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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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次のステップ

エレナは自分の関係するイベントが終わってしまい、少し退屈な日々を過ごしていた。


「しばらく忙しくしていたせいで、なんだか日常に戻っただけなのに時間の流れがずいぶんと遅くなったように感じるわ」

「エレナ様は忙しいのがお好きなのですか?」


家庭教師が尋ねると、それは少し違うといったようにエレナは首を横に振った。


「そういうわけではないけれど、お兄様たちがお勉強をしている時間、ただお部屋にいるだけなんて、なんだか申し訳なくて……」

「それならば宿題を追加するか、いっそ勉強の時間を増やしてもらいますか?」


また宿題を作るのは大変だが、勉強をすること自体悪いことではない。

勉強の時間そのものを増やすのは許可を取るのが少し大変だが、エレナがそうしたいと言えば容認されるだろう。


「そうね……。学校に通う人と同じにしたいなら、そうするべきなのよね……あっ」

「エレナ様、どうされましたか?」


急に大きな声を上げたエレナに驚いて家庭教師が聞いた。


「そうだわ!訓練場に久しく顔を出していないじゃない!騎士団長に次に進めるか聞いてみればいいんだわ」

「あの、お勉強は……」


戸惑う家庭教師にエレナは元気よく言った。


「ちゃんとするわ!でも、学校でも体を動かす授業があるって聞いているもの。偏っているのは良くないと思うの」


訓練場というのはエレナにとって非常に名案に思われた。

ブレンダとのお茶会で、ケインを騎士だと口にしてしまってから、エレナは後悔していた。

あれでは自分を守ってくれと言っているのと変わらないし、何のために強くなろうとしているかわからない。

そこに学校見学でケインの言っていたことを思い出して、再び落ち込む、一人になるたびにそんなことを繰り返していた。

もともとブレンダにも強くなるためのコツみたいなものを聞くはずだったのに、普通に楽しいおしゃべりに興じてしまった。

やはりお茶会みたいな席ではだめなのだと思い直して、エレナは訓練場に向かうことを決めると、侍女に連絡を頼むのだった。



きちんと連絡をし、訓練場を訪ねたエレナは、騎士団長の意見を聞いてみることにした。


「騎士団長は飛んできた矢を剣で落としたりできるの?」


まさかそんな質問が最初に来るとは思っていない騎士団長は驚きを隠せない。


「急にどうされましたか、エレナ様……」


思わず聞き返す騎士団長にエレナは答えた。


「一人で練習メニューをこなしている時に護衛から聞いていたから気になったの。先日、ブレンダとお茶をした時に思い出して、そういう人がいるのって聞いたら、騎士団長ならできるのではないかって言われたの」


そういう技術が身につけば自信につながるに違いない。

エレナはいつか自分もできるようになりたいと思って聞いた。

騎士団長はちらりとエレナの後ろに立つ護衛に鋭い目を向けてから、ため息をつきながら言った。


「エレナ様、さすがに騎士団でもそのような訓練は行っていませんよ。騎士団は曲芸をするところではありません。ですが、いざという時、とっさに剣を振ったら矢でも何でも切り捨てている可能性はありますし、剣は盾ほどではございませんが、作りが丈夫で、そういうものに当たっても折れることはございませんから、うまく当てることができれば自分に矢が刺さるようなことはないと思います。ですが、それ自体を学ぶことはありません」

「そうなの……。わかったわ。ところで、私はいつになったら、こちらの訓練に入れてもらえるようになるのかしら?」


答えいにくい質問だが、そろそろきちんと話をする必要があるだろうと、騎士団長は口を開いた。


「エレナ様、それはまだまだ無理にございます……」

「そうなの?」

「彼らは学校で騎士となるために何年も勉強や武術を磨いております。さらにその中から選抜されたエリートたちがこの騎士団に集まっているのです。今のエレナ様についていけるような訓練ではございませんし、そのように勉強してきたものをさらに鍛える訓練ですから相当過酷なものです。ですから、私はエレナ様に別のメニューをお渡ししているのでございます」

「そう……。彼らから多くを学べると思っていたのだけれど残念だわ。では、私の課題が次に進むのはいつなのかしら?」


周囲からの報告でそろそろ別の課題を出した方がよさそうだと考えていた騎士団長は、この時のために考えていた事をエレナに提案してみることにした。


「そうですね、まずは一度体力測定というのをしてみたいのですがいかがでしょうか?」

「体力測定って何をするの?」

「どのくらい体力があるか、皆で同じ課題を行い比較するのでございます。もちろん多くの過去の記録がございますから、その記録をもとに、騎士団に入団できるレベルに達しているかどうか見たり、昇進降格の試験の一環として行うなど、使い方は様々でございますが、エレナ様の場合は次の課題に進めるだけの体力がついたかどうかを見るために行いたいと思います。剣を振るだけの筋力があるのか、弓なら持てるのかなど、結果を見てご説明できるようになりますから、次の課題も決めやすいですし、こちらの訓練を一緒に受けられない事情などはご理解いただけると思います」


