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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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お茶会の報告

無事に王妃主催のお茶会を終えて、調理場はやる気に満ち溢れた料理人で活気付いていた。

決まってもいない次のお茶会の事を考えて、すでに新作を考え始めている者もいるほどである。

そんなところに何か手伝いをしようと調理場に顔を出したエレナは、料理人たちに座るように促され、お茶とお菓子でもてなされていた。

急なもてなしに困惑しながらも、目の前に出されたお菓子をほおばっていると、ほどなくして一仕事終えた料理長が手を止めて、エレナの元にやってきた。


「みんなが頑張ってくれたお菓子が好評で、そのおかげで話をつなぐことができたのよ」


エレナは早速やってきた料理長にお茶会の報告を始めた。

料理長もお菓子や飲み物を会場まで運んだため、どのような会が行われたのかは分かっているが、長くその場にいるわけではないため、会話の様子までは分からないままだったのだ。

エレナと料理長が話をしている間も他の料理人たちは楽しそうに話をしながらせっせと仕事を続けている。


「こうして料理人がやる気になったのはエレナ様のおかげです」


動き回る料理人たちを指して料理長は言った。


「私は何もしていないわ。それにお茶会のことを料理長に相談したのは私の方よ?」

「ですが、皆のお菓子をデザートとして夕食に振る舞いたいとお話しくださったのはエレナ様ではありませんか。あれで自分たちが作ったものがお世辞ではなく良い評価を得られたと自信を持つことができたようで……」

「夕食で出してほしいっていうのも私が言いだしたことだもの。もし許可が出ていなかったら、私の分だけ出してもらって、皆においしいのにもったいないって見せつけてあげたかもしれないわ」

「そう言っていただけると皆喜びます。それにそのおかげで、すでにいくつかのお菓子はお客様へのお茶菓子として提供したいとご連絡をいただいているのです」


笑顔で料理長がそう言うと、エレナは続けた。


「まぁ!じゃあうまくアピールできたってことね。お父様もお母様も何もおっしゃらないから、もう注文を入れているなんて知らなかったわ」

「そういうわけで、努力が評価された者は、実際の依頼につながっているので、次は自分がと切磋琢磨しているのですよ」

「じゃあ、また新しいおいしいものがたくさん食べられるのね。楽しみだわ!」


エレナは手伝いのことなど忘れて目の前のお菓子を食べながら笑顔でそう答えるのだった。



「ところでエレナ様、今日は何かご用があっていらしたのではないですか?」


調理場に来たエレナの、お手伝いをしたいという申し出を断った際、相談があると言っていたことを思い出した料理長が尋ねた。


「そうだったわ。実はね今度お兄様たちとお茶会をすることになりそうなの。今度は私も作り方を覚えたいから一緒に作らせてもらえないかしらって思って相談に来たの。お兄様はこの間のお茶会に出ていないから、同じものでもいいのだけれど、今回はたくさんのお客様をお招きするわけではないから、種類や材料を少なくしたり、私にも作れるように、作り方を簡単にしてもらえたらと思ったのだけれどどうかしら?」

「クリス様とお茶会でございますか」

「ええ。お兄様と、お兄様の護衛騎士様も一緒に。一度お話して、とても楽しい方だったから、今度はゆっくりお茶をしながら話したいと思ったの」


料理長はエレナとクリスと護衛騎士がテーブルを囲んで談笑する様子を思い浮かべて複雑な気持ちになった。

お茶をする相手がブレンダだと知らない料理長の中では、一緒にテーブルを囲んでいる護衛騎士は男性のイメージである。

そして、話に出てこないところを見ると、その場には参加しないと考えられる一人の青年の姿が同時に浮かんだのだ。

そんな考えを振り払うように料理長は仕事モードで話を進めた。


「そうでございましたか……。では、その騎士様の好みなどは……?」

「残念ながらわからないのよ。お兄様も一緒に食事をするわけではないからわからないというの。でもお兄様はお茶会のお菓子が気になっているみたいだったわ。他のものは夕食に出してもらったけれど、お茶会のお菓子は私とお母様しか食べていないもの」


