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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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芽生えた意識と変わらないもの

ケインの様子を伺っていたクリスはため息をついた。

幼い頃から兄弟のように長く共に過ごしてきたのだ。

ケインが本当に望むものを諦めて妥協していることくらい分かっている。

ただ、クリスがこの時想定していなかったのは、ケインがその感情を自覚したのが遅いという点だ。

クリスからすればケインが騎士学校に進学することを希望した時点で、エレナのためにそこまでしようと考えるケインは、この時点で明確に将来エレナを伴侶にすることを視野に入れていると思っていた。

まさかそれが叶うことはないからせめて側にいたいという一途な思いからの進学だとは思っていなかった。

ただ、今のケインにはクリスの考える欲が自覚できるくらいにはあるので、この時点での二人の認識の誤差など瑣末なことだ。


「あのさ、ケインがエレナをどう思っているかなんて、見てればわかるよ。当人のエレナを除けば王族の護衛騎士なら誰もが知っているんじゃないかな?」


護衛騎士に上がるメンバーは、それなりに三人の関係を知っている。

古参に至っては、幼い三人が仲睦まじく遊んでいるのを直接見ていたのだから、知らないわけがない。

それにクリスが学校に行く際、護衛の兼任という名目で側に置くよう指示したのは国王と王妃だ。

そしてその帰りに、クリスを送り届けるという名目で立ち寄ったクリスとエレナが面会できるよう配慮したのも当然彼らで、護衛騎士たちもその現場を第三者に見せないよう、二人から指示されて動いていた。

当然、護衛も兼任していたのだから、彼らがどのような仲なのか知っていて当然なのだ。

だからケインはそれを不思議に思うことはない。


「確かに私の気持ちは今も変わりません。それに彼らに隠す事もありません。ですがエレナ様がどうお考えかは大事だと思います。私がどんなに慕っても、エレナ様にその希望がなければ迷惑をかける事になるだけです」


ケインはエレナに対する気持ちに偽りもないことを、クリスにはっきりと伝える。

ただ、その気持ちに変化があったことは言い出せていない。

もちろん最初からエレナとクリスの側にいたいとは思っていた。

けれど今はエレナに対する気持ちが、友情の域を超えるものに変わってしまっている。

正確には、ずっとその気持ちがあったけれど、しっかりとそれが何かを、ここ最近の出来事で自覚してしまったというのが正しい。

自覚が芽生えてきてからも目を逸らしてきたけれど、側にいることでその気持ちが大きくなり、真剣に向き合ってみれば、感情の一部が醜いものとして暴走しないよう押さえるので精一杯になっていた。

ただその感情が表に出ればエレナの側にいられなくなる。

もしかしたらそれが原因でエレナから避けられるようになるかもしれない。

それが分かっているから、醜い部分を出さずにいられたというだけである。



パレードが襲撃された時、緊急事態とはいえ、久々にエレナの身体をしっかりと抱きしめた。

自分より小さく華奢なところは変わりないが、やはりお互い成長しているのだなと触れることで痛感する。

自分がエレナの身体にしっかりと触れる時、それはいつもエレナの命に関わる時で、そう考えると複雑だ。

そして、エレナと一緒に倉庫に籠った時の事を思い出す。

あの時の自分は子供だったけれど、今の自分はエレナの護衛騎士だ。

でも、できる事はあまり変わっていない。

ただ、エレナの側にいられる時間が少し延びた、それだけだ。

同時にそれ以上近付く事は許されないのだと実感させられた瞬間でもあったのだ。

襲撃事件の後に話をして、エレナが自分に相応しい相手になるべく努力してくれていた事を知って、嬉しく思ったのは間違いない。

そして抱いてはいけない感情がまだ自分の中にくすぶっていた事も、それが大きくなっていた事にも気付いてしまった。

同僚ではないけれど変な気を起してはいけない。

それが現実だ。

だから一度、向かい合おうとしていたものから、改めて目を逸らすことにしたのだ。


「エレナの気持ちか……。再度確認するまでもないと思うけど……」


クリスはそうつぶやくが、それでもケインが懇願できることは限られている。

立場上の限度というものがあるのだ。


「私は……私はエレナ様を守るために、その地位を獲るために努力したのであって、それ以上は望んでいません。早く昇格を目指したのも、私の求める位置が高いところにあり、そこに早く到達したかったからであり、今いる人を蹴落とすようなことをするつもりはありません」


自分が上がれば誰かが落ちる。

ケインも目的はエレナの側にあること、クリスと友人として話のできる立場にいられることだったのだから、昇進しようと努力してきた先輩を希望しない自分が蹴落としてはならないと考えている。

エレナの護衛についていた騎士たちとは異なり、彼らは間違いなく護衛対象であるクリスを守りきったのだ。

非のない人間が外されるのは好まない。

同時にその中の誰かが自分の代わりにエレナにつく可能性を考えると、それも気持ち的に納得ができない部分が大きい。

エレナが危険にさらされたこの現状において、エレナの護衛を増やすことはあっても減らすことはしないはずだ。

そして、今までの慣習から、次にエレナの護衛につく人間はクリスの護衛騎士から選ばれるはずだ。

そうなるとケインとクリスの信用する誰かが入れ換わるだけの人事となる。

新しく採用するのとは違って手間も労力もさほど変わらず、入れ替わった二人だけが環境に対応すればよくなる。

それでケインは表面上名誉職を得ることができるのだ。

しかし、クリスの護衛となって、再度エレナの側にいられるようになるのに何年もかかるくらいなら、それは今でなくてもいい。

それがケインの希望だ。

我慢と苦労を重ねてようやく近くにいられるようになったのに、わざわざ離れたところに異動したいとは思わない。

それに今回のようなことがあった時、近くにいなければ守る事が叶わない。

今も昔も変わらないのは、ケインにとって一番怖いのはエレナを失うことなのだ。

クリスとエレナと三人という希望はあれど、やはり優先順位はエレナになっている。

クリスを守ることが嫌という訳ではない。

むしろ、学生時代などは名誉だと思っていたくらいなのだ。

それなのに今、いくら昇進に興味が薄いとはいえ、大事な友人の誘いを、出世につながる道を自分で閉ざそうとしている。

そこまでしてエレナの側を離れたくないと考えていることに自分でも驚きながら、いかにエレナの存在が自分の中で大きいのか、ケインは改めて気付くことになるのだった。

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