騎士団の訓練には混ぜられないということを強調するつもりでそう言ったのだが、エレナには好意的に受け取られていた。


「そういうのがあるのなら先に聞いておけばよかったわ。定期的に受ければ、自分がちゃんと正しく鍛えられているのか分かるということでしょう?」


ずっと一人で正しいのか正しくないのか分からないまま続けることに不安を覚えていたエレナはいたく感動していた。

一緒に受ければ人と比較できるが一人でやっているとよくわからない。

だからこそ一緒に訓練したかったのだが、実は一緒に訓練しなくても確認をする術があるというのだ。


「そうですね……」


一方、普通は嫌がる体力測定を前向きに取り入れようとするエレナに騎士団長は思わず苦笑いを浮かべる。

騎士団長からすれば完全に想定外の反応だ。

エレナはそんな騎士団長に食いつくように質問する。


「体力測定というのは何か準備がいるのかしら?」

「そうですね。騎士たちのように動きやすく汚れても問題のない服装と、測定を行うために少し広い場所が使えれば充分でしょう。あくまで体力の測定で、ご自身の力がどのくらいあるのかを見るものになりますから、矢を飛ばしたり剣を振ったりはいたしません」

「そうなのね」


話を聞きながら目を輝かせているエレナに、せめて最善の環境を整えようと騎士団長は頭をフル回転させることにした。


「当日はブレンダを参加させられないか検討します。エレナ様も、周囲の方も、女性騎士がいた方が安心でしょう」

「でも、ブレンダはお兄様の護衛でしょう?」


護衛は、警護をしているか休憩をしているかだと思っていたエレナは尋ねた。

確かにブレンダは街を見まわりすることもあると言っていたが、それが日常の業務だとは思っていなかったのだ。


「護衛業務のない時は、街の見まわりや建物の警備をしているのですから、その時間の一部を訓練としてエレナ様の体力測定の時間に当てれば問題ありません。ブレンダに体力測定を受けさせる絶好の機会ですし……」

「ブレンダは体力測定を受けたがらないの?」

「基本的に騎士は皆あれを嫌いますね……。皆、実践をしたくて入団いたしますから」

「それじゃあブレンダに申し訳がないような気がするわ?」


自分の都合にブレンダを巻き込んだのではないかとエレナは不安そうに何か考え始めた。


「これも騎士の役目ですし、同じ女性で騎士になれるブレンダと、エレナ様ご自身の実力を比較すれば、どれだけの実力差があるのか実感いただけると思います。それに最近ブレンダの測定はしておりませんでしたし良い機会です」


もういっそ、エレナがやるのだからと一列に並べて一斉に測定をしてしまいたいくらいだと、騎士団長が考えていると、結論を出したエレナが言った。


「どちらにしても、私はその体力測定を一度はやってみた方がいい気がするわ。自分がどのくらいできていて、どのくらいできていないのか、それが分かるのは大きな一歩になると思うの」

「エレナ様……。その言葉、他の騎士にも言ってやってください……」


訓練をすることに前向きすぎる発言を聞いて、騎士団長はポロっと漏らした。


「え?」


きょとんとして首を傾げたエレナを見て騎士団長は我に返る。


「あ、いいえ、他の騎士にもエレナ様のような心意気があればと思わず口が滑りました」

「そ、そうなの?」


騎士団長にしては珍しいとエレナが小首を傾げていると、騎士団長はこの場で思いついたことをエレナに相談することにした。


「エレナ様、一つご相談なのですが……」

「何かしら?」

「ブレンダ以外の数名、男性も含まれますが、一緒に測定の場に置いてもよろしいでしょうか?」

「ええ、騎士団長がそうしたいのならかまわないわ。もともと一緒に訓練したいと言ったのは私だもの」


騎士団の大半は男性で、その中に混ざっても汗を流そうとしていたのだから問題ない。

エレナはすぐに了承した。


「では、エレナ様、少し先になりますが、間もなく入団してくる新人と一緒にお願いしたいと思います。それならばその場に私もおりますし、ブレンダを手本として同席させることができます。新人にも現役の騎士の能力を見てもらうことができますし、エレナ様にはブレンダのことも、騎士団入団時点でどのくらいのことができなければならないのかも見てもらうことができます」


騎士団に入団する人間はすでに決まっている。

時期が少し先なのは、間もなく彼らが学校を卒業するため、卒業を待ってからの入団となるためだ。


「それじゃあ、私は日々のメニューを頑張っておくわ。なんだか太刀打ちできる気がしないけれど……」


エレナがそう言うと、騎士団長は再び苦笑いを浮かべた。


「エレナ様が騎士より剣や弓の能力、体力に置いて優れる必要はございません。公務の執行能力が優先です。エレナ様はそちらが本職でございますよ」


騎士団長はエレナを諌めながらも、今回の測定は面白いことになりそうだと少し楽しみになるのだった。

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