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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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裏帳簿の裏側

 「気になったのはね、貴方はなぜ、これを残したのかな?普通は証拠になるものを、こんなに手をかけてわざわざ作ったりしない。何かあったら見つけてくれと言わんばかりだし、この帳簿自体、非の打ちようもないものみたいだ」

「そうですか、それはなんとも……」


反抗的な態度を取ることはないが、クリスが質問しても彼はやはり曖昧な言葉で返答をした。

騎士の方はその態度に苛立ち男を睨みつけたが、男はクリスの方しか見ていないため気がついていない様子だ。


「これは何のために作ったの?提出されていた帳簿とは内容が違うものだって事は確認できているのだけれど」


ただ押収して中身が怪しいというだけで話をしているわけではない。

提出したものと照合されているとクリスが告げると、男は目を泳がせる。


「それは……」


詳細の不要な項目はひとまとめにした。

本当ならばそれでよいのだ。

自分のしたことを隠し通すつもりだったのなら、押収した帳簿にも同じ内容を記載して保管していればよかったはずだ。

けれどなぜかその詳細を記載した帳簿をつけていた。

仮に自分に不都合が生じたからとそれを相手国に見せたとしても、ねつ造と言われたらそれで片付けられてしまうので、このようなものを残すのは自分の首を絞めるだけで無意味なはずだ。

でもそれを彼はあえて残していた。

そしてその理由を、クリスは隣に立っている騎士の言葉から正しく認識している。


「ご子息に害が及ばないようにするため?」


クリスがそう鋭く言うと、男は目を見開いた。


「なぜそのように?」


婚約をしているとはいえ、子を持たないクリスから子供のためという言葉が出たことに驚き、思わず疑問を返すと、クリスは彼をじっと見て答える。


「ここまで完璧な証拠が出てきたら、あなたの単独犯行ということで片付けられるでしょう?例えご子息が手を汚していても、ここにあるのはあなたの文字だけで彼の文字はない。少なくとも、この件に関しては、あなたしか関わっていないと言えるよね?あなたの意思さえ固ければ」


別に拷問をしようというわけではない。

ただ、クリスは彼の目を見ながら、彼ならきっとこの嘘をつき通すだろうと確信を持った。

この間、二人のどちらも目を逸らすことをしない。


「おっしゃる通りですが、そもそもあの子には関係のないことです。何よりその帳簿は、よほどうちの事情に詳しい者が話さない限り、見つけられるようなところには隠しておりません。息子はきっと私が隠すのを偶然見ていて、それを皆様に話したのでしょう。ですが仮に、自分が手を貸していたのなら、きっと帳簿のことは明らかにしなかったと思います。あの子は家のためとはいえ、汚れ仕事をしていた私に愛想を尽かしたのでしょう」


彼は何かを決意したようにそう言った。

そこには、どうかそう捉えてほしいという願望のようなものも見て取れる。


「あなたはそれでいいの?」


クリスが小首を傾げて視線をずらすと、男は諦めがついたのか穏やかな笑みを浮かべる。


「はい。もう潮時かと思っておりましたので」


利益のため、家を存続させるためと、思えば随分、暗い方へと流されてしまった。

明るい道に戻るのは難しいけれど、止めることはできる。

これがその最後のチャンスだと男はため息をつきながら考えていた。


「でもね、今回の件はこの帳簿に関するでは消せないよ。彼が首謀者として人を雇ってエレナを襲撃したのは間違いないからね」


クリスが先回りしてそう告げると男もそれは理解しているとうなずいた。


「それも本人は覚悟の上でしょう。ですがあの子は、本当はそのような汚れたことに絶えられるような子ではないのです。私が至らないばっかりに、あの子は甘言に乗せられて加担させられてしまった。全ては親である私の責任です」


男はそう言うけれど彼は子供ではない。

少なくとも家を継ぎたいという欲を持ち、そのためにきれい事だけでは済まされないことを理解できるいい大人だ。

でも彼は親の監督不行き届きだと言う。

これも騎士の言った、我が子は我が子ということなのかもしれない。

クリスがちらっと隣に立つ騎士を見ると、彼は複雑な表情で彼をじっと見ていた。

きっと自分が彼の立場だったならと置き換え、同情が混ざっているのだろう。


「ねぇ、息子は関係ないってそう言ってたけど、襲撃の主犯になってしまった以上、一緒に攻撃をしてきた以上、当然無罪にすることはできない。でも、あなたがすべてを話して、その上で彼の代わりに、さらなる不名誉な罪をかぶる覚悟があるなら、彼の命を助ける術がないわけじゃない。だけど、彼にとって助かることが本当に幸せかはわからないよ。だって、彼自身が罪人として扱われるのは変わりないし、開放されても風当たりが強いのは間違いない。貴族社会で生きていくのは無理だし、あなたの事を知れば、それが彼にとっては生きるより辛いことになるかもしれない。それでも、あなたは彼の分の不名誉をかぶる方を選ぶ?」


