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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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適任者

エレナを見送ったクリスは、すぐに騎士団長を呼んだ。

そして彼の国がこの国で調査を行いたいと申し出て来ていると伝える。


「クリス様、彼の国の調査に同行する騎士をというのは?」


今まで別行動をして勝手に動いていた騎士たちがいる事を把握している騎士団長は、今さらと思っているのか、胡散臭い話を聞くように渋い表情を見せた。


「そうだね、まず事情を説明するよ」


少しは耳に入っているだろうと思ってさすがに内容を省略しすぎたと、クリスが彼らの申し出と、エレナの話から総合して考えた結果、彼らに同行させる適任者を探す必要があると言うと、騎士団長はようやく納得がいったと返事をする。


「なるほど。そうなりますと通任者の選抜がなかなか難しいですね。まず、彼の国の騎士たちとそこそこ交流できる怯えない人物で、農家の人間にも距離を置かれない、かつ、案内もできる人物となりますと……」


騎士団長は頭の中に一覧を思い浮かべながら適任者を探すが、すぐに該当する者には行き当たらない。


「そこまでできる人物ならとっくに昇格して、それこそそこそこの地位にいるよね。いっそ騎士団長自らでもいいけど」

「私がですか?」


クリスがニッコリと微笑みながら伝えると、騎士団長は眉をひそめた。


「他にいないでしょう?」


そう言ってクリスは畳み掛けようとする。

クリスが信頼でき、的確な対処も可能、必要な情報を持ち帰れる。

一番の適任は騎士団長だ。

しかし当の騎士団長は首を立てには振らなかった。


「確かに、調査が一日で終わるというのならそれでも構いませんが……」


調査というのがどの規模で、どの程度の時間を想定しているものか分からない。

滞在の延長申請はないので最長でも今回の滞在期間内と想定して入るけれど、王族の誰かが一緒ならいざ知らず、客人である彼らのために自分が長く本来の護衛対象から離れるのは不本意だ。

何より執務が溜まる。

確かに良い経験にはなるだろうが、彼ら相手に気を使うのはあまり望ましくない。

騎士団長が渋って見せると、クリスも一日で終了することは約束できないと伝えた。


「それは彼らの欲しい情報を手早く提供できるかにかかってると思う。それと拠点はあくまでこことして、外泊は拒否する方向で話を進めたいと思ってる。一番調査に長けてるのはおそらくブレンダなんだけど、今は護衛される側になったわけだし、さすがに男所帯の中に女性騎士を入れるわけにはいかないでしょう」