夕食に並んだのはお茶会の候補から落選したお菓子たちで、当日並んだお菓子は試食、当日とも、食べたのは王妃とエレナだけなのだ。


「そうですね。ではお茶会のお菓子と同じものにいたしましょう。エレナ様に気に入っていただけてのリクエストですからきっと喜びます」


調理場の奥で聞き耳を立てていた料理人は密かにガッツポーズをしていたが、二人はそんなことも知らず話を続けた。


「エレナ様、騎士の方は運動量が多い分、量をたくさん召し上がるかもしれませんので、多めに作った方がよろしいかもしれません」

「そうなのね。三人で食べるから一度で焼けるかと思ったのだけれど、二度に分けて焼かないといけないということかしら?」


貴族女性に振る舞ったお菓子の量で問題ないと考えていたエレナは少し考えてそう言った。

クリスは男性でも小食な方だが、ブレンダがどのくらい食べるのかは分からない。

女性でも、体を動かしている人ならばきっとたくさん食べるのだろう。

それにお茶の時にお菓子がなくなる方が問題だとエレナは思った。


「そうなりますね」

「わかったわ。できるだけ早く来て、準備をしようと思うわ。じゃあ、日取りが決まったら連絡するわね。たぶんお兄様が学校から戻ってからの時間になるはずだから、今回は時間があると思うの。公式のお茶会ではないから、朝から着飾る必要もないし」


時間が足りなければそのまま出られるよう、頭にかぶるハンカチは色つきのかわいい刺繍のものに、それに合わせて動きやすい服を選べばいいとエレナは当日の服装を考えながら言った。


「なるほど。では当日、円滑に進められますよう、準備しておきます」


料理長は男性の騎士が食すお菓子の量と、材料の分量を考えながら返事をした。

こうしてお互いの考えが少しずれた状態のまま、お菓子作りの話はまとまった。

焼き菓子の場合は残っても保存や持ち帰りが可能なので問題はない。



「いつもありがとう。お願いね」


エレナはお菓子とお茶を完食すると、そう言って立ち上がった。


「かしこまりました」


料理長が頭を下げると、エレナが食器を洗うために運ぼうとする。


「ああ、エレナ様。こちらは私たちが片付けますので……」

「そう?もうお母様のお茶会も終わったのだからこのくらいは自分で片付けた方がいいと思ったのだけど……」


運ぶために重ねた食器を両手に持って首を傾げたエレナから料理長は食器を受け取った。


「エレナ様が働きものなのはよくわかっております。ですが今日は皆が喜ぶ話を運んでくれたお客様ですから、こちらは私が」

「……わかったわ。でもお客様扱いだと寂しいから、次はまた一緒にお仕事させてちょうだい」


言われるがままテーブルについてお茶をしていたが、本当は何かしたくてうずうずしていたらしい。

本当に良い弟子ができたようだと料理長は笑顔を浮かべた。


「わかりました。またお手伝いをお願いいたします」

「ええ。明日はお手伝いをするために来るわ」


エレナはそう言い残すと調理場を後にした。

奥の方で慌ただしくしていた料理人たちはいつの間にか仕事を終えていて、料理長と同じようにエレナの背中を見送っていた。


エレナの姿が見えなくなると、料理人たちは奥から出てきて料理長に言った。


「あの、明日は……」

「明日がどうかしたか?」


料理長は自分が何か忘れているのかと声をかけた料理人に聞くと、料理人は恐る恐る続けた。


「いえ、明日は例のものが届く日です」


例のものと言われて、料理長はすぐにそのものを思い浮かべた。


「ああ、そうだな。そしたら、明日の作業はいつもより早く終わらせないといけないな。片付けまでをいつもの時間で終わらせるようにしないとエレナ様がいらしてしまう。皆、明日は全力で頑張ってくれ」


料理長がそう声をかけると料理人たちは元気に返事をした。


「仕事も落ち着いたようだから夕食の準備までは休憩だ」


料理長がそう伝えると、調理場にはすぐに雑談をする料理人たちの声が響いた。

いつもは早く仕事が終わることがなく、皆が一斉にこの時間、休憩をとることはできない。


「今日はエレナ様が来ていたから皆頑張ったみたいだな」


料理長はそうつぶやくと、エレナから受け取った食器を洗いはじめるのだった。

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