例え彼が背終える限りの息子の積みを被ったとしても、彼が罪人として生きて行く未来は変わらない。

正直言えば生かされること自体がかなりの温情になるわけだが、それが彼にとっての幸せとは限らない。

いくら成り上がりの息子であっても、彼が貴族として生きてきたとしたら、平民として暮らせるのかというのも微妙だ。


「それで構いません。ここまで手を汚したのです。私が不名誉を背負うくらいで、あの子が生きてくれるのなら。できるだけ多くの罪を私が負い、この世を去ります。ですからどうか温情を」

「そうだね。ご子息の罪を軽くしたいというのなら、そのためにも色々教えてもらわないといけないことがある。その内容で取り計らえる限りのことをすると約束するよ。だから聴取には素直に応じてくれるかな」

「はい。クリス様、貴方様を信じます」


これで司法取引のようなものが成立だ。

後は彼が本当に洗いざらい証言をしてくれたら、解決に大きく前進するし、今後の対策も講じやすくなる。

もともとクリスは彼の罪は問うけれど処刑するつもりはなかった。

最初に理由聞いた時点で、裏で糸を引いている人間がいることは理解していたし、帳簿の話が出た時点で調査を大きく前進させられたのだから情状酌量すべきと思っていたのだ。

でも先ほどの騎士の話を聞いて、息子の件を利用してより多くの証言が取れる可能性があるのならと、重い罪を匂わせただけだ。


「あなたの信頼に答えられるよう尽力すると約束するよ」


もともと処刑するつもりはないのだから彼との約束を守るのは簡単だ。

クリスが微笑むと、彼は何度も頭を下げる。


「どうか、息子のこと、お願い致します」


その様子を見ながらクリスはため息をついた。

まだ自分も子という立場でしかないけれど、だからこそ自分が彼の息子で、親がその罪をかぶったと知ったらどう思うのか、その事実がこの方にどれだけの者を背負わせることになるのかを考えてしまう。

男が思うほど彼の息子は子供ではないし、彼もきっと男の罪と苦しみを理解していて、そこから父親を開放したいと願ったのかもしれないが、子の心も確認した方がいいのかもしれない。

次に彼と話をすることになれば、父親を生かしたいのか、自分が悪事に手を染めるきっかけになった父親を許せるのかの確認と同時に、父親が彼の積みも背負うと言っていて、選ぶべき道を複数用意してくれたこと、それらを一度に伝えることになる。

でも全てを伝えた時、彼が男の積みの軽減、自分の極刑を望めば、クリスにしてあげられることはない。

生かされる事がほぼ確定している息子はともかく、この先、この男の希望を叶えることはできなくなるかもしれないのだから、彼の意見を優先するべきだろうとクリスは判断した。


「そうだね。あなたがそこまでして守ろうとしたものが何なのか、私にはわからないところもあるけど、きっとそれが、本来の親の情なんだろうなって思う」

「クリス様……」

「でも、彼がどう答えるか、どう考えるかまでは私にはわからないよ。あなたの話では彼はこのようなことをすることに耐えられるような心の持ち主ではないのでしょう?」


本当に良い子ならば親が自分の積みを背負って処刑されたと知れば悔やむだろうし、例えそこで生かされても、後を追ってしまうかもしれない。

さすがに彼が後追いしたとしてもこちらで責任を持つことはできない。

その事も付け加える。


「はい。ですが自分のことだけを考えるようにと、そうお伝え下さい。どうか」


息子の方に全てを伝えることは悪手になるかもしれない。

クリスがマイナス面を説明した後も、それを目の前にいる男は変わらず同じことを望んだ。

自分の息子は何があっても生きる道を選んでくれると信じているのだろう。


「そう……。わかった。あなたのその覚悟に免じて、その伝言は、責任を持って彼に伝えさせてもらうよ」


クリスが自分に罪を科すことで、息子にはできるだけの事をする、そして自分の意思を伝えてくれると言うと彼は安堵の表情浮かべて頭を下げた。


「はい。ありがとうございます」


息子の罪が軽減されるかもしれない。

息子がそれを受け入れるかは分からないけれど、少なくともそうなるよう選択肢を与えることはできたはずだ。

これで思い残すことは何もない。

このために帳簿を残したのだ。

手を汚すことを決めた時、それは自分だけでいいと思っていたのに、結局、その地位を守るためには必要だからと息子にも協力させてしまった。

これがせめてもの罪滅ぼしになるのなら自分の不名誉などたいしたことではない。

道を誤った男は全てを背負う覚悟を新たにしたのだった。

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