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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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王家の義務

「ケインは少し思い違いをしているみたいだね。王家の義務はそんなに軽いものじゃないんだ。感情や努力で動かせるものじゃない。はっきり言って、エレナに選択権はないんだ。もちろん、僕もだけど」

「ですが……」


基本的に地位は貴族より一段高いところに王族はある。

そして貴族の子息であるケインより王族に名を連ねるエレナの方が格上なのだから、当然最終的な決定権はエレナにある。

ケインはそう考えていたけれど、クリスは自分たちの事情は貴族のそれとは違うと首を横に振った。


「もし、仮に相手が彼の国の皇太子だとして、相手が先手を打ってきたら、エレナは外に出さなければいけないし、国益のためとなればエレナがそれを拒否することはできない。もちろんそうならないよう、できるだけのことはするつもりだし、してきたつもりだよ。でも今回のお披露目でエレナに目をつけたのは多い。それにいち早く気付いて、彼は羽虫除けをしてやったぞと言っていた。それだけなら良かったんだけど、襲撃事件が起きてしまったことで、そこに手を差し伸べると称して彼の皇太子は絶対に動こうとしていたし、下手したら第三国が同じように動きかねない。彼の皇太子は相当手を抜いてくれているし、あれでいてエレナに無理な要求は付きつけて来てない。だけど周囲が動けば本気を出してくると思う」


彼が本気を出してきたら、おそらく数日で、エレナを差し出すよう仕向けてくる。

当然、こちらに拒否権のない状況も一緒に作りだしてくるだろう。

けれどこちらとの関係やエレナの感情に配慮してそうはしてきていない。

それだけだ。   


「しかし以前、エレナ様はお断りしておりましたよね。国を出るつもりはないと」


エレナに自由がないと言われて思い返せば確かにそうだった。

外出一つするにも大がかりで、それはクリス以上のものだった。

男性と女性という性別の違いはあれど、エレナに傷をつければ価値が下がるという重鎮たちの思惑も透けて見えていた。

でもエレナは自分の目の前ではっきりとあの皇太子に言ったのだ。

クリスとともに国民を守ると。

エレナが騒ぐなら自分に外に連れ出すようにと、クリスがそう自分に命じたくらいだ。

もし本当に拒否権がないのなら、あのエレナの発言は許されないはずだ。


「もちろん、相手に自分の意見を言うことまで制限されているわけじゃないよ。あれは一方的に彼が言いだしたことだしね。でも、婚姻をまとめることが国の政策として決まってしまったら、エレナにはそのために動く義務が発生するんだ。それこそ国民を守るために」


つまり逆に、例えエレナにその気持ちがあっても、それが国のためになるか分からない限り、エレナがその場で感情に任せて彼の好意を受け取ることはできなかったということだ。

言い方や反発の仕方については少々問題があったけれど、国として結果は間違っていなかった。

少なくともクリスはそう結論付けたらしい。

言われてみれば、確かにあの時のクリスに申し出を受ける様子はなかった。

エレナの希望と、国の総意と変わらないから味方になれた。

そういうことだろう。


「ではあれは、エレナ様の方便だったということですか?」


思わずケインはそう口にしたが、そうは見えなかった。

あれが演技とは思えない。

しかし考えてみれば、窮屈な現状から解放できるという彼の言葉はエレナにとって魅力的だったはずだ。

そしてその時は考えつかなかったけれど、ケインがエレナにさせたいと思っている内容と、彼の発した言葉がおよそ一致している。

つまり彼はいち早くその状況を見抜き、エレナの心を掴みにかかっていたということだ。


「もし次に何かあったら、エレナをどこかに持っていかれるかもしれない。だから、本当はそうなる前に、ケインにエレナを託したいとずっと思ってたんだよ。エレナの意に反していると分かっていても、エレナの存在はできるだけ隠しておけるならその方がいいって、学校の件もそこまで強く意見しなかったのは、その事が頭をよぎったからなんだ。でも今までもずっとケインに負担をかけてきたのに、更に負担をかけるのは、正直心苦しくもあるんだ」


おそらく過去の、あの出来事だろうと想像することはできるけれど、なぜここでその話が出てくるのか。

急に繋がりの見えない話が出てきたとケインが首を傾げる。


「学校の件……?」


そんなケインに、あの時クリスは自分がどうしたかったのかを話しだした。



あの時、クリスにも意見を出す権利はあった。

エレナが学校に行けるよう優位に話を進めることも、おそらくはできたのだ。

クリスのお願いは大抵の人間に通ったし、それは重鎮の面々にも言えた。

それでは自分のためにはならないからと、周囲の人間は入れ替えられることになったけれど、それは極端にクリスのいいなりのようになってしまう者だけだったし、残っている者もクリスに牙をむいたりはしない。

おそらく彼らも本気で落としにかかれば落とせるとクリスは理解していた。

自分がその力を利用していればできたはずなのに、そうしなかったのは、それが結果的にエレナのためになると思ってのことだったのだ。

エレナを表に出さなければ、その分ケインのライバルを減らす事も、出足を遅らせることもできるし、言う事を聞いているふりをしておけば重鎮たちを大人しくさせることもできる。

エレナはケインと一緒に過ごす時間が欲しいから学校に行きたいのだから、それならその時間を自分が確保してあげればいい。

何より、ケインなら重鎮の親族などという肩書だけの者に劣ることはない、ケインなら必ず手を伸ばしてくれると信じていたからだ。

しかしエレナの希望を中途半端に聞き流した結果があれで、エレナの一番の信用は両親でも兄である自分でも無くケインにあると、今でもクリスはそう感じている。

学校での経験全てと引き換えに、先にあるものを手に入れるためという、自分勝手な判断でエレナに強要したのは自分も同じなのだと、あの時初めて気がついた。

ただそれはもう決定事項になった後だった。

だからエレナは絶望したのだ。

あの件に関しては後悔も大きい。

せめてエレナのためにできること、自分が、国が許可できる範囲でさせてあげたい。

それが自分にできる償いの一つだ。

けれど今、一番のエレナの願いに最大の危機が訪れている。

頼れるのはケインしかいないのだ。


「だからね。学校の件に関しては、そう打算的な考えで中途半端に動いた僕も同罪なんだ。本当は贖罪として表に出すことなく自分で抱えていく覚悟だったんだよ。もちろん、私の意見だからといって聞き入れられたかは分からないけど、エレナの気持ちを考えたら、自分がもう少し頑張ればよかったって、今でも思うことがある。過ぎてしまったものをやり直すことはできないけど……。もうそんな後悔はしたくない。だからこうしてケインにこの話をすることにしたんだ。そしてケインにはエレナに堂々と手を伸ばせるところに来てほしい」


クリスはそこまで言うと、ケインに頭を下げるのだった。

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