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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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侵入者の報告

エレナが孤児院へと外出している間、クリスの元に一報が入った。


「クリス様、報告が上がりました」


その一言で何の報告かを察したクリスは人払いすると、早速尋ねた。

「例の件だね。早速聞かせてもらってもいいかな」

「はい。例の国へ入国後、過去に取り引きをおこなっていた貴族の元を訪ねて、亡命を希望していると申し出たとのことです」


とりあえず事情を知っている相手のところに逃げ込んだ。

そう見せかけたということだろう。

彼は荷馬車で訪ねてきたのだから本当に逃げただけと思われていて、特にその言葉を疑われてはいないと思うと付け加えたという。


「それで?」

「さすがにこのタイミングで亡命すれば自分が犯人と言っているようなものなので、すぐには行わない方がいいと相手側に指摘を受け、それを受け入れたようです」


事件の真相は知っているものの、一度捕まってから条件付きで放逐されたと知らない、その条件で親身になって相談に乗ったとしたら、そういう提案も出るだろう。

何よりそれを助ければ自分たちも事件と関係していると知られてしまう。

一方、行き場を失った彼を保護せず他所に追い出した場合、見えない所でどのような話しになるか分からない。

だから目のつくところに置いて、自分たちも足がつかないようにしたいということだろう。


「確認だけど、今回駆け込んだのは引き渡していた相手ってことかな。確かに相手からすればそうだよね。このタイミングで亡命の手助けをすれば、今回の襲撃の犯人を庇ったと取られかねないし、そこから自分たちの責任を問われる可能性も出てくる。芋づる式に釣りあげられたら、それはそれで対処するんだけど……、そう簡単に尻尾を出さないから対処できなくて手を焼いているんだけどね」


もし彼らがそんなことで簡単に引き出せる相手なら、もっと早く対処できたはずだ。

おそらく最終到達地点は例の国そのものになるだろうが、そこにたどり着くまで多くの者を介して、証拠が残らないよう対策をしている。

要は狡猾なのだ。


「はい。そこで彼は、一旦その話を飲んだため、まだ厳密には亡命をしていないということになります」


国に入り込めるのなら無理に亡命しなくてもいいのかもしれないが、彼はすでにこの国の国籍を有していないに等しい。

だから彼は、例の国への亡命を成功させて、国籍を取得し、身元を証明できるようにする必要がある。

この先、商人として身を立て直すためには、新たな身分証明をどうにか入手しなければならないのだ。

そうでなければ将来的に国をまたいでの商売は難しい。


「それで、とりあえず滞在許可はとれたんだね」

「はい。しばらくの滞在は商人として協力者である貴族のところになるようです」


どうやらその貴族が自分の取引先なのでということで滞在許可はとれたらしい。

今まで何度もその申請をしていたようだから、今の段階で事件と結び付けられることはないだろうし、もしその後聞かれたら、その貴族はそのタイミングでこの国に入国していなければ知らなかったで通せば、無関係を貫けると考えたのだろう。

でも本当に自分の身を守る事を考えるのなら、家になど置かない方がいい。

どこに滞在しているか分かれば見張る事もできるし、別に宿を抑えて偽装した上で、実質滞在させるだけでもいいのだ。


「よくその貴族も滞在を許可したね。さっさと宿に送るという選択もあったと思うけど」

「そこはどうやったのか分かりません。何かの取り引きがあったか、過去に貸しがあったのか……」


もしかしたら彼は、自分が捕まった際、その貴族を道連れにするつもりなのかもしれない。

この国でしっぽ切りのように扱った彼らへの、それなりの仕返しを考えている事もあり得る。

きっと取り引きだけだったらそんなことは考えないだろうが、彼の家に滞在した貴族は、彼の息子をそそのかし主犯に仕立て上げた。

命懸けでも子を助けようとこの話乗ったくらいだから、息子の事を騙した彼らを、彼なりに許せないでいるのだろう。

もしそうなら、クリスはその要望を密かに叶えてもいいと思っている。

結局その貴族がそそのかしたことによってエレナが襲撃の的にされたのだ。

クリスにとってもエレナの外になるものは排除すべきなので、よい口実になる。


「なるほどね。まあ、そのくらいの武器はもっているかもしれないね。話をした時、勝算がありそうな様子だったし」


クリスが目的を悟られないよう考え込むような表情を作ってそう言うと、彼も似たような表情を作った。


「それで彼の情報によれば、国内の奴隷の取り引きについては、過去より減っている印象だという話です。商売をしながら集めた情報だということですが」


彼があの国に入り込んでからそんなに長くはない。

この情報の信ぴょう性を疑う必要はあるかもしれないが、あながち間違いでもないだろうという騎士個人の私見を付け加えると、クリスはうなずいた。


「つまり主流な取引に使われていたのがうちの国民だったということだね。もしかしたら元々売買できる奴隷が少なくなってたから、一気に人を攫っていこうという暴挙に出たのかもしれない。ちょっと許せないね。やっぱりそれなりの報復は考えたいところかな」


エレナの事だけではなく、純粋に自国の民を誘拐し、物同様に売り払うという行為が許し難い。


「それについては、今回の一件でそれなりに情報を持っている他国も警戒を強めている、ということらしいので一概には言えなそうです」


襲撃事件に顛末は国民の誘拐事件だ。

国が言いに向けて公に発表しなくとも、国内で発表されているのだからその情報を他国が持っていてもおかしくはない。


「なるほどね。どこの国もあの国を叩きたいけど、うまく証拠を掴み切れていなかったと、そういうことかな」


他国でも他の国からの入国に関して急に厳しくなったという話が聞こえてきている。

おそらくこの国で襲撃事件があり、それを多くの来賓客が知っているため、ターゲットが自国に向く可能性を考えてのことだろう。


「そうですね。それと、エレナ様と彼の国の皇太子の件はまだ、例の国の上には届いていなそうですが、おそらくその貴族から耳に入るようになるだろうと思われます。そのくらいが自然でいいのならこのまま時間に任せることになります」


クリスが目的として彼に伝えている噂を流す件については、まだ実行に移せる段階ではないらしい。

それは分かっているのでクリスは、そこについて何も問わない。

とりあえずクリスは、報告に来た騎士に先を続けるよう促すのだった。

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