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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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女性騎士の立場と究極の選択

「あなたは皇太子殿下の護衛で同行されていたのですよね、ご一緒にいなくてよかったのですか?」


隣の部屋に移動してすぐ、人払いの対象になったエレナとブレンダについてきた女性騎士にブレンダが尋ねると、彼女はうなずいた。


「それに関しては問題ありません。他の者が残りましたし、殿下は国で一番お強いと言っても過言ではありませんから、最悪一人になってもご自身で何とかするでしょう」

「それは随分と……」


敬意があるのかないのか分からない。

この国では許されない行為だが、彼の国では護衛などいなくても生きていけなければならない過酷な環境なのだから、それが当たり前ということらしい。

ブレンダが難しい顔をしていると女性は付け加えた。


「そもそも我が国の王は、この国とは異なり世襲ではありませんので、もし現皇太子殿下に何かあれば次に実力のあるものが上に立つだけです。人材には困っておりませんので、お気になさらないでください」


文化として実力のある人間が上に立つ国だということは知っていたが、いざそれを目の当たりにして話に聞くと、本当に実力主義が徹底されているのだと驚く。

現皇太子殿下は、現国王の息子の一人という事もあり、武勲をあげているとはいえ、そう見せかけているのではないかという声も聞かれていた。

しかし今の話だと、彼らがいなくなっても実力のあるものが繰り上がるだけというのだから、彼らは現国王達の実力を認めているだけで、他に思うところもないようだ。

逆に現国王が、息子にその座を譲ろうとするなら、並大抵の努力ではだめだということだ。

途中で現国王が戦死したり、息子が幼く実力がない状態であれば、次に実力のある者が国を治めるし、その息子が国王になりたければ、実力でその地位を奪い返さなければならないということだ。

けれどその地位の争いを国内で行う必要はない。

戦があるのだから、そこで武勲を上げればいいのだ。

そうすることで、貴族も民間人も王を認める。

実力のないものが王を名乗っても、周囲から認められず排除されるだけだから、内部で勢力を競うことが無意味であると国民皆が知っているのだという。

そういう意味では、戦争はあれど国は一つにまとまっているし、戦争というものがあるからこそ、大国が分裂する事もなく一つにまとまっているとも言えるだろう。


「そう。だから皇太子殿下は危険だから部屋にいてほしいとお願いしたのに、先日、自由に動き回っていたのね。こちらとしては動かないでいていただいた方が助かったのだけれど」


二人の話を聞いていたエレナが女性をじっと見てそう言うと、彼女は少しひるみながらも、それを見せないようにしながら答えた。


「無礼を働いた旨は謝罪いたします。しかし一刻を争うと判断されたようで……」

「わかっているわ。私もあの場で話をさわりだけ聞いていたもの。今日はお兄様とその話を改めてなさるようだから、私は退出してきたのよ」

「お気遣い痛み入ります」


エレナが怒っているわけではないと言うと、彼女は皇太子殿下の代わりに再び頭を下げる。

そんな彼女にエレナは頭を上げるように促すと、彼女をじっとみて言った。


「それより、私についてきたということは、今のあなたは護衛業務から開放されているのでしょう?立ち話もなんだから座ってちょうだい。お茶を入れるわ」


そう言って微笑みかけるエレナに、目を丸くしながら彼女は首を横に振った。


「いえ私にお気遣いは……」


彼女が自分はこのままでと答えると、エレナは小首を傾げた。


「あなたはうちの騎士たちと同じように言うのね。騎士ってみんなそうなのかしら?」


せっかくお菓子もあるし、他国から来た女性騎士と話ができると部屋に連れてきたが、これではゆっくり話ができる感じがしない。

エレナは彼女を客人として扱うつもりだったが、彼女はどうやら違うらしい。

それならばなぜここに来たのか。

エレナがそう口にしようとすると、ブレンダがため息をついた。


「それはそうですよ。規律を守るのも騎士の役目です。彼女は現在、護衛はしておりませんが、騎士としての任務中ではありますから、躊躇されるのは仕方がないでしょう」


今は皇太子の婚約者という立場だが、彼女の気持ちは痛いほどよくわかる。

うちに騎士たちもクリスの許可がなければお茶を提供されても絶対に口にできなかっただろう。

現に一度、エレナと軽々しく接し続けた騎士が出世の道を遅らされている。

実力主義の国で他国に同行できるくらいの人物なら、この国の作法は学んでいるだろうからなおさらだ。

ブレンダはこの状況で即、エレナの言葉に甘えてしまうようではいけないと判断できることに、彼女の優秀さを感じていた。

だから思わず彼女を擁護してしまったが、エレナは引かない。


「そう。でも座ってほしいわ。そうしないのなら、落ち着かないから出てもらうことになるけれど」


するとエレナは彼女にとっては究極の二択を出してきた。

エレナはこうすれば彼女が座る方を選択してくれるだろうと思っているが、エレナの性格をよく知らない彼女からすれば、どちらが正解か判断できないだろう。

この国でそう促されたからといって従えば無礼となる可能性がある、けれどここで指示に従わず外に出されるようなことになれば、今度は自国から何をしているのだと詰問される。

無礼になっても、詰問されても彼女からすれば評価を下げることにしかならない。

だから評価が下がらない方を選択、あわよくばこのままという自分のを容認してほしいと思っているのだ。

ブレンダには彼女の葛藤が手に取るようにわかった。

けれどエレナがここで引くわけがない事もよくわかっている。

その様子を伺いながら、エレナの希望を優先した方がいいと判断したブレンダは、彼女にそれとなく言葉をかけた。


「大丈夫です。お座りください。エレナ様は心からあなたにお話を伺いたいだけなので、ここでお茶をしながらお話をして、後からとがめられることはありません。何か言われたらエレナ様からだけではなく、私からも口添えします。きっと彼の国の皇太子殿下もそのつもりであなたを同行させたのでしょうから」


ブレンダが無礼だと咎められるようなことがあれば、そうではないと言ってくれると聞いた彼女は安堵のため息をついた。

王女殿下を相手にどうしていいか分からなかったが、皇太子妃がその道を示してくれた。

それならばそこに従えばいい。


「わかりました……。皇太子妃様にまでそうおっしゃられてはお断りできません。では失礼いたします」


ようやく彼女を着席させると、続いてブレンダが彼女の正面に座る。


「お兄様のいる部屋においてきたお菓子と同じものだけれど、用意するわね」


エレナは二人が座ったのを確認すると、自分は座ることなく少し離れたところにあるワゴンのところへ移動した。

お菓子はすでに乗っているので、後はお茶を入れれば提供できる。

エレナはワゴンの上のものを確認すると、不足はないからと使用人たちに退席を促し、手慣れた様子で準備に取り掛かるのだった。

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