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庇護欲をそそる王子様と庇護欲をそそらないお姫様  作者: まくのゆうき


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クリスと女性騎士

エレナにブレンダのことを聞かれてから、少しナーバスになっているクリスは、時間ができるとため息ばかりつくようになっていた。


「どうされましたか……?」


ケインが声をかけると、クリスは少し困ったような顔をして言った。


「たいしたことではないんだ。ちょっとエレナがね……」

「エレナ様がどうかされましたか?先日のお茶会はエレナ様が選んだお菓子が好評だったと噂で聞いておりますが……」


お茶会の話は参加した女性たちから回り回って耳にしていたケインだが問題はなかったと聞いている。

お茶会の成功を喜んでいるのかと思っていたがそうではないようである。


「うん。お茶会は大丈夫だったみたい。今回呼ばれた子とは、お友達と呼べるほど親しくなったわけではないけれど、また彼女たちもエレナの相手をしてくれそうだから、時々同じような形式のお茶会を開こうってお母様は考えているみたいだし」


それならばむしろ大成功なのではないかとケインは思った。

ではいったい何に悩んでいるのかとケインは尋ねた。


「ではどうされたのですか?」

「エレナがね、僕の護衛の一人を気に入っちゃったみたいなんだ」

「護衛騎士をですか?」

「そう」

「それは……」


ケインは思わずクリスから視線を逸らした。


「まあ、ケインが心配するようなことはないから安心してほしいんだけど、またちょっと違う方向にエレナが走っていってしまう気がして心配なんだ」

「そう……ですか。……それでその護衛というのは……?」


目を合わせることはできないが、非常に気になる。

動揺したままケインは尋ねた。


「ああ、ケインは知ってるかな。ブレンダのことなんだけど」


ブレンダという名前を聞いて少し考えて、それっぽい人の顔を思い出した。

ケインは当たっているのか不安に思いながらクリスに確認する。


「……女性に人気の高い女性騎士ですね」

「そう。お茶会でその話題が出たらしくてね。エレナに知られてしまったんだよ」

「それで?」

「それで会わせてほしいってせがまれて」

「ご紹介したのですね」

「そうなんだ」


クリスは、どうしようかしらとでも言いたげに首を傾けた。

そんなクリスのかわいらしい仕草は相変わらずクラスの空気を和やかにしていた。

クラスメイトは離れたところから二人の様子を見守っており、もはや誰も邪魔する者はいない。

クリス本人は本気で悩んでいるのだが、手を差し伸べるよりも、その姿をずっと見ていたくなるらしい。

そうして鑑賞されることにもすっかり慣れたクリスは、周囲のことを気にすることもなくケインと話を続けた。


「そんなわけで先日エレナと彼女を会わせたんだけどね、エレナは彼女が気になるらしくて……」


そう言いながら頬に手を当ててため息をつく。

つまりエレナはその護衛騎士とすでに面識があり、直接話をした結果、気に入ったということである。


「……エレナ様はあのような方が好みなのですか?」


ケインも彼女と話をしたことはない。

ただ、遠くから見ても人目を引く麗しい容姿で、動作も優雅、正に美しい騎士という言葉は彼女のためにあるのではないかと言われているくらいである。


「たぶん違うと思う。ただ、とてもさっぱりとしているし、面白い人だからね」

「……」


ケインが彼女の容姿から面白いという言葉にはなかなか蒸すにつかずに困惑していると、クリスが提案した。


「ケイン、今度彼女が警護につく時、一緒にいてくれないかな。ちょっと居心地が悪くてどうしていいかわからなくなってしまうから、私の相手をしてほしいんだ……。あと、できればエレナが変な気を起こさないよう一緒に目を光らせてもらえたら嬉しいかな」


ケインが気にしているのを察したようにクリスが言った。

もともと気にさせるような言い方をして、断れないようにしているが、そんな事とは知らず、ケインはその気遣いに感謝しながら返事をした。


「……かしこまりました。そういうことでしたらぜひご一緒させていただきます」

「いつもごめんね」

「いいえ。私も少し気になりますから……」


いずれは顔を会わせるのだから、機会を作ってもらえるのならそこで会っておくのもいいとケインは思った。

彼女は後に自分の先輩になるかもしれない人物である。

エレナとブレンダがメインのお茶会だというが、もしかしたら騎士に関する話も出てくるかもしれない。

そんなことを考えていて、ふと気がついたことをケインは口に出した。


「そういえばクリス様が彼女を伴って学校に見えたことはないような気がします」


学校に来ていれば何度も顔を合わせているはずだが、学校についてくる護衛騎士はある程度決まっている。

時々入れ替わることもあるが、それも知る限り男性だ。

ケインの疑問にクリスは苦笑いをしながら答えた。


「そんなことをしたら、大騒ぎになりかねないよ。警護をそっちのけにすることはないかもしれないけど、彼女には不思議と人を集めてしまう力があるからね」

「なるほど」


確かに女性に人気の女性ということであれば、彼女の周りには多くの女子生徒が集まるかもしれない。

生徒の素性は知れているし、彼女自身は自分の身を守ることができるかもしれないが、クリスから目を話す時間が他の護衛より長くなる可能性が否定できないのだ。


「だから、視察なんかの時は助かっているよ。いい意味で目立つし、人目を引いてくれるから、視察先の人の印象に残りやすいみたいで、視察がなかったことにならずに済むんだ。しかも彼女がいると皆が気さくに話しかけてくれるし、情報を得やすいんだ」


クリスだけでもその愛らしさで目立つのだが、クリス自身は自分という人間は他に比べると印象が薄いと感じているらしい。

実際はブレンダが横にいると、性別の逆転した王子と姫のような状態で相乗効果が高いだけなのだが、クリスからすればブレンダが引き立ててくれるようになってから、より公務が行いやすいと感じているようである。


「気さくな方なのですね」


麗しいけれど高貴すぎて話しかけにくい、むしろ信仰の対象として拝まれるクリスに対して、ブレンダは手を伸ばせば届く気さくな貴族という感じなのだろうとケインは思った。


「うん……。ケインは苦手だと思う。だから私の話相手をしていてくれたらいいよ」


この時ケインはこの言葉の意味を理解できていなかったが、黙って首を縦に振った。



こうしてクリスが話をしたことにより、エレナとブレンダのお茶会にはケインも参加することになった。

肝心のエレナにはまだ何も伝えていないが、ケインを大好きなエレナが嫌がることは考えられない。

何とか自分の話相手と、エレナを見張ってくれる心強い味方を得たクリスは、少しホッとするのだった。

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