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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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ささやかな足止め

ケインにエレナを託して二人から離れたクリスは、その足で皇太子殿下の客室に向かっていた。

先触れを出して準備ができていると出てこられても困るので、あえてそれはせず、到着したらうまく話を切り出して足止めをし、エレナたちが話をする時間を少しでも稼ぐのが目的だ。

客室の前には護衛が配置通りに立っている。

つまり彼はまだ部屋にいるということだ。

その事に安堵しながら、護衛にねぎらいの言葉をかけてから、クリスは皇太子殿下の部屋のドアをノックした。

すると、返事もなく、すぐにドアが開く。


「あの、少しよろしいですか?」


ドアを開けた際見える位置に立ちながらも距離をとった場所に立ったクリスが、小首を傾げながら言うと、彼は笑いながら言った。


「おお、珍しいこともあるものだな。クリス殿下からこちらに訪ねてくるなど」


そう言いながら笑っている彼は、クリスが早々にここに来た理由を考える。

会わせたくないのだから会わせないように、それができないなら、自分が部屋から出ていく前から監視するのが目的だろうと当たりをつけている。

クリスは彼の言葉を受けて、聞こえるようにため息を漏らした。


「それはあなたが勝手に外に出て、こちらにやってくるからでしょう。わかっていればいつでもこちらから伺いますよ。それより相手を確認しないで、しかもご自身でドアを開けるなんて不用心ではありませんか?」


彼は護衛の制止を無視して、自由に動き回ろうとする。

さすがに警備の厳しいところに押し入ってくるようなことはしないが、普段貴族たちが歩いているようなところは堂々と歩きまわる。

その過程でクリスの執務室を把握しているため、客室から気が向くとやってきてしまうのだ。

ちなみにエレナが庭でこっそり訓練をしていたのを見なければ、庭の散策などはあまりしない。

植物を美しいとは思うが、見るだけで満足できる。

うっそうとした自然の中を歩き回ることが多かっただけに、あえてそのようなものを求めたりはしないのだ。


「外の話し声が聞こえていたからな、誰が来たかは分かっていた」


クリスが来たことは護衛をねぎらっている声が聞こえていたので、その時点で把握していたという。

そして外でトラブルが起きていない事もその時点で認識していたのでドアを開けたらしい。

戦争という場面を幾度となく経験しているからこその自信がある。

戦争ならその判断を間違えれば死に直結するからだ。

そう言われてしまってはクリスは強く言うことができない。


「そうですか」


未知の戦争というものについて、話を膨らませるのは難しい。

この話を引き延ばそうとしても難しいだろう。

クリスがどうするか考えていると、殿下は早速本題を振ってきた。


「それでクリス殿下が来たということはエレナ殿下と話ができるということでいいのだな」

「そうですね。エレナに話をしてきました。側近の方がいないほうがいいと言うことだったでしょう?」


部屋の中はよく見えないが、どうやら彼は部屋に一人でいたらしい。

少なくとも見える位置に護衛はいないし、出かけた側近たちが戻った様子もない。

自分の身は自分で守れるということだけれど、何かあってこちらの有責になるのは困るので、こちらの護衛は付けておかなければと再認識する。


「こちらとしていいてもいなくても変わらんが、いたらこちらに加勢するだろう。そうなれば、エレナ殿下を外に出したくないクリス殿下にも不利になろう」


エレナが何を考えているか分からないが、今までの流れから少なくともクリスがエレナを外に出したくないと考えていることは分かっている。

確かにこれまでの功績を考えれば、今より知見を広めた時、より多くのアイデアを生み出す可能性がある。

それが国益となるのだろうから、手元に置いておきたいのもうなずける。

そして何より、クリスは妹としてのエレナが可愛くて仕方がない様子だ。

クリスは婚約したが、そのご令嬢にエレナが懐いていたので、きっと今のままでも良好な関係が維持できる。

それならばエレナを手放す理由がない。

そういうことだろうと彼は推測していた。


「そういうお気遣いですか。それなら最初からあのような申し出をしないでいただいた方がありがたかったのですけれど」


クリスが頬に手を当ててため息交じりにそう言うと、彼はクリスを見下ろすと、廊下であることを配慮しながら声を落として言った。


「それではそちらの計画は失敗だろう?」

「全てご存知ということですか」


クリスが引くことなく彼を見上げて確認すると、彼は動じることなく返す。


「全てではない。察している程度だ。おそらく正解を持っていると思うがな」

「そうなのですね」


やはり全容が知られていると思って間違いないようだ。

クリスが諦めのため息をつく。

手玉に取ろうとは思っていなかったけれど、利用しようとしたのは間違いない。

ただ、それを持ちだされても、エレナとケインの関係だけは、大事な二人だけは守ろうとクリスはどうするか考えを巡らせる。


「あれについてはそのままでも構わない。あのくらいでこっちは動じないし、そもそも損はない。ただ周囲がずいぶんと舞い上がってしまったがな。それにこちらとつながっているから、あっちもこちらがより多くの情報を持っていることを警戒しているのか、大人しくしてくれているからな。違うとわかったら動くだろうが」

「そうですね」


彼の国でエレナの人気が上がっていることはクリスも把握していた。

ようやく我が国の皇太子に釣り合う女性を見つけた、春が来ると。

当然彼の国における情報源は、エレナと対面した側近たちで、だからこそかつてない盛り上がりをみせているのだ。


「こちらはどちらでも良いのだ。ただ、エレナ殿下に話を聞く用意があるというだけだからな。強制はしていないつもりだが」

「ええ」


クリスが相槌を打つと、早速動きだそうと彼は続けた。


「残りの時間がどの程度になるかわからん。話が通っているのならそこに行くことにしようではないか」

「そうですね」


クリスが表情を曇らせると、それを見た皇太子はそれを笑い飛ばす。


「そう嫌な顔をされると、流石に傷つくんだが、早く決着をつけた方が、落ち着いて過ごすことができるだろう」

「わかりました。エレナには応接室に移動するよう話してありますので、面会はそちらで。私も同席します」


当然、二人にはさせない。

クリスが言うと、この国の文化を考えれば、相手がエレナでなくとも当然だと了承する。


「ああ、同席は構わないぞ、やましいことは何もないのだからな」


そう言うと、彼は部屋の戸締りをして出てきたままの姿で歩きだした。

こうなると止められないのは分かっている。

クリスは諦めて彼と並んで歩きながら、応接室への案内をすることになるのだった。


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