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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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覚悟への問い

明らかな動揺を見せたケインに、父親は追い打ちをかけるように尋ねる。


「私が反対したら王宮騎士を辞して家に入るのか?私が許可しなければ、諦めるのか?もし、金輪際エレナ殿下に近付くな、そうしなければ家を継がせる気はないと言ったらお前はそれを守るつもりか?」


そんなことは考えたことがなかった。

スムーズな許可を願っていたけれど、少しは覚悟をしてきていたのだ。

でもそれは説得という戦いをする覚悟であって、諦めるということではない。

今まで当たり前に持っていた選択肢が、実はまだ残されていた。

そして父親に思わぬ方向から反撃を受けている。

確かに自分が家を継ぐ前提で話していたけれど、エレナを選んだら家を継がせないという選択を当主がする事もあり得るということだ。

そのことにも驚きを隠せない。

ただ父親が自分を責めているのではない事は分かる。

覚悟を問うだけで、怒っているとかではない。


「申し訳ありません。考えたことはありませんでした。私はただ、最初はできるだけ多くの時間、エレナ様やクリス様と共にありたいと思っていました。だから最短で彼らの近くに行ける道を選びました。当然この先もできる限りそのようにしたいと考えております。ですがエレナ様はいつか離れてしまうもの、どこかでそう認識していたのです。今まで私は家を継ぐ可能性が高く、エレナ殿下はどちらかに降嫁される。私は今までそれを別のことと考えておりました。それがエレナ様の一緒にいられるタイムリミットになるのだと。だから急いだのです。あの時言われた通り、家格の違いだけは埋められないのなら、せめて彼女とできるだけ長くいられるようにと」


クリスとは生涯友として付き合っていける。

クリスが自分に声をかけてさえくれれば、それが表立っては命令という形でも合うことは許される。

けれどエレナとはそうはいかない。

今はクリスのお膳立てや、近衛騎士という地位がエレナに会うことを許してくれているけれど、エレナが降嫁するなり他国に行くことになれば、そう簡単には会えなくなるのだ。

エレナはそんな不確定要素の高い、希望もしない未来のために努力をさせられ、行動の制限を受けている。

かわいそうだという気持ちはあったけれど、どこかでエレナの将来を考えたら仕方のないことだと思っていた。

けれどエレナが自分の手元に来てくれたのなら、もう少し自由にしてあげられるかもしれない。

クリスに王族であることの窮屈さを聞かされるまで、自分がエレナを自由にするための逃げ道を与えてあげられるかもしれないなど、考えた事もなかったのだ。

でもここへ来る前、全ての覚悟を決めてきた。

次の目標を定めてきた。

そして第三者に改めて口に出し宣言することで、よりその決意が強くなるのを感じた。

ケインは父親に臆することなく言葉を続けた。


「ですがこの先、私がそれに見合う功績を上げることができれば、エレナ様のお相手に自分を選んでもらえる可能性があるとクリス様に示されたのです。その足掛かりとして、今回の褒賞として自分の近衛騎士に昇進の話が来ています。ですからできましたら私は、そこに向かって話を進めたい。その許可を求めるつもりでここへ来ました」


クリスの近衛騎士を継続しながら、並行して当主としての仕事はできるらしい。

実際、国王の近衛騎士の何人かは、有力貴族の当主としても名の知れた者たちだ。

彼らはうまく家の仕事を采配し、当人は家の事をほとんどせず、国王に仕えているらしい。

文官で同じような事をしている貴族もいるようなので、大変だろうができないということはないのだろう。


「なるほどな。すでに結論は出ているということではないか。それは相談とは言わないのではないか?」


彼は軽く笑うと、目を細めた。

一方のケインは一瞬何を言われたのか分からなかったが、すぐにここに来てからのいまでの言動を思い起こして、その言葉の意味を理解する。


「言われてみればそうですね……。改めて、先の件、許可をいただきたく思います。もしお許しいただけるのなら、私はクリス様からのお話を受け、エレナ様に選ばれるよう、全力を尽くすつもりです」


父親はそう言い切ったケインを、しばらく黙ってじっと見ていたが、微動だにせず、目を逸らす事すらしないケインの中に覚悟を見てとったのか、ふむという声と共に生きを置きく吐きながら、首を縦に振った。


「まあいい。当家が降嫁先となるか、選ぶのは王族側だ。こちらで決められることではない。今までおまえは目立って何もしなかったから貴族からやっかみや妨害などを受けることはなかっただろうが、もしお前がその地位を狙うのなら、この先は自分の努力だけでは片付けられないことにも多く出くわすことになろう。その覚悟はあるか?」


今までは何となく息子が王子、王女殿下と幼馴染みということで、本人も親も鼻が高いだろうくらいのことしか言われなかった。

それは当人であるケインとエレナがその関係を周囲に匂わせることをしなかったからだ。

幸いクリスとは学校が同じということもあり、学友として仲がいいと認識されている。

同時に、クリスがその他の学友と平等に接してくれているにもかかわらず、学友の方がクリスに臆して遠巻きにしてしまったこともあり、ケインのような立場になれなかったのは自己責任という自覚があるため、少なくとも学友がケインを責めることはなかった。

本当に頼みのある時はケインを通してという事もあったし、ケインもそれを驕ったり邪険にすることはなかったので、彼らからの恨みを買うこともほとんどなかった。

これからの貴族社会を背負う若者同士は、円満な学生生活を送ってきたので、世代交代をすれば色々言われる事もないのだろうが、今はまだその親が現役だ。

若いものを下に見る傾向はあるし、今までケイン本人が目立つことはなかったので、そのような恨み事はケインの両親が受け止めていればよかった。

けれどこの先はその洗礼を本人も受けることになる。

いくら剣が強かろうとも、社交に関してはまだまだ未熟だ。

これから先、エレナやクリスの護衛として参加しなければならない社交の場において、本人が心ない言葉を浴びる事も増えるだろう。


「問題ありません」


ケインが即答すると、父親は大きくため息をついた。


「わかった。家としてはエレナ殿下を迎えることに意義はない。だが、こればかりは報われぬ努力となるかもしれん。同時に後悔のないように動かず失敗すれば、その分傷は深くなる。多くの者が当主としての仕事と王宮の仕事を並行して行っているが、それはあくまで彼らが優秀というだけであって、お前にはまだあれを真似られるだけのものはない。私が当主の座にある間にお前が領主としての仕事を覚えられなければ、当然別の跡継ぎを考えることになる。それを肝に銘じておけ」

「ありがとうございます。この件が落ち着きましたら、仕事を覚えていきたいと考えていますのでその際はご指導ください」


ケインの予想に反して、父親からの反対を受けなかった。

家を継げなくなるかもしれないというのは予想外だったが、それだって自分の努力で認めさせれば、手放さなくていいものだという。

今はそれだけで充分だ。

王族と周囲の貴族が自分を認めてくれたら、エレナと生涯を共にできるし、クリスとの関係も継続できる。

何よりこの関係を隠す必要がなくなる。

そのために自分が結果を残せばいいだけなら、できる限りのことをするまでだ。

ケインはその結果を胸に、実家への滞在を切り上げて寮に戻るのだった。

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