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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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二人への期待

自分はこの場にいなくてもいいのではないかと思いながらも留め置かれている事に困惑する彼の隣で、ケインは珍しく動揺を隠せずにいる様子だった。

エレナも声は出さないものの、目を丸くしたまま動かない。


「エレナじゃないけど、外聞としては降嫁する可能性の高い王女殿下付きの護衛騎士より、この国を担う事の決まった皇太子殿下の護衛騎士の方が地位は高い。実際は一度私の配下に入れて、エレナの側においても問題ない事を確認しての配置が多いけれど、それを知っているのはごく一部だからね。それに今までの彼らには過去、私の護衛を任命された過去がある。でも二人の措置で前提は崩れているし、二人ともその経歴はないよね」


確かにケイン達はクリスの護衛騎士の経験なくエレナの護衛騎士に任命されている。

騎士団の中では異例の大抜擢だ。

ただ、王位継承順がこのお披露目ではっきりとした今、同じ王族の護衛騎士でも明確に差が出てしまう。

対外的にクリスが正式な次の王位継承者と公表された以上、仕方のないことだが、クリスとしては幼馴染みの彼の地位を引き上げたいということだろう。

表面上は褒賞だけれど、クリスとしては信頼のおける者を近くにおけるメリットがあるし、ケインが口にした事が真実ならば、ケインに損はないのだからそれを断る理由はない。

けれどそれをあえて確認したということは、ケインが断る可能性が高いと思ってのことだろうと、彼は冷静に分析しながら話を聞く。


「大変有り難いお申し出ではありますが、私は今の地位に満足しております。やっとこの場所までたどり着いたのです。ですから手放すつもりはありません」


ケインはクリスとルームメイトの考えた通り、その申し出を断った。

その答えを聞いたエレナは内心ほっとしながら、なぜクリスがそのような提案をしてきたのかを探る。

クリスが口に出したということは、そうすべきという意思があるのは間違いないと知っているからだ。

別に護衛騎士になったからといって、子どもの頃のように話せるようになったわけではない。

けれど、我慢に我慢を重ねてようやく落ち着いたところなのに、それを壊されたくない。

エレナだけではなく、ケインもそれは同じ考えだった。



昇進の申し出を断られたクリスだけれど、何か考えがあるようで、ここで諦めるつもりはないらしい。

けれどこの場で話を続けるわけでもないようだ。

確かに今のまま話を続けても平行線をたどるのは目に見えている。

クリスはその辺りの読みが鋭い。

エレナもだがケインも相当に頑固だ。

それに今回は報償の話をしているのだから本人が拒絶しているものを強制するわけには行かない。

しかし同時に、この先の事をケインと二人で話す必要がある事も感じられた。

タイミングはともかく、この提案を受け入れない先にあるものと、それによって上がる将来へのハードル。

二人がそこまで先の事を考えていないということは分かっているけれど、それを先延ばしにできない事案が目の前にあるのも間違いない。


「そう……。まあ、謙虚な二人からすれば急な話だし、驚かせることになってしまっただろうからね。ゆっくり考えてみてほしいな。君も、領地経営に興味があったら教えてくれる?何となくだけど、いい意味で面白い領地ができる気がしてるんだ」


彼はエレナに似ている。

目の前の問題に対して自由な発想で解決方法を模索していくし、柔軟な適応力もある。

彼の持つ自由な発想が、エレナが孤児院を変えたように、彼にも足せた領地を変革させると思っている。

そこから周囲の領地、最終的には国が良い方に変わっていけばと期待しているのだ。

そしてクリスはエレナにも同じ期待を持っている。

しかしクリスに領地経営を勧められた彼は、期待をこめられた言葉をかけられて恐縮しきりだ。


「は、はい……。それは今の職を辞することになったら考えたいと思います」

「気長に待っておくね」


とりあえず褒賞についての話はここで一度打ち切りとなった。

クリスもまだ片付けなければならない仕事が残っている。


「お兄様ありがとう」

「二人はエレナの命の恩人だからね。このくらいの事はさせてもらいたいと思っていたんだ。正式に決定するには国王の許可が必要だけど、私が通してみせるから」


まずは爵位の準備からだ。

新しい爵位を申請するための許可を得る。

幸いというべきか領地は不要なので、その準備は必要ない。

その他に調整する事といえば、授爵のタイミングくらいだろう。

これなら面会を申し込んで数時間の話し合いを別に持つ必要はない。

クリスも国王も多忙なのだから、よほどの事がない限り面会という形式は取らない。

雑談で済ませられるならその方がいい。

クリスが相談の手順を考えていると、エレナが黙り込んでいるクリスに声を掛けた。


「お兄様、その許可をいただく席に私も同席したいのだけれど」


エレナがそう頼むと、そのお願いをクリスはすんなりと受け入れた。


「そうだね。エレナに関係している事なのに、本人の知らない所で話を進め過ぎるのはよくないよね。じゃあ、夕食の時にでも一緒に進言しようか」


とりあえず今回の件についてはエレナが同席できるらしい。

クリスがエレナの悪いようにしない事はわかっているけれど、自分も、答えを聞く限りケインも配属に関しては現状維持を希望しているが、クリスが本気になればそのような希望など無視して話を進めることは簡単だ。

本当は勉強のつもりでその場にいたいと考えていたけれど、今はクリスが自分たちの意思に反した事を資源しないかを確認するためにいるべきだという意識が高まった。

エレナは栗栖の提案を受け入れると、また夕食でと言ってクリスの執務室を離れるのだった。



その日の夕食、家族揃ったその席で、クリスはエレナの護衛騎士たちの褒賞について切り出した。


「エレナの命の恩人についてなのですが、一人は授爵させたいと考えています。彼は領地不要で、騎士団にも残ってくれるそうです。もう一人は保留となっています」

「そうか」

「それで、授爵させるにあたり、許可をいただきたいのと、タイミングについてなのですが……」


こうしてとりあえず、クリスはケインとエレナの希望に反する事は言わず、話は、一人の授爵についてのみ進められた。

そのため、エレナは言葉を発することはなかったが、話しているところを自分の目で確認できたことが大きな安心になった。

しかしなぜ、突然クリスはあのようなことを言い出したのか。

その部分だけがしこりとなって、エレナの中に残ったのだった。

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