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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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条件付の承諾

事情が複雑になりつつある中、とりあえずクリスはエレナと面会をそのまま受けることにした。

その方が周囲に変に勘繰られたりしないと考えたからだ。

何より、まだエレナに正式に何か言ってきたわけではない。

あくまで相手が一方的に打診しようともくろんでいる事を、うまく広めようと先手を打ってきただけである。

とりあえず周囲には余計な事を悟られないことが重要だ。

この件については今回エレナの決断を聞いて、それからきりだそうとクリスは決めていた。

ここでこの話を伝えず、他社の口から耳に入ったら、またエレナの信用を下げてしまうと、これまでの失敗を反省してのことだ。

そしてクリスはエレナが話をする時にブレンダの同席を希望しているというので、希望通りブレンダにも声をかけた。

当事者であるケインと彼のルームメイトである友人は、今日もエレナの護衛として勤務しているので、エレナを呼べばついてくる。

だからそのまま中に通せば話ができるので、あえてこちらから呼ぶようなことはしていない。

こんな形で答えを聞かされることになってしまったケインには申し訳ないけれど、良い答えを出してくれることを願うしかない。



時間になりエレナが執務室に来ると、クリスは早速人払いをした。

残っているメンバーはクリスを除いて前回、エレナとケインの話し合いに立ち会ったメンバーだ。


「お兄様、やっと覚悟が決まったわ」


クリスの正面でエレナがそう切り出すと、部屋に緊張が走る。

覚悟しなければならない結論を出したのかと、エレナの後ろに立つケインが不安そうにエレナの背を見ている。


「内容を教えてもらえる?」


クリスがそう尋ねると、エレナは険しい表情でうなずいた。


「ええ。私はケインと生涯を共にしたいと思うの。だから今、ケインが動いているお話を、そのまま進めてもらいたいわ」

「よかった」


表情はともかく、言葉に出された答えに、クリスは安堵の言葉を漏らす。

そしてエレナの背を見ていたケインは、その場で頭を下げる。


「ありがとうございます」


エレナはケインの声を聞いて、振り返ると、静かにこう付け加えた。


「でもね、もし、私の立場が必要な時が来たら、その時はこの国に利用してもらって構わないと思っているの。それが私の生かされた価値だと思うし、本来あるべき貴族の矜持でもあるはずだから、王族から貴族になってもそれは変わらないはずでしょう。だからその時までは、自分の幸せを選択したいと、そう考えたの」


その言葉を頭上に受けたケインは思わず顔をあげてじっとエレナを見た。

今この場にあるエレナは、正に王女だ。

その覚悟は王族の矜持なのだろう。

ケインとしてはエレナと生涯幸せにと申し出たのに、そうではない可能性があると、いわゆる条件付きの承諾を言い渡された格好だ。

ケインが言葉に困っていると、クリスがその言葉に答える。


「エレナを利用するなんて、そんなことはしないよ。でもわかった。エレナが考えた末に導き出した結論だからね。心に留めておくよ」


クリスがそう言うと、エレナはクリスの方に向き直って目を伏せた。

クリスは思わずブレンダの方を見るが、ブレンダは小さく首を横に振ってそれに答える。

つまりこれは本当にエレナの意思であって、打診の件を知ったエレナが、自分に判断を託したのではないということだ。

それにしても、エレナが承諾するのに条件を出してくることは想定外だ。

てっきり、はいかいいえで返ってくると思っていた。

しかしこのような結果になっても、次の話しはしておかなければならないだろう。

エレナがケインと共にと決めたのなら、本人たちに頑張ってもらわなければならないのだ。

エレナもきっと先んじてクリスに手を回されることを嫌がるだろう。



「とりあえず、エレナはケインと婚約する方向で話を進めていくね。それで、こんなタイミングなんだけど、エレナ、ケイン、そんな二人にあまり良くない話をしなければならない」


クリスがそう切り出すと、ケインが声に出して聞き返す。


「何でしょう?」


一方のエレナは首を傾げただけで何も言わない。

ただ二人が先を聞くつもりであることは容易に理解できたため、クリスは続ける。


「昨日、彼の皇太子が、こちらに来たいと打診してきた。だから近々、彼がまたここに来ることになると思う」

「そうですか」


そこまでの話を聞いてケインは納得した。

確かに良い話ではない。

エレナはその間も目を逸らすことなく黙ってクリスを見ている。


「それで、そのタイミングでおそらく彼はエレナに何かしらのアプローチを掛けてくるだろうと思うんだ。もちろんエレナへの面会を希望してこなければ隠れていてもらっていいんだけど、それはたぶんない。当然、二人の婚約を公にする準備はこれからなのだから、彼が来る際、まだ二人の関係は公にはなっていない。だからエレナには彼の言葉に流されないよう頑張ってもらうことになる。何せ彼は、社交界で一番エレナの伴侶に近い人物と言われているんだからね。そういうところも、いっぱい突いてくると思っていい」


エレナは一言も発せず、ただ黙ってうなずいた。


「婚約が調ってしまえば、彼も手は出してこないと思うんだ。悪い人ではないからね。彼ならエレナの気持ちを尊重してくれるはずだよ。でも今度は内部の貴族からの反発が大きいと思う。それに関してはケイン、分かっているね」


クリスは続いてケインに話を振る。


「覚悟はできております」


何度となくエレナの隣に立つ覚悟をと言われてきたケインだ。

覚悟などすでにできている。

間に合わなかったのは準備くらいのものだ。


「まだ、彼に関しては打診が来たという段階だよ。いつ来るのかとか、何しに来るのか、詳細は分からないし、手紙で済むならそうするつもりだから、もしかしたら結果的にここに来ないかもしれないけど、これに関しては打診が来ている段階で、来ないということに期待はできないと思ってほしい」


つまり彼とエレナの対面は避けられない。

だから今のうちにあらゆる対策を講じる準備を自分たちにするように、クリスはそう言いたいのだろうと察したエレナは小さくため息をついた。

さっき口にしたとはいえ、自分の覚悟を揺るがすようなことを、目の前に突き付けられた形になったのだからそのくらいは許されるだろう。

でもエレナは、クリスがその話を事前にしてくれたことを、少し嬉しく思っている部分もあった。

少し笑みを浮かべたエレナを見て、クリスは先に伝えたことは正解だったのだと、ブレンダのアドバイスに感謝するのだった。

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