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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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このままの幸せ

「エレナ様、急に申し訳ありません」


ドアを閉めてから、ケインはドアの前に立ったまま、まずエレナに頭を下げた。

周囲からせっつかれたとはいえ、このような形でエレナに選択を迫る結果となってしまった。

前振りはクリスがしてくれたので、さすがに自分の言いたい事を察しているだろうとは思うが、急すぎて実感がないのか、エレナはいたって普通通りだ。

もしかしたらまだ事態を消化しきれていないのかもしれない。

これは現状に満足し、先の事を考えなかった自分の落ち度だとケインは考えたのだ。


「どうしたの?改まって。いつも一緒にいるけれど、最近はあまりこうしてゆっくり話ができなかったから、時間を作ってもらえてよかったと思っているわ。こんなことならお菓子とか準備しておきたかったけれど、今だと準備をしているところから全部ケインに知られてしまうから、驚かせるのは難しいわね」


数年前なら二人は学校へ行っていていなかったので、その間にお菓子を用意して食べてもらうことができた。

クリスもケインもエレナが作るものを嬉しそうに食べてくれたし、新しいものを作る度に驚いてくれていた。

もうそういうサプライズはできないけれど、こうして話をすることができるのなら、準備くらいはしたかったとエレナは思ったのだ。


「そうですが、もちろん喜んでいただきます。自分のために準備してくれるものは特別ですから」


孤児院で一緒に作っているものだって美味しく食べているし、逆に作っているのを見せられて食べられない方が寂しい気持ちになる。

知らされないくらいなら、驚かさなくてもいいので、エレナの作ったものをこれからも食べたい。

それにすでに職人レベルにまで到達しているエレナの作るものに関して、心配になるようなことは何もない。

エレナがどう思うかはともかく、自分のために準備してくれているものを作る過程を見られるなんてむしろ贅沢だとケインは思っている。


「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。それにしてもここに二人って、あの時以来ね。忙しくしていたから随分前のことのように感じられるけど、そんなに日が経っていないのよね」

「そうですね……。あの時は……、なんというか……」


話し合いをするようにとせっかく時間と場所を提供してもらったのに、なぜか狭いこの部屋で捕物劇のようなことする結果となってしまった。

意識はしていなかったけれど、あの時は事件の事もあって感情が高ぶっていたのだろう。

つい売り言葉に買い言葉で、しかも最後は力でエレナをねじ伏せなければならなくなった。

この部屋に入ったケインは、部屋に入ってすぐその時の事を思い出して、外に出た方がいいのではないか考えてしまったが、これは自分が希望したことなのだから、そういう訳にはいかない。

エレナはあの時の事をどう考えているのか気になるところだが、今は目の前の問題解決を優先すべきだとケインは言葉を飲み込んだ。

ケインもエレナの言う通り、随分と前の事のように感じていたけれど、あれはクリスのお披露目会当日、しかも事件直後の話なのだから、まだそんなに日は経っていない。

それなのに事件の事だけではなく、自分たちの、特にエレナの周辺では大きな環境変化が起きていた。

つまり、この数週間が濃密だったということだ。



「ねぇ、せっかく二人なのだから、いつもの、前のように普通に話をしてくれないかしら?その方がケインも話しやすいでしょう?敬称も不要よ」


クリスが二人で話せるようにしたのは、二人で将来について腹を割って話し合えという意味だ。

クリスからすれば、前回の時点でこの話し合いが行われることを期待して場を設けたのだろうが、二人で盛大に台無しにした。

今回はきちんとクリスの求める答えを、二人で出して伝えなければならないだろう。

それは王女殿下と護衛騎士という立場ではなく、対等な一個人同士で話し合うべき問題だ。


「では、お言葉に甘えて……。あの、早速なんだけど、エレナは、これからどうしたい?」


ケインが言葉を直しながらも改まってエレナに直接的な質問を投げかけると、エレナは首を傾げた。


「お兄様もそんな話をしていたわね。ケインとどうなりたいのか真剣に考えてって」


自分もルームメイトに細かく説明されるまで理解できていなかったけれど、自分で動いた部分があるため状況だけは把握できている。

しかしエレナは、突然クリスから言われてその直後にこうして決断を迫られているのだ。

よくわからない部分は自分が説明しながら話を進めなければならないのだと、ケインは一度深呼吸すると言った。


「それで私……、いや、俺は、エレナと話をさせてほしいって言ったんだ。エレナがどうしたいのかを知ってから結論を出したいって」


今日もおそらくあまりゆっくり話す時間はないだろう。

でもエレナが自分と将来共に歩いてくれるかどうかで、ケインは将来に関わる重要な決断をすると決めている。

だから今日ことエレナに自分の事を伝えてエレナの意見を聞いておきたい、

例え今日限りで自分の感情を生涯隠し通さなければならなくなったとしてもだ。



「そうなのね。正直、そう言われてもよくわからないわ。イメージがわかないのよ。今の関係はいいと思うし、このままでいられたら幸せだって考えているのに、そうではなくてって否定されてしまう感じだから」


エレナのその第一声を聞いてケインはホッと小さく息を吐いた。

まさにそうなのだ。

願わくば生涯このままでと考えてしまうくらい、今の距離感は居心地がよかったし、満足でもあった。

それなのに、あちらこちらから邪魔が入り、今の関係ではだめだと否定されるようになってしまった。

そう感じていたのはケインだけではなくエレナも同じだったらしいと知って、まず一つ、ケインの中にあった不安が消えた。

ここまでの思いが同じなら、今まで自然と避けてきたところに踏み込んでも問題ないだろうと、ケインは思い切ってエレナに今の考えを伝えることにした。


「そうだな。俺もそれが自分の限界だって思って、どこかで諦めていたから踏み込むことはしなかったんだけどさ、もし、俺がエレナの騎士じゃなくて伴侶になりたいって言ったら、エレナはどうする?どう思う?」


中途半端な言葉ではだめだとケインが正しく自分の伴侶にと口に出すと、エレナは首を傾げた。


「伴侶?ケインと私が?」

「そう」


聞き間違いかとエレナが思わず確認すると、ケインは迷わずそれを肯定した。

間違いではないということは、ケインがエレナを自分の嫁にと希望しているということだ。

確かにケインの言う通り、そうすれば生涯一緒にいられる。

けれど同時に、今までの関係が大きく変わってしまうということでもある。

エレナとしてはそこまでケインが考えてくれた事を嬉しく思いながらも、困惑の方が大きく、すぐに言葉を見つけることができないのだった。

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