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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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不要な獲物

その状況で皇太子殿下を迎えることになった当日。

エレナは朝から調理場にこもっていた。

当然、クリスに言われて彼に出すお菓子を作るためだ。

そしてお菓子作りが終わる前、クリスの知らされていた予定時刻に彼はやってきた。

そうなるよう調整したのは、クリスだけが彼と先に面会をするためだ。

その要求があったらすぐに応接室に案内し、クリスに連絡するよう言われていた執事たちは、すぐにそのように動いた。


「クリス殿下、久しいな!」


一度宿泊の部屋に来訪者たちを案内したが、彼は荷物を置くと疲れなど感じさせない様子でクリスの前に現れた。

連絡が来る前にクリスが応接室で待機できるよう計らったためだ。

クリスは彼に椅子を勧めると、自分はその向かいに座った。


「それにしても相変わらずですね。前にお会いしてからそんなに経っていないでしょう。それに到着したばかりなのに、休憩はよろしかったのですか?」


せっかちと言うべきなのか、彼はなかなかひとところに落ち着いていてはくれない。

もちろんクリスもそうなることは理解した上で、到着後休憩をするよう促しながらも、彼の面会に備えていた。

そのため、早い面会を求められても、焦ることは何一つなく、クリスは彼の対応に出向いたのだ。


「あれは会ったうちに入らないだろう」


形式的な挨拶しかしていないのだから、あんなものは会ったうちに入らないと彼は平然と答えた。

本人が例えそのように思っていても、当然、周囲がそうではない事を理解しての発言なのだが、一応クリスは小首を傾げて困ったように言う。


「そうなのですか?きちんとご挨拶もしましたよ?周囲には大変仲が良いと認識されるくらい目立っていらっしゃいましたし、あれを会っていないと認識する人はいらっしゃらないと思いますよ?」


クリスの言葉に動じる様子を見せず、堂々と彼は続ける。


「周囲がどう思っているかはあまり気にならないな。主役より目立ったことはあるまい」


彼の言葉をごまかすように、クリスは再度首を傾げる。


「どうでしょう?」


クリスの仕草に彼はため息をついた。

良くも悪くもその仕草をされるとクリスの感情が読みにくいからだ。


「まあ、そう邪険にしないでもらえるか。こういった会話ができるのは楽しいがな」


周辺諸国にはおそられているからか、媚びへつらう会話をしてくる者が多い。

それに対してクリスはそのような事をしない。

誰にでも対応は同じだし、こちらに臆する事もない。

彼からみればクリスはある種、本当の友と呼べる数少ない存在なのだ。


「楽しいのなら、それはなによりです」


クリスがそう答えると、彼はドアの方を見た。


「ところでエレナ殿下とは面会が叶うのか?」


誰も訪ねてくる様子がないことを気にして彼がそう口にすると、クリスは笑みを浮かべた。

「そうですね。その前にそちらの要件を伺っても?」

先に要件を言わなければ叶わないし、用件によっては拒否するつもりだ。

クリスがそう匂わせると、この状況を楽しむかのように彼は鼻で笑った。


「まあ、色々あるな。エレナ殿下まだ来ないのなら、例の話からしておこう」

「例の?」


クリスがとぼけて小首を傾げると、彼はニッと笑った。

それから周囲を見回して、自分の護衛たちに少し離れるように言う。

それを見たクリスは、多くの人に聞かれるのはよくない話をするつもりだと察し、多くの事情を知るもの以外を一旦退室させた。



「なかなか面白いやりくちで、自国の国防にこちらを利用してくれたと思ってな」


彼は第一声でそう言うと楽しそうに笑った。

目も口元も笑っているし怒っている様子がないところから見ると、その状況を楽しんでいるようだ。

つまり、向こうもあの噂を都合よく利用しようという腹積もりなのだろう。


「やはりそのお話でしたか」


クリスがため息をつくと、彼はまた鼻で笑う。


「当然だ。お披露目のあの程度でこんなに話が広がるわけがない。しかもあの場にいるはずのない商人から情報が入ってくるなど、まずありえないからな」


その噂、もとい情報が一報として入った際、国内は若干歓喜に包まれた。

噂とはいえ、かねてより殿下本人が是非にと所望した女性との関係が良好であるとされたのだ。

まだ婚約や結婚といった具体的な話は出ていないが、相手の違う類似の噂がないことから、現時点で他国からかなりリードしている状況に違いない。

しかも相手は小国とはいえ、食糧援助をしてくれた友好国の姫君だ。

相手にも不足はない。

彼は強さだけで上に立ち、国民から慕われているわけではないため、その噂は好意的に受け止められた。

そして彼の耳に商人から祝の言葉が届いたのだ。

その場は流したが、彼は違和感を覚えて出どころを探ることにした。

そのままうまく利用することも可能ではあったが、判断を誤れば足元をすくわれかねない。

デマである可能性があるからだ。

何より、エレナとの件は特に急ぎでまとめる話ではないし、出どころと、流された噂の意図や目的を調べてからでも遅くはない。

だったら調査してから食いついたフリをしておけばいいだろう。

そんな形で調査を進めてみれば、結果は意外なものだった。

こちらを貶めるためのものではなく、本当ならこちらに食いついてほしくない餌のようだと判明したのだ。

しかしこの餌には、自分ではなく国民が食いついてしまっている。

自国の民が、食いついてほしくないと考えている他国向けの餌に群がってしまうのは、こちらとしてもよろしくない。

そこでこの噂のあるうちに、エレナとの親交を深めるという大義名分を引っ提げてこの国を訪問することにした。

実際は、現状がクリスの計画の想定内であるのかを、友として心配し、確認しにきたのだ。

場合によっては助けるつもりでもあるが、まずはクリスの考えを知ってから札を並べるのがよいだろう。

彼はそう考えながらクリスに対峙していたのだ。


「そうですね……」


みなまで語らなくとも、およそ正しく状況を把握されていると悟ったクリスは、内容については肯定も否定もせず、彼の言葉に相槌を打った。

例の国に対して、牽制するのに貢献したが、案の定、こうして不要な獲物が釣れてしまったのだ。

言葉にせずとも負けを認めるしかない。

クリスは言葉を詰まらせたのだった。

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