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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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見えないライバル

エレナが調理場でおぞましいものにナイフを入れている頃、クリスとケインは学校で雑談をしていた。


「ケイン、例のブレンダとのお茶会なんだけど、近々やることになると思うんだ……」


そろそろ直近の警備予定が決まるため、それに合わせて行われるお茶会の日取りも決まるとクリスは説明した。


「わかりました。直近の予定はすべてあけておきます」


ケインに参加しないという選択肢はない。


「ありがとう。学校の帰りによってもらう形でいいかな」

「はい。その方が助かります」


これで段取りは終わったと、クリスは大きく息をついた。


「あの、クリス様……」

「どうしたの?」


ケインは懸念していたことを尋ねることにした。


「以前、ブレンダ騎士の話をされた時、私が苦手なタイプだと言われましたが、どのような方なのかと思いまして……」


ケインが苦手でも、エレナが好む相手と言われてから気になって仕方がなかった。

仮に苦手だとしても、エレナが好きなら彼女たちが楽しそうにしているところで嫌な顔はできない。

もし本当に自分が受け付けられないような人間だというのなら、その覚悟や準備をしておきたいと考えたのだ。


「そうだね……女性の憧れる男性を体現した女性みたいな人なんだけどね。美形だから許されるだろうことをやらかす男性みたいな感じなんだ。おそらく女性側もブレンダが女性だから騒いでいるんだと思うけど、世の男性からみたら気分は良くないかなって思う」

「男性よりモテるから……ということでしょうか?」

「一般的にはそれもあるけどね、これは見てもらわないと説明が難しいかな……」

「そうですか……」


とにかく男性が受け付けにくい人物だということは理解できた。

実はケインにはもう一つ聞きたいことがある。


「ちなみに、彼女の騎士としての能力は……」

「そうだね……騎士団長の判断だから私にはわからないところも多いけど、腕は立つし、周りをよく見ていて気遣いが細やかだね。男性の気づかないような異変を察知したりするって聞いているから、優秀なことは間違いないと思う。どうしたの?」

「いえ、私は目標を近衛騎士と決めていますから、男性の多い場所で女性がその地位にのぼりつめるのは大変なのではないかと思ったのです」


性格はともかく、尊敬できる人物かどうか、自分より勝る人間であるかどうかは知っておきたい、ケインはそう考えていた。

たとえ苦手な人物だとしても、尊敬できる部分が見えれば負の感情をそれで覆い隠すことができるだろう。


「そうだね、申し訳ないけど一般の騎士よりは格段に腕が立つし、能力が高いのは間違いないよ。頭の回転が早いんだ。そこに美形で女性にモテるから、騎士団では妬むものも多いみたいだけど、まあ、彼女は自分でねじ伏せて歩いているようだね」


彼女の周囲にいる騎士は近衛騎士のはずだ。

それをねじ伏せるとは恐ろしい力を持つ女性に違いない。

迂闊に変なことを口走ったら自分もねじ伏せられてしまうのだろうか、そんなことが頭をよぎった。


「ケイン、今回はあまり話をする機会はないと思う。基本的にはエレナとブレンダ、私とケインでお茶をする形になるからね。でも長く見ていると辛いかもしれないから辛くなったら言ってね」

「わかりました……」

「それと……」

「なんでしょうか?」

「ケインが来ることエレナには伝えていないんだけど、伝えたほうがいいかな?いつも送ってもらっているから、何も言わなくても参加するのは自然な流れだと思うんだけど」


どうしたい?と首を傾げるクリスが求めている答えをケインは理解している。


「わかりました。エレナ様には当日まで内緒にしておきましょう」


ケインがため息をついてそう答えると、クリスはにっこりと微笑むのだった。



学校が終わり、自分の家に戻ったケインはもうすぐ来るであろう騎士との対面について色々考えていた。

今回は別に騎士と話をするために呼ばれているわけではない。

夜会でいうなら壁の花でも蔦でもそこにある置物にでもなっていればいいという立場だが、どうしても二人の関係が気になってしまう。

ケインがエレナにできることは限られている。

それどころか接することに制限をかけられている状態である。

近くにいたいと努力を続けながら、年齢が上がるにつれてエレナの存在が遠くなっていくことに焦燥感を覚える。


「クリスやエレナの周りには本当に優秀な人材しかいないんだな……」


いつか言われた優秀な人材にならなければ二人の側にいることができなくなると言われた父親の言葉をぼんやりと重なった。

そしてなぜか男性の護衛騎士よりも今はブレンダのことが気になってしまう。

おそらく今まで空気のように扱っていたはずの護衛騎士に、エレナが興味を示したという事実が受け入れ難いのだろう。

エレナに女性の友達を作るために開かれたお茶会ではそんな気持ちにはならなかった。

むしろ、友人が増えることはいいことだと思っていた。

そうしてお茶会が成功したと聞いた時は普通に嬉しかったし、彼女たちとまたお茶をする企画を王妃様が考えていると聞いても何も思わなかった。

しかしなぜか護衛騎士という立場の彼女と仲良くなると考えるだけで気分が悪くなる。

もしかしたら、エレナが他の護衛騎士にも同じように目をかけるようになり、その姿が想像できてしまうからなのだろうか?

護衛騎士と調理場のメンバーのように親しくなってほしくないだけなのだろうか?

自分がそこに到達できない間にエレナの側に寄り添う人間が現れることが怖いのだろうか?

かすかにしか記憶にない女性騎士のことを考えれば考えるほど、その存在はとても大きなものに感じられる。

そしてそのようなものがエレナの周りにたくさんあるのだということが不安でたまらない。

クリスではないが会ってみればわかるのかもしれないとも思う。

だが、それまではこの見えないものに対する不安を抱えていなければならない。

そして考えてしまうのだ。

いつか、ではなく、できるだけ早く、せめてそういう人たちと対等の立場にならなければと、考えれば考えるだけ焦りが増していく。

もちろん段階を踏まなければならないことはわかっている。

冷静な自分と、焦っている自分が、頭の中をぐるぐると回って、交互に意見を述べてくる。

結局、ケインは答えを出せないまま、その日はなかなか寝付けない夜を過ごすのだった。


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