれどそれに対して、彼らからは不満の声が上がった。


「あれだけ他国からも両者の関係がよいと声が上がっているのに、このような形になるなど不本意ではありませんか。せっかくの良いお相手ですよ。それに、その気があるからこそ、あの噂ではないのですか」


あの噂を流したのはおそらくこの国であり、そうでなかったとしても否定しないのは、その噂をうまく利用しようと考えていたからだ。

利用した側には得るものはあるけれど、利用された側には何のメリットはない。

それどころか、小国に大国が利用されたとあっては醜聞になりかねないし、こちらのプライドが許さない。

せめて利用した分くらい、とり返してもいいのではないか。

黙って損をするのを見過ごすのはどうなのか。

言葉にしないものも同じことを思っているのか、一様に表情は険しい。


「話してみたところ、やはり本人にその気はなかったぞ。私からすれば思った通りではあったが、あれはクリス殿下がリスクを承知で国を守るために敷いた撒き餌の一つで間違いないだろう」


報告をしてきたのだから当然知っていたよなと言わんばかりに殿下は告げる。

当然利用されるだけになる可能性だって考えていなかった訳ではないのだ。


「そうかもしれませんが、それではこちらに得るものがないではありませんか」


おそらくそうだろうということは前々から理解していた。

ただ、実際にそうであると、改めて言われると納得いかない。

こちらもエレナ獲得に噂を利用できると考えていたから放置していたのに、まさかそれを本人が破談にするとは思っていなかった。


「偶然とはいえ、食糧難になった理由に関して大きな手掛かりを得ただろう。欲を出しても仕方がない。それにこの件に関してはしばらく協力を仰ぐことになる。これからも長く付き合っていくことになるんだから、仕掛けることは控えてくれ。これ以上は恩を仇で返すのと同義だ」


滞在期間中、少なくともここにいるメンバーはこの国の騎士と行動を共にし、情報収集を行う。

そして、滞在終了までに終えなかった部分は、調査依頼をこちらの国に打診し、動いてもらうことになるのだ。

とにかくトラブルを起こすことなく過ごしてほしい。

彼らに様子に、殿下は明日から自分も同行するべきかと考え込むのだった。

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