同行者の準備
そうして急遽同行者が増えることが決まって、周辺は慌ただしくなった。
お茶の席から先に離れたエレナは、部屋にこもって手紙を書き、孤児院に緊急の手紙を届けてほしいと使いを出した。
クリスたちはというと、まず彼のための騎士服を手配するため、騎士団長たちを部屋に呼んだ。
「お呼びでございますか」
クリスと皇太子殿下が解析中の中自分が呼ばれたことに驚いて駆けつけた騎士団長に、クリスはため息交じりに言った。
「うん。話の成り行きで、お客様がエレナと一緒に孤児院に視察に行くことになったんだけど、うちの騎士のフリをするって言うから、制服を貸与してほしいんだ。彼らのために予備の制服を持ってきてもらえないかな。それと、警備関係の話もしないといけない」
「かしこまりました」
クリスの言いたい事を理解した騎士団長は、笑いながらうなずきながらその様子を見守っている皇太子をちらっと見てから、一緒に来た騎士たちにありったけの予備の騎士服を持ってくるよう伝えた。
そして自分は残ってこれからの話をするためクリスの方に向き直る。
「他国の要人がご一緒ということは、警備の強化が必要ということですね。中につれていく人数は……」
彼がそこまで言うと、皇太子殿下が先に答えた。
「私の警護なら不要だぞ?」
彼が当たり前のように言うと、クリスはため息をつき、騎士団長も予想通りの答えだと首を縦に振った。
「そうおっしゃると思っておりました。そもそもお手を煩わせるようなことが起こらぬようにするのが我々の今回の役目です。そこはご理解いただきたく思います」
騎士団長がそう言うと彼は満足そうにうなずいた。
「それは仕方あるまい。言っておくが、希望はあくまで視察だ。それに必要な装備を整えたい。それが貴国の騎士服というのならそれで行くのが良いだろうと言うだけだ。こちらもできるなら普段通りの孤児院を見たいからな。繕って出迎えられるなど居心地が悪くてよくない」
「かしこまりました。サイズの事もございますので、既成の騎士服をいくつか持ってくるよう言いましたので、試着をなさってお決めください。殿下の警護の方も、中に入らないまでも、さすがに近隣まで行かない、目を離すということは難しいでしょう。彼らの分も用意させていただくということでよろしいでしょうか」
「ああ、手間をかけるな」
そんな話をしているとほどなく、騎士服を抱えた騎士たちが中に入ってきた。
「お持ちいたしました」
数人が上半身が服に埋もれそうな感じで制服を抱えている。
「そうか。ではそちらでサイズを見繕ってくれ、そちらの護衛の方々のもだ」
「は、はっ!」
まさか持ってきた自分たちが来客の皇太子殿下やその要人の相手をすることになるとは思わなかったのだろう。
驚いて返事の声がうわずっていたが、すぐに我に返ったのか、こんな機会は滅多にないと肝が据わったのか、制服の試着作業に取り掛かった。
「新しく入団した騎士たちの制服選びと同じようにやってくれ」
騎士団長はそう言うものの、彼らからすれば雲の上の人間だ。
対応することになった騎士たちは、後輩に接するような気さくな感じで話すことはできず、騎士団長の言葉に返事をしながらの丁寧な接客を心掛ける。
「あちらは彼らにやらせておきましょう。最近トラブルがないとはいえ、孤児院周辺の警備の強化は必要と考えます」
騎士団長は、自分が呼ばれた本来の目的について話を進めようとクリスに言うと、クリスもそれに同意する。
「そうだね。今回の話は彼らに共有していいかな?」
警備計画を伝えることが後にこちらの不利益になる可能性はある。
一応国内では機密事項だからだ。
「そうできるよう配置するつもりです。場合によっては一緒に行動していただくことになりますから、伝えておくべきでしょう」
「そうなんだ。じゃあ騎士団長の意見を教えてくれる?それから彼らに共有しよう」
警備強化の計画はそんなに難しくはなかった。
一時孤児院が危険になる可能性を考慮した時に考えたものを応用しただけだったからだ。
話し合いが終わるころ、制服の試着が終わったのか、見本の制服の上着を羽織ったまま皇太子が話し合いをしているところに寄って来た。
「後で確認はするが、聞こえていた限り問題はないだろう。そもそも女子どもが一人で歩けるくらい、この国の治安は良いのだからな」
その言葉を聞いたクリスと騎士団長は顔を見合わせた。
彼らの相手をしながら、こちらの話しもしっかり把握していたらしい。
そんなことがありながらも、客人たちの視察のための準備を無事にクリスたちは整えたのだった。




