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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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護衛と褒賞

皇太子殿下たちはクリスのお土産の準備ができたところで、帰国することになった。

エレナから提案され、クリスが準備したお土産が出発前の馬車に届き、乗せられるだけ持っていけばいいと渡され、その事を事前に聞いていた彼らは、できる限りそれらを荷として積みこんでいく。

少しでも役に立てたのならよかったと、荷物の積み込みの様子を離れた場所から見ていたエレナは思いながら、つ見込みが落ち着いて出発の時間になるとお見送りに出た。

二国の皇太子は笑顔で握手を交わすが、そこに昨日までのようなやりとりはない。

国のために駆け引きをしていても、結局この二人は友人として互いをそれなりに信用しているのだ。

そんな二人のことも、やはり少し下がった位置からエレナはブレンダと並んで見ていた。

するとあちらの皇太子は自分たちを見ている視線に気づいたのかその場で軽く頭を下げた。

近付いてきて何か言葉を交わすことになるかと思っていたが、この日の皇太子の接触はこれ以上なかった。

ちなみに例の女性騎士はかなり後方からその様子を見ていた。

エレナはそれが職務上のものだろうと気には留めなかったが、クリスやブレンダは彼女に対して何らかの対処を行ったものと解釈した。

そのため彼女とは挨拶を交わすことすらない。

ちょっとしたアクシデントがありながらも、クリスのお披露目のために集まってくれていた最後の客人たちは、こうして帰国の途についたのだった。



客人を送り出し、一息ついたところで、おなじみになった二人の護衛騎士にエレナは声をかけた。


「ねぇ、二人に聞きたいことがあるのだけれど」

「何でしょうか?」

「先日、私はあなた達に助けてもらったでしょう?何か報奨を出したいのだけれど、どんなものがいいかしらと思って、悩んでいるの。何か欲しいものとかないかしら?品物でも地位でもいいの。できる範囲なら交渉するつもりよ」


本当なら普段の彼らを見て、自分で考えて、自分の与えたいものを与えて満足していればいいものなのだが、エレナは欲しいものがあれば、それを褒賞にしたいという。

いかにもエレナらしい質問に、思わず二人は無言で顔を見合わせた。


「いえ、特別なことは必要ありません。当たり前のことをしたまでですから。それにそれができなかった者たちは処分されているわけですし……」


ルームメイトがあの場面を思い出しながら言う。

もうかなりの時間がたってしまったように感じているが、実はあれからまだ数日しか経っていない。

事件も解決には至っておらず、ようやくすべての客人を送り出したのだから、本格的な取調べなどはこれからというところだ。

職務を放棄した彼らだってあの場の空気にのまれただけで、冷静な判断力があればあのような事はしなかったと思っている。

けれどそれが仕事であるにもかかわらず冷静さを失ったのだから、罰則というのはいきすぎだろうが、ある程度高い地位にいるものは見習いからやり直せといわれても仕方がない。

そうして早々に決まった処分を受けている同士がいるのに、当然のことをして、幸いにも結果を残しただけの自分が褒賞を受けるというのは少し抵抗がある。

一歩間違っていたら、自分は向こう側の人間だったかもしれないのだ。


「そうだけれど、これは私の気持ちの問題なの。今回の件はいずれ知れることかもしれないけれど、騎士団のことがあるから、あなた達が私を守ったという名誉を公に評価してあげることができないの。だからせめて、できることはしたいと思っているわ」


この件は公にすれば騎士団の失態が明らかになる。

あれは偶然にも市井で起こった事だし、見ていたのも一般民衆がほとんどだ。

あの行動が騎士の失態である事に気づく者などいないに等しい。

また、今回は騎士団の問題を公にしないことになったので、彼らの功績も公にはできない。

だからその分を褒賞として上乗せしたいというのがエレナの希望で、その範囲で叶えられるなら、本人の希望を優先したいのだ。

先に質問を返した護衛騎士にそう伝えると、彼は首を横に振った。


「お気持ちは嬉しいのですが、私は今の自分が想像以上の場所にいる実感がまだないくらいです。新人で入ってそのままエレナ様の護衛にすぐ就くことになるとは思っていませんでしたし、それが異例だったのですから、このくらいして当然です。先に報奨を頂いていたようなものですから」


自分は運が良かっただけだ。

偶然ケインと同室で腐れ縁のようになり、親しくなったからなんとなく受けた王宮騎士団の試験に共に合格して、ケインのそばにいたからこうして目をかけてもらえたのだと思っている。

この偶然はすべてケインにもらったものだし、近衛騎士というだけで周囲は驚くほど自分を高く評価してくれている。

これが名誉と言わずして何なのかと思うほどだ。



「ねえ、ケインはどうなの?」


彼から意見を引き出せないと判断したエレナは、もう一人、それを受けるべき相手のケインに話を振った。

けれどケインも彼と同じように首を横に振るだけだ。


「私もです。こんなに早くこの地位まで上がれるとも、こうして顔を合わせて話ができる日がこんなに早く戻ってくるとは思っていなかったので……」


目的は達成してしまったとケインはその言葉を飲み込んだ。

自分は今、当初の目的通り、エレナの騎士となった。

そうして仕事とはいえ、堂々とエレナの側にいられて、クリスと話のできる立場を手に入れた。

もうクリスが影でエレナを呼び出して逢瀬を重ねる必要はないのだ。

それだけで充分満足している。

そのために努力をしてきたとはいえ、これ以上何かを望んでいいものなのか。

むしろここで欲を出したらせっかく今まで積み上げてきたものが一瞬にして崩れてしまう気すらする。

だったら何かを望むより今の環境が維持される方がいい。

だからここでエレナと距離を縮めようと焦ったり、余計なことをするべきではない。

ここまで何年も積み重ねてきたものを壊さず、距離が近付いたからこそより慎重に。

ケインにはそんな考えがあったのだが、エレナそんなことに一切気付いていないらしく二人を見て目をぱちぱちしながら本気で褒賞について悩んでいた。


「とりあえずお兄様にも相談していいかしら?そうするとあなた達の希望するものではなくなってしまうかもしれないのだけれど……」

「進言いただけるだけで十二分な配慮です」


彼らがそう言って頭を下げると、エレナは自分で決められない不甲斐なさを感じながら、ため息をつくのだった。

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