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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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体力測定

ケインとクリスは学校を卒業、ケインは寮に引っ越して、騎士学校に入学した。

クリスは専用の執務室を与えられ、執務の時はその部屋を使うようにと命じられた。

執務を本格的に始めると、人の出入りが増えるため、私室を使うのは良くないためだ。


「またいつかお会いできるのを楽しみにしているわ」


その挨拶以来、エレナとケインは顔を合わせることのないまま、しばらく会うことのできない生活を始めることになった。



二人に大きなイベントがあろうが、エレナには関係ない。

そのため、特に変わることのない生活を続けていた。

そして周囲が入学や就職にと慌ただしく過ごしている時、いつも通りのことをしているエレナの元に手紙が届いた。


「エレナ様、騎士団長から預かったのですが……」

「まあ、ありがとう。何かしら?」


交代の近衛騎士に騎士団長が手紙をもたせたらしい。

エレナは手紙を受け取ると、中を確認した。

一通り読み終えると、エレナは手紙を持ったまま、無言ですくっと立ち上がった。


「エ、エレナ様、どうされましたか?」

「ちょっと急ぎで準備が必要なものができたわ。どうしようかしら……」

「どのようなものでしょうか?」

「騎士団長から足の見えない、動きやすい服を用意するようにっていう手紙なの。ブレンダならわかるんでしょうけれど……」


ブレンダの名前が出たため、侍女がエレナに声をかける。


「呼んでまいりましょうか?」

「その必要はないわ」


エレナは部屋を出ようとする侍女を止めると、手紙を持ってきた近衛騎士に言った。


「後で騎士団長に確認してみようと思うの。次の交代の時にお手紙を届けてもらえるかしら?」

「かしこまりました」


こうしてエレナは手紙を預かった近衛騎士が交代するまでに返事を書き終えると、彼にそれを託すのだった。



「エレナ様、騎士団長からこのようなものが届いたのですが……」


手紙を渡すよう依頼してから何度目かの交代に来た近衛騎士が、畳まれた服を持ってエレナのもとに現れた。

どうやら手紙を見た騎士団長が、新人騎士の分として多めに手配していた服を持たせてくれたらしい。


「これは、訓練着かしら?」


受け取った服を物珍しそうに眺めながらエレナが首を傾げていると、近衛騎士は不思議そうに聞いた。


「エレナ様、そちらは何かに使われるのですか?」

「ええ。今度、騎士団に新しい方たちが入団するでしょう?そこに私も行くのだけれど、その時に動きやすい服と言われたの。それで、どんなものがいいのかを騎士団長に相談したのよ」

「それで、これですか……」


思わず苦笑いを浮かべた近衛騎士にエレナはキョトンとしている。


「これには何かあるの?」


エレナが尋ねると、その笑みを消して表情を固くした。


「これを見ると悪夢のような訓練や体力測定を思い出すものですから……」

「そう……。騎士の皆は体力測定というものが嫌いって聞いた気がするわ。これは当日にしか使わないからすぐにしまうわね」


エレナはそう言って服をしまいながら、心の中でその日が来るのを待ち遠しく思うのだった。



体力測定の当日、エレナは準備された訓練着の上に羽織りものをして会場となる訓練場に向かった。

幸い、両親にもクリスにも出会うことなく訓練場にたどり着いたエレナを、騎士団長やブレンダを始めとした多くの騎士が迎えた。


「エレナ様、お届けしたものをもう身につけていらっしゃいましたか」

「ええ。始める前の時間を着替えに使って、皆を待たせるわけにはいかないもの。ちゃんと準備をしてきたの。戻る時はさすがに普段着じゃないと不自由だから、更衣室を借りるつもりよ」

「では、早速会場へ」


新人騎士たちの準備は整っている。

時間を短縮するためにエレナが準備をしてきたこともあり、エレナと共に騎士団長とブレンダが会場に入ると、体力測定はすぐに開始された。



「今日の測定にはエレナ様が参加されます。より気を引き締めて取り組むように!」

「はっ!」

「手本担当前へ」

「はっ!」


はっきりと大きな声で返事をしたブレンダが前に出る。

そして、どのような動作をするのかを実際にやって見せた。

すると、皆がブレンダと同じ動作をするために体勢を整える。

エレナが見よう見まねで同じ体勢を作ると、騎士団長はそれを確認し説明を続けた。


「号令とともに皆には手本と同じ動作を行ってもらう。基本は反復動作だ。回数は記録係がつけているから動作に集中するように。なお反復動作は測定対象の残り一名が力尽きるまで行う。それでは用意……」


この言葉で緊張が走る。

次の言葉でいよいよ動き出さなければならない。

エレナも気を引き締めた。


「始め!」


こうして生地団長の号令で、新人騎士とエレナの体力測定は開始された。

エレナが毎日ベッドの上で行っていた腹筋や背筋だけではなく、反復横飛びなど新しいこともたくさん覚えなければならない。

しかしお手本として動作を見せるブレンダの動きを見ながら、エレナが同じように動き始めると、隣についている女性騎士が黙って記録を開始する。

新人騎士たちも同様で測定に集中しており、広い訓練場の中では号令と体を動かすことによって起こる衣擦れの音だけが響いていた。

皆、黙々と課題をこなしていくが、質問や雑談をする者はいない。

動作には慣れていても、新人騎士にとっては初めての訓練となるため緊張しているのもあるだろう。

色々な測定課題をこなし、最後は重さの違う剣を正しく振れるかどうか確認する課題になった。

無理に振り上げようとしてふらつき、さすがに周囲の騎士に止められてしまう。

結局剣を持ったことのないエレナは、一番軽い剣を振り上げることができなかった。

エレナにとってこの課題だけが心残りとなったが、それ以外はそれなりの結果を残せた。



こうしてエレナを交え行われた新人騎士たちの体力測定は無事に終了した。

最後の一人の測定が終わると、騎士団長の号令で全員が最初の位置に集合する。

エレナだけではなく、新人騎士たちもさすがに体力を消耗しているのか覇気がない。

エレナはすぐに脱落したが、騎士たちの中にはかなり重いものを使いこなせる者がいるようで、最後の測定がすぐに終わってしまったエレナは、少し休む時間を取ることができたが周囲はそうではない。

もし休憩できなかったら、立って集合場所に向かうことも難しかっただろう。

騎士の体力測定というのは過酷なものなのだなとエレナは思った。


「では、最後にエレナ様、本日はいかがでしたか?」


騎士団長から壇上に呼ばれたエレナは、乱れた息をすぐに整えると、騎士団長の横に立ち、新人騎士に向かって言った。


「今日はご一緒させていただいて、皆が普段どれだけ大変な訓練に耐えているのか、身を持って知ることができました。これだけの体力を身につけるのは、並大抵の努力ではなかったでしょう。そして私は皆に比べて努力がまだまだ足りないということがよくわかりましたし、新人の皆が高い能力を持った方が多いことがわかって誇らしく思います。よくこちらの騎士団を選んでくださいました。私は皆を歓迎いたします」


最後に笑顔を作るのを忘れない。

エレナの作った余裕の笑みに、騎士たちは思わず感嘆の声を上げ、自然と拍手が広がった。

しばらくして騎士団長がその拍手を止めて言った。


「皆、わかったな。エレナ様の誇りを汚さぬよう日々訓練を怠らぬように!」


騎士団長が壇上から声をかけると、皆が揃って敬礼した。

こうして騎士団の体力測定は無事に終了するのだった。

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