ブレンダの今の地位は皇太子の婚約者。

もうすぐ王族して名を連ねる予定の者だ。

好奇心旺盛なブレンダのことだから、この話を振れば喜んで引き受けるだろうが、今の立場で彼女に任せるわけにはいかない。

それは女性騎士が行動を共にするとしても、同じことだ。


「そうですね。ですが一度プレンダ様に話してみるのはいかがでしょうか。適任者や後継者でめぼしい人物がいないかを確認するという形でなら伝える事もできるでしょう」


元々クリスの護衛騎士であり、この話を知っても問題ない人物だ。

今の地位になら、権利として知ることも許されるだろう。


「そうだね。皇太子妃教育から抜けられるし、こういう話の方が好きそうだから、息抜きに呼んでみようか」


頬に手を当ててため息をつくクリスに、騎士団長は苦言を呈する。


「クリス様、一応緊急事態ですが……」

「だから呼び出せるんだよ」


クリスはそう言うと渋い表情の騎士団長を介して、ブレンダを呼ぶよう人に言いつけるのだった。


「クリス様、お呼びと伺いました」


緊急と言われたブレンダは、王妃と対面しているところだったらしく、着飾ったドレス姿で執務室にやってきた。

そんな服装であっても騎士団時代からの習性からか、息は上がっていないようだが走っていたらしく、足元に少し乱れが感じられる。


「プレンダは今日も王妃から教育を受けてたの?」


おっとりといつも道理の口調で質問を投げてくるクリスに、とりあえずブレンダは答えた。


「そうですね。教育と言いますか、お茶会みたいなものでしょうか。エレナ様と違って、言葉遣いや所作が足りないようで、会話の訓練をされておりました」


言葉も所作もまとめて治す必要がある。

所作を見るのだから当然相応の服装でなければ。

そんな事情でこのような姿だとブレンダが言うと、クリスは呼び出しが想定通り助け船の役目を果たしたようだと微笑んだ。


「そうなんだね。実はちょっと緊急事態でね、確認というか、相談したいことがあって」

「何でしょう?」


和やかな雰囲気が変わったこともあり、ブレンダは気を引き締める。


「ブレンダから見て、騎士の中で、調査同行に適任だと思う騎士っている?」

「それはどういう調査かによるのではないでしょうか?」


突然調査の適任者と言われても、すべての調査に長けている者はそういない。

大体の者は得意分野を持っている。

何より質問の意図も背景もわからないのでは、最適解を出すことは困難だ。

ブレンダが暗にそう伝えると、クリスは自分の思いつく条件をブレンダに伝えた。


「条件は三つ。調査対象が農家というか市民だから彼らとうまく話ができる、国内の地理にそこそこ詳しい、彼の国の人間に耐性がある。できれば男性で推薦してほしい」


彼の国の人間が我が国の農家に話を聞きたいということらしい。

理由はわからないが、条件からそれを読み取ったブレンダが確認のために口を開く。


「彼の国の調査の同行要因ということでよろしいですか?」

「そう」


ブレンダは少し考えて、すぐに思い当たったことを述べた。


「そうなりますと私が思う限り、エレナ様の護衛騎士のメンバーが一番条件に近いかと思いますが」

「エレナの護衛騎士?」


個人名ではなく、彼らと大雑把に括られた答えに、クリスがその意図を問うと、ブレンダは、あの中のメンバーほぼ全員が該当するのではないかと言う。


「ええ。孤児院で子供たちと触れ合うことに問題がない、すなわち同じ平民である農民と話しても問題ない、優秀な頭脳を持っている、孤児院に彼の国の皇太子殿下と同行して問題なく過ごせた、もしくはエレナ様と行動しているため、皇太子殿下やその護衛たちに対面したが怯むことはなかった、という条件を兼ね備えております。彼らの中からお選びになればよいのではないかと。ただ、彼らがどの程度調査に長けているかはご一緒していないのでわかりかねます」


さすがにブレンダも元同僚であるクリスの護衛騎士の能力すべてを知るわけではない。

それに関してクリスは同意する。


「言われてみればそうだね。彼の国の皇太子殿下と孤児院に同行して怯えて動けないとか、そういうことがなかったのなら、その下についている人に怯えることもないか。それにエレナの護衛は基本的に優秀な人材を当ててるから、新人二人はともかく、ベテランはそれなりに能力が高い。それは保証できる」


クリスが納得している様子にブレンダは満足そうだ。


「お役に立ちましたか」

「とても参考になったよ」


微笑みながらブレンダにそう言ったクリスは騎士団長を見た。

彼はそれを参考に思案するらしい。


「ちなみに何の調査の同行なのでしょう?私にも教えていただけないでしょうか」


もっともな意見だと騎士団長はヒントをくれたブレンダをそれとなく養護する。


「ブレンダ様なら詳細をお伝えすればよろしいのではありませんか?」


騎士団長の意見を受けたクリスはもとよりそのつもりだったと、ブレンダにことのあらましを伝える。

単なる彼らの道楽かと思いきや、話を聞いてことの大きさに思わず目を泳がせたが、同時に、それならばなおのこと優秀な彼らがいいだろうと、自分の答えに間違いのないことに安堵する。


「そういうことですか。それならなおさら孤児院のメンバーがいいでしょう。本人が孤児院で見て気になったとでも何とでも言えますし」

「さすがプレンダだね」


クリスがブレンダにそう言うと、ブレンダは俯瞰してみられましたからと笑う。


「この件に関しては離れて見ている人間ですから、そういうところが見えることもあるのでしょう。当事者となると、かえってわからないものですよ」


ブレンダの助言をもとに、騎士団を交えて話は進んだ。

そして翌日、顔合わせとともに、彼らは出発することになるのだった。


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