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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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初日の調査と合同報告会

クリスが使いを出すと、ほどなく調査から戻った者達は応接室に集まった。

休憩してからという言葉はあったものの、それなら報告を済ませてゆっくりした方がいい。

それは双方、どちらの調査メンバーも同じだった。

そうして声がかかってすぐ、召集に応じた調査メンバーは顔を見合せながら、どういう行動をしたのか、そこでどういう情報を得たのか、ということを交互に話しだした。

こうなることを予想していたわけではないが、調査の間、それなりに交流ができたのか、どちらのトップも指示を出していないのに流れが非常にスムーズだった。



案の定、メンバーは本日の調査において、あまり良い情報を仕入れることはできていなかった。

移動時間が長く、聞き込みをするには時間が短かったためだ。

それに加えて、証拠品を押さえるため、市場でパンを買ったり、孤児院に立ち寄って話を聞きつつ、目的の米を譲ってもらうのに時間を費やし たのだからなおのことだ。

報告の内容から、収穫の少なさにもどかしさを覚えているのではないかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

彼らからすれば現物を手にすることができたこと自体が大きな収穫だという。


「彼らの同行と交渉のおかげで、円滑に米を分けていただくことができました」


そう言って、皇太子側の一人がテーブルの上に両手に収まるほどの大きさの袋を置く。

その量を見たエレナはこれならばと小さく安堵した様子を見せた。

それが孤児院の食糧庫にある米のうちのごく一部であることがわかったからだ。 いくらパンと交換とはいえ、食べ方のわかった米をたくさん持ちだされたら、割に合わない。

しかし貴族や他国の要人に逆らうことなどできないのだから、もし請われたら、彼らは自分たちの身を守るためにそれを差し出すしかない。

もしそのようなことがあったなら、こちらから何かお詫びをしなければならなかっただろう。



そして同行者に加わっていた一人は、エレナの護衛騎士として毎回孤児院に出向いている人物だった。 てっきり休みなのだろうと思っていたのだが、今回の件で外していたようで、明日以降も調査が続行されるのなら、きっと彼も同行継続になる。

もともと機転の利く人物だし、孤児院については彼の貢献が大きかったことだろう。

エレナがそんなことを考えている間に、テーブルに置かれた袋を、殿下はその場で開封した。

そしてその中にある米を手に取ると、その感触や見た目を確認する。


「いかがですか?」

「ああ、感じは以前見せてもらったのと同じもののようだな。それでお前たちはこれを見てどう思った?」


袋に入った米を手に乗せて、それを袋にさらさらと落としながら顔を上げた殿下がそう言うと、彼らの表情は険しくなった。


「殿下の見立て通り、これは古米と思います。使わなかったというだけあって、ほとんど開けていないのが功を奏したのか、それとも偶然かは分かりませんが、保存状況は悪くなかったと思います。それでなおこの感じですから、乾燥具合から見ても、収集を呼び掛けていた時期に出回っていたものと推測されます」


小麦と同じように、冷暗所と呼ぶに近い環境である食料庫にしっかり口の閉まった状態で置かれていた。

それは今回のメンバーも殿下本人も確認している。

食糧収集を呼び掛けていた時期は短くないので、専門家でなくとも米の保管状況や状態から簡単に推測ができるようだ。

小麦を見せられてすぐに同じ予測を立てることはできないが、米は違うらしい。

米について詳しいわけではないので意見を出す事もできない。

そのためクリスたちは、彼らの会話を黙って聞いていた。


「一応、複数の袋があるというので、前とは違う袋のものをとお願いしたのです。別の袋があると彼が聞き出してくれまして、そちらのものを交换対象としました」

「それはありがたい」


殿下も米の専門家ではない。

けれどその見た目が同じなので、同時期に収穫されたものと見て間違いないだろう。



少し蚊帳の外になってきていたところで、ケインの同僚である騎士が会話に割って入った。


「あの、前の、殿下がご覧になった袋の方からも、少し分けてもらっておりますが必要でしょうか?」


前の者と聞いて彼がそう申し出ると、同行していた調査メンバーらは顔を見合わせた。


「そうなのか?」


殿下が尋ねると、彼は先にそれを肯定してから説明する。


「実は孤児院で話を聞いている過程で、彼らが中身を確認するため、一度は両方開けたと言ったのです。小麦のようなものと聞いていたのに全然違うもので、それが一つなら単に間違えたのかもしれないと思ってもう一つを開けたけれど、袋の中身が両方とも同じものだったため……、貴国に対して言葉はよくありませんが、 がっかりしたのだと。なので少なくとも袋が二つあることが分かっていたのです。そして移動中、貴国の騎士の方に米には種類があると説明を受けたので、念のため両方とも見せてほしいとお願いしたのです」


そう言うと彼はポケットから包み状になっているハンカチを出した。

袋がなかったのでハンカチの対角線の端を結んで包みにしたらしい。

開けるのに失敗したら飛び散ってしまうからと、彼はテーブルにハンカチを置いて、結び目を解いた。


「見た目を比較できる程度の量になりますが、こちらが以前の袋のものです。最初にエレナ様が調理に使ったもの、殿下が確認した袋からも少しほしいと伝えて、この量を見せた上で持ち出しました。量は少ないですし、正直私には区別できませんが、そちらの袋の中身と見た目の比較には使えるのではないかと。孤児院の許可は得ておりますが、皆さまがこちらの袋に必要なものを移し替えている間に、勝手をしました。お役に立つでしょうか?」


広げられたハンカチには、勝手掌に乗せても余裕のある程度、気持ち程度の米が乗っている。

それを彼の国の者が交互に見る。

そしてやはり、時期は同じだという判断に至った。


「確認だが、これは私が見せてもらった袋のものということだな。比較に使うためにも、こうして別にしておいてもらったのはありがたい。こちらはもらっていいのか?」


孤児院から持ち出すことは独断でできたとしても、他国に持ち出すことを許可する権限はない。

殿下の言葉を受けて、彼がクリスを見るとクリスは彼に微笑みかけてから、殿下に返事をした。


「もちろん構いません。解決のためにお役立てください」

「感謝する」


殿下がそう口にすると、騎士たちが失礼と言いながら、彼の持ってきた米をハンカチごと回収し、米の袋を閉じた。

せっかくの証拠品を失くすわけにはいかない。

彼らはそれらをさらに袋に入れると、こぼれ落ちぬようしっかりと口を閉めて片付ける。



それからも細々と状況の説明が続いた後、初日の調査報告は無事に終了した。

さすがにクリスと殿下、そしてエレナもこの場でこれ以上話すことはないので、場ごと散会を決めた。

ゲストである皇太子殿下は報告に来た者たちと共に客室に戻っていき、エレナはケインたちに連れられて退出、クリスも片づけを命じた後、 残った仕事を片付けるため執務室へと向かったのだった。

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